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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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プロローグ 


プロローグ

「鎖」に繋がれし「月」
其が堕つる時、世界は崩壊せん

古来より
月は神の玉座とされ、
人々は月の力を自らの力に換えることで繁栄を謳歌してきた。

現在
空に浮かぶは鎖に繋がれし月
月を縛りし闇は徐々に、だが確実に世界を蝕み、
大地は腐り、光は失われようとしていた。

そして、世界は崩れ始める――



――XBOX360用ソフト「インフィニットアンディスカバリー」より引用
http://www.square-enix.co.jp/undiscovery/



監修に水野良(代表作『ロードス島戦記』)、原案に賀東招二(代表作『フルメタル・パニック!』)を迎えたアクションRPG『インフィニットアンディスカバリー』の二次創作小説です。

未プレイの方にもわかるように配慮しながら、ゲームの紹介にもなるように書いています。
既にプレイされた方にも、端折られていた部分などにオリジナル要素を加えつつ、原作の魅力を出来るだけ活かしたアクション小説になるよう努力しておりますので、楽しんでいただけるかと思います。
お付き合いいただけると幸いです。

それでは、よろしくお願いします。

【小説インフィニットアンディスカバリー】
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テーマ: 二次創作:小説

ジャンル: 小説・文学

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第一章 「運命の始まり」_01 

「あのー、すいませーん。誰かいませんかー」
 カビや錆で薄汚れた牢獄を照らす唯一の光、松明の炎が揺れる廊下の先に向かって、カペルは遠慮がちな声を上げた。
 理由もわからないままにこの牢獄につながれて三日。饐えた臭いには慣れたし、寒いのにも耐えられる。一日中薄暗いのにも、気持ちは滅入るが、慣れたと言っていい。
 ただ一つ、どうしても許せない事があった。
 ごはんがまずい。少ない。
 腹の奥底で絶叫する虫に突き動かされ、カペルはもう一度、力ない声をあげた。
「すいませーん。誰か――」
「うるさい! なんなんだ、一体」
 廊下の向こうから、ガチャガチャと音を立てて看守がやってくる。
 全身を覆う甲冑は、自分を取り押さえた連中が一様に身につけていたものと同じだ。手に持ったメイスは、身長とさほど変わらない長さがあり、腰に帯びた剣と同様に、彼らの基本的な装備の一つのようだ。
「あの、ごはん、まだですか?」
「はっ?」
「ですから、ごはん、ごはんですよ。僕、おなか空いちゃって……」
「はぁ」
「焼きたてのパンとミルク、あと、温かいシチューがあると嬉しいなぁ、なんて」
「……あんた、立場わかってんのか?」
 呆れた、と言いたげなのが鉄仮面の上からでもわかる。
「囚人……ってやつですよね」
「そうだよ、囚人だよ。わかっているならそれらしくしてろ。大体、あんたも武人だろ。しゃきっとしろよ、しゃきっと。なんだよ、ごはんって」
「武人じゃないです。芸人です。フルート吹きの癒しのカペル。聞いたことありません?」
「フルー……なんだ? 知らん」
「……はぁ、僕もまだまだだなぁ」
 フルート吹きとして世界を旅して数年。この近辺で演奏していたこともあれば、多少は話題にもなってるかと思ってみたが、所詮はこの程度だ。こんなもんだと思う反面、無下に否定されれれば傷つきもする。
 落ち込むカペルをよそに、これで問答は終わりと看守が背を向けた。このまま行かせてしまってはと慌てたカペルが、執拗に食い下がろうとするが、
「ちょっと待って、ごはん……!」
 格子の向こうから伸びてきたメイスが頭を打つ。軽くとはいえ、それなりの質量を持ったメイスの衝撃は、空腹も相まってカペルの意識を寸断するのに十分だった。
 引き留める努力もむなしく、カペルはその場で昏倒する。
「やれやれ……まったく、これが本当にあの英雄様なのかね」
 呆れた、と今度は態度で示しながら、看守は面倒くさそうに、明かりの下、自分の持ち場へと足を戻す。


