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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

お知らせ。

【小説インフィニットアンディスカバリー第二部】LastUpdate:10.02.05
 第八章、第16話から第19話を公開しました。
 次回で第二部は完結です。どうぞよろしくお願いします。

【第二章】プロローグ
 第五章 01/ 02/ 03/ 04/ 05/ 06/ 07/ 08/
 第六章 01/ 02/ 03/ 04/ 05/ 06/ 07/ 08/ 09/ 10/
     11/ 12/ 13/ 14/ 15/ 16/
 第七章 01/ 02/ 03/ 04/ 05/ 06/ 07/ 08/ 09/ 10/
 第八章 01/ 02/ 03/ 04/ 05/ 06/ 07/ 08/ 09/ 10/
     11/ 12/ 13/ 14/ 15/ 16/ 17/ 18/ 19/

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念願のiMacを手に入れたぞ。 

「欲しいソフトがあったなら、本体ごと買えばいい」というのは、ゲームをやるものなら一度は聞いた事のある格言(?)ですが、それはなにもゲームに限定された話ではありません。
 iPhoneを買って以来、ひそかに購入計画を立てていた例のブツをついに手に入れました。


 iMacです。少しお安く手に入れられる機会があったので、衝動的に購入してしまいました。
 さようなら×10、諭吉くん。
 はじめまして、林檎ちゃん。

 理由はいろいろあります。
 デスクトップカスタマイズをしている過程で、Macのデザインの良さを知ったこと。
 配線でごちゃごちゃしていたPCにいい加減うんざりしていたこと。
 iPhoneを触って、Appleの作るUIの機能性やらデザインが優れていると感じたこと。
 どれも購入の動機ですが、それだけじゃ、たぶん買わなかったと思います。購入したのはあくまでソフトのためでした。それがこれ。


 『Scrivener』という、小説を書くために作られた文章作成ツールです。左にアウトライン、右に概要とメモ(テキストでもPDFでも音声でも貼り付けておける)を表示しておけて、中央にエディタが鎮座するという3ペイン形式のこの画面を見た瞬間、自分の創作方法にぴったりはまるツールだと感覚的に理解してしまい、いても立ってもいられずに本体ごと買ったわけです。作者自身、自らが小説家になるために作ったものらしく、なるほど、必要なものがよくわかっているなと。
 30日間の試用期間があるので、その間に操作方法をいろいろ勉強中。本格的に使うようになるのは次回作からになるかと思います。試用期間が終わるころにレビューでも書いてみるかもしれません。


 というわけで、人生初のMacOSとただいま格闘中でございます。フォルダの構造やインストールの作法といった初歩の部分からWinとは異なることも多く、悪戦苦闘していますが楽しいです。Macはフォントが美しくていいですねぇ。綺麗に並んだ文字を見ているだけで、なんだかドキドキしちゃいますw

 文章作成に必須の日本語入力支援にも「かわせみ」というMac向けのIMを入れてみました。こちらも試用期間が30日あるので、そこで判断して、標準の「ことえり」で行くか、「ATOK」を入れるか決めようと思っています。「かわせみ」は安いし機能的にもそれなりに良いんだけど、「ATOK」は使い慣れているというのもあって難しいところ。乗り換えるなら今しかないとは思いますが。


 この林檎が、僕にとっての知恵の果実であらんことを。

 そんなわけで、しばらくは節約生活を強いられるかと思います。ゲームを買うのも月一くらいかな……。

テーマ: 物書きのひとりごと

ジャンル: 小説・文学

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第八章「手を取り合って」_19 

「ファイーナ!?」
 月の雨を吸った直後だった。リバスネイルの片割れが発狂したように頭を押さえ、ドミニカではなく、逃げ惑う人の群れに向かって走り出したのだ。その人の群れの中に、ファイーナがいた。
 刃を交えていた方のリバスネイルをはじき飛ばし、ドミニカは走り出したリバスネイルを追いかけた。
 人の流れで突き飛ばされ、ファイーナはよろけてその場に倒れてしまう。リバスネイルが剣を振り上げ、凶刃にファイーナを掛けようとした。
「ダメだ、間に合わない……!?」
 刹那、リバスネイルが動きを止める。
 心を取り戻したのかと思ったのも一瞬、リバスネイルはファイーナを殴り倒すと、狂ったように雄叫びを上げて再び剣を振り上げた。
 だが、その逡巡のおかげでドミニカが追いつく。
 槍の刺突一つで終わる。
 ……でも、もし心を取り戻したのだとしたら?
 その迷いが刺突を踏みとどまらせ、ドミニカは槍を地面に突き立てると、それを支えにして跳躍し、リバスネイルの背中を思い切り蹴り飛ばした。
 迷いは隙を作る。
 体勢を崩したドミニカに、もう一人のリバスネイルが殺到する。構えられた剣を見遣り、避けられないと感じつつ、ドミニカは体勢を立て直しながら敵を視界に捉え続けた。
「ラリオーガ」
 覚悟と足掻きを同時に行うドミニカの視界を、直後、横合いからほとばしった極太の閃光が蹂躙する。それは目の前にいたリバスネイルの黒い影を飲み込むほどの巨大さで、飲み込まれたリバスネイルは全身を焼かれて絶叫し、直線上に焦げた地面に突っ伏すこととなった。
 ミルシェだ。
 走ってきたのだろうか、大判の魔導書を抱え、肩で息をしている彼女の姿を視界に捉えると、ドミニカはすぐに槍を構え直した。蹴り飛ばしたリバスネイルが再び獣の咆哮を上げ、こちらへと飛び込んでくる。二対一から一対一へ。隙を埋める相方のいなくなったリバスネイルの動きは、もはや手に取るようにわかるほどの単純さだった。
「終わりにしよう」
 剣が振り切られるより早く。
 手が届くよりはるかに遠く。
 ドミニカの槍が一直線に伸び、猪突するリバスネイルの胸を正確に貫いた。心臓を両断されたリバスネイルは、その槍が引き抜かれるのを待たずにただの肉塊と化していた。槍の支えを失ったリバスネイルが崩れ落ちると、その身体から障気とも呼ぶべき黒い影が消えていく。
 振り返り、震えるファイーナの横を通って、ドミニカはミルシェに焼かれたリバスネイルのもとへと歩み寄った。全身を痙攣させながらもまだ生きているそのリバスネイルの身体を、徐々に黒い炎が修復していく。いや、浸食しているのか。その禍々しい姿に、心の芯がすっと冷えるのをドミニカは感じた。
「眠れ、安らかに……」
 仰向けになったリバスネイルの胸に槍の穂先を据え、ドミニカはわずかに目を瞑ると、刃をリバスネイルの胸に沈めた。
 くぐもった声を漏らしたのも一瞬、リバスネイルの右腕に縛られていた月印が鎖もろとも弾け、その身体を覆っていた漆黒の翼と甲冑が姿を失う。残ったのは、どこにでもいそうなありふれた青年の姿だった。
 ファイーナがよろよろと立ち上がり、その青年の前に跪くと、もう動かなくなった手を取った。肩を震わせ、堪えきれない涙がこぼれ落ちると、それは倒れた青年の頬を濡らした。
「知り合いかい?」
 ファイーナは何も言わず、一つだけ頷く。その腕の中で紫の閃光が屹立し、青年の姿はかき消えた。
 泣き崩れるファイーナを置いて、ドミニカはそっとその場を離れた。
 戦いの最中に崩れた壁が、目の前にあった。
 叩きつけた拳の痛みは、肉体の痛みか、心の叫びか。それとも、月印の軋みだったのだろうか。血に混じって後味の悪さが口中に広がり、ドミニカはやり場のない怒りを飲み下せずにいた。