 太陽光の届かない地下の空気は、地上のそれより数段冷たい。それに加えて、壁の向こうからしみ出す湿気が閉じた空間で澱み、饐えた臭いを発しているのが常だった。
 普段、地下を訪れないものが入ってくれば、まずはその独特の空気に気圧されることになる。
 ビッグスがこの地下で働くようになって二年になる。
 そのほとんどをこの場所で過ごしてきた彼にとって、部外者が忌避するこの臭いも、生理の一部となるほどに馴染んでいた。
 この一画には、封印軍の敵を閉じ込めておく牢が並ぶ。ビッグスの仕事は看守だった。
 送られてくる中には、老人や女子供まで混じっているのだが、年齢や性別で差別をしないのがビッグスの信条だ。だから誰であろうと等価に扱う。彼が関心のあるのは、どの囚人が従順で、どの囚人が反抗的か。それだけだ。
 だがあの男に対しては違った。正確には、違ったはずだった。
 三日前に送り込まれてきた男。
 光の英雄、シグムント。
 解放軍と名乗り、自分たち封印軍に敵対する連中の首魁だ。
 自分たちが敵とする中でも最重要人物である男が、担当する獄につながれる。気負うなというのが無理な話だった。人相書によればまだ若い男のようだが、かなりの使い手であることは間違いない。一瞬の油断から取り逃すことになれば、給料にも響く。生命の危険だってありうる。
 引き渡すまでは、気を抜けない。
 だが、その気負いは、初日から脆くも崩れ落ちることになった。
「こんな少年が……」
 連れてこられたのは、まだ幼ささえ感じさせる少年だった。
 体つきもどこかか細く、戦場に生きる者が持つ覇気のようなものが感じられない。とても解放軍のリーダーがつとまるとも思えなかった。
 その印象は三日経った今も変わらない。
 腹が減った、と文句をたれる姿と合わせると、まだ世間を知らない学生と言った方がしっくりくる。
 今日もそうだ。にへらと浮かべられた愛想笑いの向こう側に、どこか周りのものをすべて突き放して見ているような冷めた目を隠している。それは、世の中を知らない少年にありがちな斜に構えた態度ともとれるし、ここを出ることを諦めた連中が浮かべるそれにも似ている。
 いずれにせよ、あれは武人の目ではない。解放軍のリーダーというイメージと、けして重ならないあの目は――
「まったく、これが本当にあの英雄様なのかね」
 独りごちた言葉とともに、ビッグスは英雄への興味を失せさせていった。緊張感は日常に弛緩し、松明が運ぶ暖気に誘われて、睡魔が頭を支配し始める。
 結果、彼が通気口から降りてきた影に気づくことはなかった。


 影は、看守が眠りに落ちたのを見計らって、通路に舞い降りた。
 音を立てぬように近づき、鎧と兜の隙間から、頸椎の真上にナイフの柄を叩き付ける。一瞬、くぐもった声を出した看守は、そのまま夢の続きを見ることになった。
 倒れた看守の腰から鍵束を引ったくると、影はそこに並ぶ牢を見渡す。
「シグムント様……」
 女の声だった。

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第一章 「運命の始まり」_02 

「シグムント様! しっかりしてください!」
 耳朶を刺激する女性の声と、肩を揺する手のぬくもりを感じて、カペルは目を開けた。靄がかかったように茫洋としていた視界が次第に晴れ、そこに同年代と思える女性の顔が像を結ぶ。
「良かった。お気づきになられたようですね。アーヤです。助けに参りました」
 透き通るような青い瞳が丸く見開かれ、こちらに向けられている。その横で、少女の面影を残すふっくらとした頬を撫でるように、長く艶やかな黒髪が揺れていた。それがどこか扇情的で、鼻を刺激する温かい女性の香りもあって、カペルはぼんやりとした意識のうちに言葉を漏らした。
「かわいい……」
「ふぇっ? シッ、シグムント様、しっかりしてください!」