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第八章「手を取り合って」_18 

 これで何匹目だろうか。
 数えるのは早々に止めてしまった。そんなものを誇ったところで、殿下には褒めていただけない。
 コマチは目の前の蜘蛛を切り伏せると、さらに上空からやってくる蜘蛛の群れめがけて跳躍した。最初の二匹を踏み台にしてさらに飛び、一番奥の一匹に肉薄した瞬間、逆手に構えた両の小太刀を振り抜いて切り捨てる。すぐさま小太刀を鞘に収め、空中で身体をひねりながらクナイを二本抜くと、それを踏みつけた二匹の蜘蛛に向かって撃ち放つ。月印の力をのせたクナイが光軸を引き、二つの流星となって正確に蜘蛛の急所を捉えた。
 でも、これでクナイは最後だ。
 着地し、再び小太刀を引き抜きながら周囲に視線を散らす。この辺りに限って言えば、一般人の避難はほぼ終わったと言って良い。だが、それは同時に、蜘蛛の群れがこちらへと集中してくることを意味していた。
「コマチ」
 背中から声。振り返らずともそれが誰だかを間違えるはずがない。背中合わせで戦えることの高揚感が抑えきれず、コマチの声は少しだけうわずってしまう。
「殿下、クナイが尽きました。このままでは」
「わかっておる。もう少しだ。もう少しでユージンが戻ってくる」
「はい!」
 息が少し荒らい。さすがのトウマ様と言えど、この数が相手では疲弊もするのだ。このお方が後れを取るような相手ではないと理解しつつも、もしものことがあったらと思うと背筋が凍る気分だった。
「避難はおおよそ済んだようだな」
「そのようです」
 周りは敵だらけだというのに、いや、だからこそか、この世界には二人しかいないような錯覚に襲われる。頬が紅潮するのを自覚し、そんなことを考えている場合ではないのにと自分を戒めた瞬間だった。
「コマチ、飛べ!」
「えっ!?」
 地面に横たわっていた蜘蛛の一匹が糸を吐き出し、それがトウマとコマチを襲った。逡巡したコマチは逃げ遅れてしまう。
 それを見たトウマが即座に反転し、コマチを押し倒す。ぐらりと揺れた視界にトウマの姿を捉え、守られることの喜びと、主を危険にさらしたという焦りがコマチから冷静さをさらに失わせた。
 蜘蛛の糸はトウマを襲い、その足を絡め取った。すぐに魚を釣り上げる要領で糸が引かれ、逆さ吊りになったトウマの身体が空中へと跳ね上げられる。
「若っ!」
 咄嗟に小太刀を投擲して糸を吐き出した蜘蛛を仕留めたが、よく見れば、それは先ほどコマチが切り捨てた蜘蛛の一匹だった。
 未熟さと油断が招いた結果に、自分と敵への怒りが頭をもたげる。だがそれを行動に変換するより早く、頭に上った血がすっと引くのを感じることになった。
 空中に跳ね上げられたトウマはそのまま女王蜘蛛の眼前へと落ちた。そこらの蜘蛛の数倍はある巨体から即座に大量の糸が吐き出されるのと、トウマが立ち上がり、足に絡まった糸を断ち切ったのはほぼ同時。
 間に合わない。
 冷静さを取り戻した頭がそう言い、利き手に持ちかえたもう一本の小太刀を投げても女王蜘蛛は仕留められないと判断すると、それならば身動きの取れなくなったトウマが女王蜘蛛に襲われるより早く救い出そうと、コマチは数瞬、脚力に全ての力を溜めた。
「ロウズ」
 後方から聞こえたその声が、コマチの溜めを解除させる。トウマの眼前にせり上がった石の壁が、女王蜘蛛の吐き出す大量の糸を堰き止めたのだ。