 さらに強く肩を揺すられ、覚醒しかかった意識が撹拌される。
「も、もう大丈夫だから」
 慌てて止めたカペルは、そこで改めて彼女の顔を見た。頬を赤らめているせいか、こちらを見ようとしない。思わず口にしてしまった言葉を思いだし、少し気恥ずかしい気もしたが、その前に、彼女が誰なのかという至極もっともな疑問にぶちあたる。
「あの……」
「さあ参りましょう。シグムント様」
「シグ……ミント様?」
 確か自分を取り押さえた連中もそのようなことを言っていたけど……。
「みんなの足取りはまだわかりませんが、彼らなら無事でいることと思います。まずはここを脱出しないと」
「ちょ、ちょっと待って」
 制止の言葉もむなしく、アーヤと名乗った少女によって、カペルは強引に立ち上がらせられる。
「さあ」
「待ってよ!」
 引かれる腕を振り払い、カペルは思わず大きな声を出した。
「……どうされたんですか?」
「何か勘違いしてない?」
「えっ、シグムント様、どういうことです?」
「だから、それ。僕はシグミント様じゃないよ、うん」
「……はい?」
 状況を飲み込めないのか、彼女が首をかしげる。
 どうやら自分をシグミントなる人物と間違えているらしい。
 暫く考え込んだ後、彼女は小さく頷くと、確かめるように静かに尋ねてきた。
「あなたは、私たち解放軍のリーダー、光の英雄シグムント。先の戦いで敗北の後、解放軍のメンバーは四散して行方がわからない。そんな中、光の英雄が封印軍に捕えられたと街で聞いて、私は助けに来たんです。覚えていらっしゃらないのですか?」
「僕は、フルート吹きの癒しのカペル。街でフルートを吹いていたら、そのシグミント様と間違われたらしくて、捕えられたみたい。よく覚えてるよ」
「……ほんとに違うの?」
「うん」
 訝しげな目でにらむ彼女に、カペルはにへらと笑いを浮かべる。
 しばらくの沈黙の後、彼女は大きく肩を落とした。
「ほんとに違うみたいね……。はぁ、あんな思いまでして来たのに無駄足だったってこと?」
 肩を落としたまま、自問するようにつぶやく。
 当たり前のことだが、ここまで来るのは大変だったようだ。ひどく落胆する姿に、なぜかこちらが悪い気がしてくる。何かしてあげたいのはやまやまだが、自分は囚人の身だ。出来るはずもない。
 そう結論づけたカペルの視線と、顔を上げた彼女の視線が交わる。
「クヨクヨしてらんないわね。あなた、名前は?」
「さっきも言ったんだけど……。フルート吹きの癒しのカペル、聞いたことない?」
「カペルね。私はアーヤ。よろしく」
「……無視ですか、そうですか」
 やはり彼女も自分の通り名を知らないらしい。これで通り名と言っていいものかとカペルは真剣に悩み始めた。
「それじゃ、行きましょ」
「えっ、行くってどこへ?」
「決まってるじゃない。ここを出るのよ」
「嫌だよ。危ないもん。痛いの嫌だし」
「嫌って……ここに残る気なの? 人違いで捕まってたんでしょ。こんなところに残る理由なんてないじゃない」
「人違いだからだよ。何も悪いことしてないからね。いずれ疑いは晴れて――」
 すぐに出られる。脱獄しようとして失敗したほうが何かと面倒なことになる、とカペルは思っていた。
「駄目よ。一緒に来なさい」
「はい?」
「疑いが晴れたからはい終わりです、ってなるわけないじゃない。ここをどこだと思ってるの?」
 理由もわからずにいきなり連れてこられたせいか、実感がなかったのかもしれない。自分は今、封印軍に捕まっている。けれど、捕まえに来た人たちも、さっきの看守も、わりと普通の人だった。だから、それほど緊迫した事態だとは思っていなかったというのが正直なところだったが、彼女が言うようにそれほど甘い連中ではないかもしれない。それさえも実感があるわけではなかったが……。
「それに、このまま置いていったら私の寝覚めが悪いでしょ」
「寝覚めが悪いって……」
「だから、私のために助かりなさい」
「私の……ため?」
「来なさい。いいわね」
「そんなぁ」
 あまりに自分勝手な言いように、カペルは嘆きの言葉を漏らす。
 ただ、その嘆きとは裏腹に、悪い気はしていないのが不思議だった。
 言ってることは無茶苦茶な気もするが、悪意はないように感じる。その率直な言動がいっそ清々しささえ漂わせるのは、青く透き通る瞳と同じ、彼女の純粋さのあらわれだからか。
 それが心地よいと感じている自分を自覚したカペルは、有無を言わせぬ顔の少女に、しおらしくついて行くことにした。

「それでカペル。あなた、武器は使える? 使えるならそれ、借りていきなさい」
 先ほどまで話していた看守が、椅子に座ったまま昏倒している。アーヤがやったらしい。
「武器……って、隠れて脱出するなら、必要ないんじゃない?」
「見つかるかもしれないでしょ!」
「だってアーヤは見つからずに入ってきたんでしょ?」
「そうよ」
「安全な脱出路とか準備してないの?」
「シグムント様と一緒だと思ってたから、帰りは強行突破のつもりだったのよね」
「ええっ!」
「仕方ないでしょ。事前に調査する時間なんてなかったんだから」
 当たり前に安全な脱出経路が用意されているものだと思っていたカペルもカペルだが、アーヤはアーヤでずいぶん無鉄砲な人らしい。
 安易に頷いたことに少し後悔を覚えるのも束の間、もう引き返すわけにもいかないと覚悟したカペルは、言われるままに、昏倒した兵士の腰から剣を抜き取った。
「すいません、お借りします」
「ほんとに使えるの?」
「……一応、一人旅が長いんで」
 剣の扱いは、ほとんどが一人旅で必要となって得たものだ。モンスターや夜盗の類から身を守るくらいなら、といった程度のものだが、剣を使えることに変わりはない。
「そう、じゃ行きましょ」

 角を曲がると、通路を中心にして対称に牢が並ぶ区画に出た。人影はまばらだ。
 カペルのいた牢は、この並びとは別の区画にあった。おそらく、特別な囚人を隔離するためのものだったのだろう。
 捕まっている人たちの中には、老人や女性の姿もある。どれも無気力な目をこちらに向けているだけで、格段の興味を示している様子はない。一緒に連れていけと騒がれるよりは都合が良いのだが、カペルは後ろめたさを感じざるを得なかった。
「あのさ」
「何よ」
「通気口から入ってきたんでしょ。そこからなら見つからずに脱出できるんじゃない?」
 通気口の格子が天井にぶら下がっている。侵入口はどうやらこれらしい。そこを戻れば、見つからずに脱出することもできるんじゃないかとカペルは思った。看守が使っていたテーブルを動かして足場にすれば、届かないわけじゃない。
「足場がいるでしょ。そんなもの残したら、ここから出て行きました、って言ってるようなもんじゃない。中じゃ身動き取れないし、時間もかかるのよね」
「そっか……」
 通気口から出る前に見つかれば、出口で待ち伏せされて終わりだ。それならば、隠れながら通路を進んだ方が柔軟に対応できる、ということか。
「それに……」
「ん?」
「あんなところ、二度と通りたくないのよ」
「狭いところ、嫌いなの?」
「うるさい! 感触、思い出しちゃったじゃない!」
 そう言うとアーヤは平手を振り上げた。思わず身構えたカペルだったが、その手は頬を打つのではなく、カペルの腕に伸ばされ、服の袖を掴むと、そこに執拗にこすりつけられ始めた。
「ちょっ……、なにするの!」
「ゴキブリ触っちゃったの思い出したのよ。拭かないと気持ち悪いでしょ!」
「そんなぁ……」
「思い出させたカペルが悪いの!」
 ひとしきりこすりつけると、戸惑うカペルをよそにアーヤは満足そうな笑顔を浮かべる。
 一人で敵の本拠地に乗り込む無鉄砲さと、それを成し遂げるだけの力がある彼女だったが、こういう年相応の笑顔も持ち合わせている。
 不思議な人だな、とカペルは思った。