「間に合ったようだね、トウマ」
「来たか、ユージン!」
 絶対的な信頼がトウマの声音に混じるのを感じたとき、コマチは自分の内に沸いたわずかな嫉妬に気づかないでいた。
 若が助かった。ひとまず胸を撫で下ろしてユージンの笑みに答えると、彼はすぐに次の詠唱に取りかかり始める。
「一気に決めるぞ!」
 女王蜘蛛の懐に入り込めたことを幸いにと、トウマはその場で目を瞑り、月印の力を解放した。可視化できるほどに密度を増したそのエネルギーが激流となって渦を巻き、降り始めた月の雨を無尽蔵に飲み込むと、背中の三日月が輝きを増していく。闘気を練り上げるその背中は無防備にも見えたが、その信頼に応えるように、ユージンの石つぶてがトウマに飛びかかろうとする蜘蛛を寄せ付けずにいた。凝縮された闘気が青白い炎となって踊り、舞い散る雪を払いのける。その闘気が刀とともに鞘に納められると、合わせたように、ユージンの作り出した壁が大地へと戻っていった。
 トウマの背中から感情の波紋が消え、それに呼応するように辺りを刹那の静寂が包み込む。巨大な力が空気を張りつめ、波一つ立たぬその世界の中で、トウマが刮目した。
 その声は、確かにコマチの鼓膜を震わせた。
「明鏡止水」
 練り上げられた月印の力を吸い上げながら、トウマの刀が鞘を走る。蒼白の炎が極薄の刃へと姿を変えると、それは蜘蛛もろとも目の前の空間を二つに割った。
 閃光よりも速く、あらゆる刃よりも鋭く。
 それはコマチが視認できる速度を凌駕し、コマチが知覚できたのは、再び鞘に収められた刀の音と、遅れて両断された大蜘蛛の巨体だけだった。
 両断された蜘蛛はそれでも絶命することなく、バランスの取れなくなった身体を這わせ、腹から子蜘蛛の群れを生み出そうとしている。
「ロスデクス」
 それを制するように、詠唱を終えたユージンが大地から無数の石柱を屹立させる。巨大な爪と化した石柱が蜘蛛の四方を同時に走り、それは両断された大蜘蛛の身体を捕らえる牢獄となる。
 その様子を見ながら、コマチはすでに走り始めていた。
「コマチ!!」
「はい!」
 若に名を呼ばれることを予測できた自分を褒めてあげたい。
 トウマに答えながら手近の家屋の壁をかけあがり、コマチはユージンが作り上げた牢獄を越える高さまで跳躍した。そして、空中で身をひねりながら印を結び、身体が下方を向いた瞬間に月印を発動させる。
「いきます!」
 胸の前に生成した月印に標的を捉え、コマチは肺に練り込んだ月の力を一気に解放する。
「かがり火!」
 その月の力は、月印を通過すると同時に紅蓮の炎へと変貌を遂げた。舞い散る雪を即座に蒸散させながら殺到する火炎が女王蜘蛛の巨体を包み込み、腹から這い出そうとしていた子蜘蛛もろとも浄化の炎の中へと溶かし込んでいく。
 瞬間的に熱せられた大気が爆風となり、広場を蹂躙し、家屋の隙間を縫うように駆け抜けていく。ケルンテンの肌を刺す冷気がそれを水蒸気へと変えていく中、女王蜘蛛の断末魔がその場にいた者すべての鼓膜を震わせた。
 女王蜘蛛の腹の下で、月印がそれを縛る鎖もろとも弾けて消えた。その瞬間を認識できたものはこの場にいなかったが、知らずとも、その結果はケルンテン中から確認できた。紫がかった閃光の柱が女王蜘蛛を飲み込んで立ち上り、紅蓮の炎ごとその巨体を飲み込んで収束する。時を合わせて、街中の蜘蛛が光となって霧散した。
 先ほどまでの戦闘は夢だったかのように、静謐の時間がケルンテンの街並みを押し包んでいった。

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第八章「手を取り合って」_17 

 受け止めた斬撃が、芯に響く。
 攻撃の力を受け止めきるのは諦め、ドミニカは力の流れに沿って自ら飛んだ。それでも減殺しきれなかった衝撃に体勢を崩されると、そこにもう一人のリバスネイルが攻撃を仕掛けてくる。
 だが、それは全て想定の範囲内。
 余裕を持って攻撃をかわすと、隙を見せたリバスネイルを蹴り飛ばす。
「力の強さは相手が上か。だが」
 唇に滲んだ血を親指で拭いながら、ドミニカは敵の様子をもう一度伺った。
 敵の手に光る月印。それを縛る赤い鎖を見たドミニカは、彼らが何者であるかにおおよその見当がついていた。
 新月の民。
 太刀筋が直線的すぎるのは、理性を失ったからという理由だけでなく、単純に、訓練を積んでいないだけなのかもしれない。獣の力と速度を持った攻撃はそれだけで十分に驚異だったが、所詮は力に振り回されているだけだ。そう結論づけたドミニカの中で、目の前の強敵に対する興味は、リバスネイル化に至った経緯に対してのものへと移っていった。
「ようやく手に入れた力の代償が、これか……」
 同情と、力を求める心への共感と、それを御しえない者へのわずかな侮蔑、新月の民に対する刷り込まれた差別意識もあったかもしれない。それと、救う術を知らない自分に対するもどかしさ。ない交ぜになった感情で敵を見据え、ドミニカは槍を上段に構え直した。
 カペルの要領を得ない説明によれば、一度透明化するところまで落ちたリバスネイルを治す手立ては、今のところ無いらしい。
 それならどうすればいい?
 このまま暴走を続けさせるのか、それとも……
「やるしかない、か」
 二つの黒い影がにじり寄ってくる。双眸に光るのは血涙にも似た赤だ。降り始めの雪が街並みを染めていく中では、あまりにも異質なその姿が、この世界に居場所を失った彼らの状況を皮肉なほどに物語っていた。
 それを悲しいと感じたドミニカが、白銀の世界に揺れる二つの黒い影と相対したそのとき、それとは別の、鮮烈な色彩がもう一つ混じり始める。
 ケルンテンの街に、金色に光る月の雨が舞い散り出した。
 それを吸い、二人のリバスネイルが解き放つ黒い翼が一際大きく燃えさかる。同時に、自分の内奥で反応する月の雨の力を感知すると、ドミニカはぐるりと一つ首を回して、その力を全身へと駆け巡らせた。闘争心を奮い立たせるその甘美な力に、一瞬、頬がゆるむのを自覚し、それを敵の姿によって戒める。
「さっさと終わらせよう」
 その言葉は口中に苦みを残し、猛る心を静める音になってドミニカの耳朶を打った。