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第一章 「運命の始まり」_03 

 出口だ。
 三階分を縦貫した吹き抜けの壁に沿って、階段が大きく螺旋を描いている。それが、外への扉と地下を繋ぐ唯一の道だ。
 階段の下に広がるエントランスのような空間の端に、二人は身を隠していた。
「あそこが出口だよね」
「そうね」
 幸いにも、ここまで気づかれた様子はない。あの看守はまだ眠ってくれているようだ。
 敵対する者を閉じ込めておくだけのものという性質からか、それとも封印軍が単に人員不足なのか、大部隊が駐屯しているわけではないようで、見渡した限りでは兵士の姿はまばらだ。今いる場所の対角にある駐屯所とエントランスに数名が見えるだけで、扉の近くにもいるかもしれないが、幸いにも、階段には誰もいない。
 隠れたまま駐屯所とエントランスの兵士をやりすごし、騒がれる前に入り口の兵士を倒して脱出。これなら何とか突破できるかも。
 どうしてこんなことをやっているのだろうという疑問はあるが、それはとりあえず横に置くことにした。口に出したら隣の彼女に何をされるかわからない。
 状況を確認してアーヤを見遣る。視線が交錯し、二人は頷きあった。考えていることは一緒のようだ。それがどこか心地よかった。
 再びあたりを見回したアーヤが左手を持ち上げる。それが下ろされると同時に二人は走り出した。
 が、走り出そうとした瞬間、アーヤが悲鳴を上げて盛大に転んだ。
「きゃあっ!」
「ちょっ!?」
 カペルはアーヤを咄嗟に物陰に引きずり込んだ。暴れる彼女の口を押さえたまま、周辺に警戒の視線を飛ばす。
「大丈夫……かな」
 兵士に変わった様子はない。アーヤの悲鳴は聞こえなかったようだ。
「ゴ、ゴゴゴ、ゴキブ……」
 震えるアーヤの視線の先には、床を這う数匹の黒いものが見える。よく見れば先ほどまで手をついていた壁にも這っている。
 衛生状態がいいとは思ってなかったが、予想以上に悪いらしい。
「なんだ、ゴキブリか。怪我したのかと思っちゃったよ」
「なんだじゃないわよ! もういや……。なんなのよここは。シグムント様もいないし、服は汚れちゃうし、あんなの触っちゃうし……」
 アーヤの鋭い視線が、何故か自分に突き刺さるのを、カペルは感じた。
「全部あんたのせいなんだから!」
「……誰か聞いてください。この人むちゃくちゃです」
 直後、エントランスに警報が鳴り響き、カペルの嘆きを遮った。
「気づかれた!?」
「そんな大きな声出したら、ね」
 ふてくされるアーヤの顔を見ることなく、先ほど確認した兵士達の方に目をやる。こちらに向かってくる様子はないが、慌ただしく動き出したのは見てとれた。
「……こっちには来ないみたいだね」
「さっきのじゃないとすると……」
 牢の方が気づかれたということか。いずれにせよ、出入り口を塞がれてからではまずい。急いで脱出しないと。
 再び目で合図をした二人は、まだ警戒網が整う前なのを確認すると、物陰から一気に飛び出した。