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第八章「手を取り合って」_16 

 ヴィーカを押しのけて盾となるその兄の姿を、アーヤははっきりと見た。射線に重なり、エドアルドを止めるための一矢が放てなかった。その先で、大切な仲間の剣が、仲間の大切な人を貫いてしまった。
 ……こんなこと、あっていいの?
 想定していなかった事態に、アーヤの思考は白濁していく。
 直後に耳をつんざいたエドアルドの絶叫が、虚脱した心に痛みと悲しみを伴って切り込んでくる。その感触に怯え、アーヤは思わず身をすくませた。
「エドアルド!!」
 その一瞬の心の空白に、カペルの声が反響する。その声音は、遊離しかけた意識を引き戻すのに十分で、アーヤは正気を取り戻すと、腰の矢入れに手をやりながらエドアルドの姿を目で追った。
 これ以上、エドアルドに仲間を傷つけさせるわけにはいかない。もしそんなことになったら、リバスネイル化を治療できたとしてもエドアルドの心が持たない。ヴィーカの兄を貫いた後のエドアルドの絶叫が、彼がその感触を確かに感じているということを教えていた。
「あのバカ……」
 本当は思い切り頬を引っぱたいてやりたい。みんなに心配をかけて、周囲に迷惑もかけて、それでいて、まだ暴れようとしているのだ。
「治ったらお説教なんだから、覚悟しなさいよね」
 エドアルドの名を呼んだカペルもまた、同じ気持ちなのだろう。他の誰かを傷つける前にエドアルドの注意を引き、それを自分で引き受けようと言っているのだ。あれだけ悪し様に言われたのにもかかわらず、カペルはまだエドアルドのことを仲間だと思ってくれている。アーヤはそれが嬉しかった。
 カペルを追うエドアルドの姿を見遣り、泣き崩れたヴィーカの背中を見ると、アーヤはその元凶となった男の方へと視線を流した。
「どうした、キリヤ。その程度か!?」
 鎖鎌での攻撃は変則的で、その使い手を初めて見たアーヤには予測できない動きばかりだったが、同じ武器の使い手同士だとそうでもないらしい。怒りをあらわにしたキリヤの攻撃を、ヘルドは涼しい顔をしてかわしている。鎌と鎌がぶつかって火花が散る。その向こうに見えたヘルドの余裕の笑みが、けして相容れない相手なのだということをアーヤに理解させた。
 キリヤがヘルドと刃を交え始めると、それまで交戦していたソレンスタムがヴィーカの側にやってきた。英知の目が見据える二つの動かない影。ソレンスタム様なら、と淡い期待を抱いたのも束の間、目を瞑って首を横に振るのが見え、アーヤは落胆するほか無かった。
 いくら頑張っても、全てを救うことが出来るわけじゃない。わかっていても胸の痛みが止められるわけではなく、自らの非力さを再確認させられると、くやしさにアーヤは唇を噛んだ。
 それを知ってか知らずか、キリヤの攻撃を受け流しつつ、ヘルドが哄笑しながら言った。
「そちらばかりが大人数というのも気が引けるだろう」
 高々と掲げられた右手に、月印が赤く光る。そこからほとばしった月の力が四方に飛び散ると、まるで準備されていたかのように、それを受けた地面や岩盤の壁、岩石の表面に召喚の魔方陣が滲み始める。肌をざわつかせる不快な共鳴音が弾け、それぞれの魔方陣が漆黒の翼を模した怪しげな色の光を放つと、そこから同色の球体がごとりと音を立てて吐き出された。
「ソーサリーグローブと言う。ただのおもちゃだが、その名の通り魔法を使う。気をつけたまえ」
 ヘルドが言うと同時に、その球体がぶんと音を立てて浮かび上がる。手の届かぬ高さを飛び交い始めたそれは、互いにぶつかり合いながら軌道を無秩序に変化させていて、ヘルドの言うとおり、その動きはガラス玉をぶつけ合う子供の遊びを連想させた。だが、それがそんなかわいいもののはずもない。球体のそれぞれが帯電していくのを頭上に見たアーヤは、咄嗟にその場を離れた。
 瞬間、全ての球体から雷撃が降り注ぎ始める。
 カペルとアーヤ、エドアルドもそれをかわしていたが、動かないヴィーカは別だ。ソレンスタムが殺到する雷撃を防いでいなければ今頃はやられていただろう。
 雷撃特有の刺激臭が鼻をつく。降り注ぐ雷撃をかわし、キリヤがヘルドに押され始めたのを見て取ると、アーヤは残りの矢の数を確かめた。敵の数を考えればいくらか心許無い。それでも、皆が手一杯の今、自分がやるしかない。
「カペル、ちょっとだけ一人で踏ん張りなさい!」
「ええっ!? 手伝ってくれないの、アーヤ!!?」
「情けない声ださないの!!」
 まったく、ほんとに頼りないんだから……。
「あれは全部わたしが叩き落とすんだから、そっちはそっちでなんとかしなさい!」

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