 突然の警報に混乱する兵士達。その隙を縫うように走り抜け、二人は階段を駆け上がる。
 上りきった先に広がる通路には、門番の役目を負う兵士が二人、扉の両脇に立っていた。
 こちらを確認すると、慌ててメイスを握り直し、襲いかかってくる。
「立ち止まっちゃ駄目よ、カペル!」
「そんなこと言ったって……!」
 そう言っている間にも間合いは詰まり、兵士の一人が前方を行くアーヤに襲いかかった。鈍い光を放つメイスが、上段から振り下ろされる。
 その時、アーヤの右手の甲に光の紋章が浮かび上がった。火の粉のような赤い光の粒子がその身に滞留を始め、同時に足下がかすかな炎を帯びると、小さく爆発した。生み出された推進力を利用して加速、身を低くしたアーヤが、メイスの下をかいくぐる。そのまま兵士の脇をすり抜け、後ろに回り込むと、看守を倒した要領でナイフの柄を叩き付けた。かすかな残り火の上に、兵士が崩れ落ちる。
「月印……!」
 光に気を取られたカペルの動きが鈍った。もう一人の兵士がその油断を見逃すことはなく、当然にカペルへの攻撃を止めることはない。
 同様に振り下ろされたメイスを、カペルは慌てて剣で受け止めた。しかし、足は止めざるを得ない。
「カペル!」
「くっ……」
 アーヤの声に応える余裕もなく、不意に叩きつけられた敵意を前に、身体が硬直する。
 夜盗のそれとは違う、訓練された者の攻撃。防ぐのが精一杯だ。
 それでもカペルは、兵士の攻撃の隙をついて、剣を水平に払った。しかし、それは空を切る。強引に敵のリズムに割って入った攻撃は、かわされるとカペルの隙となる。身体が流れた。
 次の攻撃が来る。生命の危険を感じた身体がすくみ、カペルの隙を決定的なものとする。
 ……しかし、次の攻撃は無かった。
 見ると、兵士もまた身を固くしていた。何かに怯えているようだ。
 まるで格上の相手と対峙せざるをえなかったかのように……。
「あっ」
 そして、カペルは気づいた。相手はまだ自分のことを光の英雄だと思っているのだ。そんな封印軍の兵士から見れば、カペルの心許ない一振りも、名も知らないフルート吹きの一振りではなく、英雄の一振りになる。自分が獄につながれる理由になった英雄の影が、今は身を助けてくれる。
 光明を見いだしたカペルは、すぐさま体勢を整えた。
 怯えた兵士の攻撃が大振りになる。それを見て取ったカペルは、タイミングを合わせて、振り下ろされるメイスを剣で跳ね上げた。
 そして、あらわになった相手の懐へ身体をねじ込む。
 不意を突かれ、腹部に体当たりを受けた兵士が悶絶し、頭を下げた。
 下がったあごを、カペルがすかさず剣の柄ではじき飛ばす。
 あごを打ち抜かれた兵士は意識を断ち切られ、派手な金属音と一緒にメイスを落とすと、膝からその場に崩れ落ちた。
「カペル、やるじゃない!」
「はぁ……はあ……まあね」
 久しぶりに正対した敵意をなんとかはねのけ、緊張から一転、身体の力がすっと抜ける。剣をだらしなく下げたまま、カペルはとりあえずの笑みを返した。上気した顔を汗が伝う。
「って言ってる場合じゃなかった。行くわよ。出口はもうすぐ――」
 唐突に言葉を切ったアーヤが、いきなりカペルを突き倒した。
 仰向けに倒れながら、カペルは頭の上を通り過ぎていく何かを見た。咄嗟に身を翻したアーヤは直撃を避けたが、その何かが壁にぶつかり、爆発する。
 薄暗い地下の通路を一瞬の閃光が照らし出し、爆発音が狭い空間に反響する。熱風が追うように辺りを吹き上げ、積もった埃もろとも、爆砕した破片を撒き散らした。
「きゃあ!」
 爆発音に混じってアーヤの悲鳴が聞こえた。カペルをかばって逃げ遅れた彼女は、至近で爆発の衝撃を受け、大きく吹き飛ばされたのだ。
 焼かれた視界を庇いながら薄く開いた目に、壁にもたれかかったまま動かないアーヤの姿が映る。
「アーヤ!」
 急いで身体を起こすと、カペルはアーヤのもとに駆け寄った。
 大きな出血はないが、壁にぶつかったときに頭を打ったのか、意識が混濁しているように見える。
 カペルが支えると、アーヤは重そうに上体を起こす。その拍子に、彼女が小さな悲鳴を漏らした。左の足首が腫れている。
「うう……大丈夫。でも……」
 足首を押さえながらも、彼女の視線はカペル越しに階段の方に注がれる。
 振り返ると、来た道は幾人もの兵士たちによって塞がれていた。追っ手だ。
 兵士に混じって、その中に人間より二回りは大きい巨人がいる。
「トロル……!」

 人の数倍はあろう怪力と、見るからに頑強な体躯。破壊を好む残忍さと、それを象徴するような凶暴な面容から、人々に忌み嫌われているのがトロルという種族だ。封印軍には、そんなやつまでいるのか。
「俺の持ち場にいてくれるなんてな。こいつは運がいい」
 棍棒と大きな樽を抱えたそのトロルを中心に、十人ほどの兵士。それに遅れて、トロルと同じ樽を二人がかりで運ぶ兵士が数組。さっき飛んできたのは、たぶんあの樽なのだろう。トロルの怪力を活かして投げるという原始的な攻撃方法だが、効果は先ほど見たとおりだ。
 とてもじゃないが、自分一人では相手にならない。
「悪いが逃げらんねえよ、英雄様」
 トロルが下卑た笑みを浮かべる。半分開いたままの口から唾液がしたたり落ちているのが、ここからでもよくわかる。
「ここで死んでも事故だよな。ぶはははは」
 他の兵士に語るトロルと、追従の笑みを浮かべる兵士たち。
 その目に、そのにやつきに、カペルは激しい怒りを感じだ。
 それが、幼い頃、自分に向けられ続けたものと同じだったからだ。他人の弱さをあざ笑うことで自分の優越を確認し合い、そうすることでしか己を確立できない連中。それこそが弱さだということも認識できない、いや、認識していても認められないからこそ、無くなることもなく、永遠に続く差別の目……。
 それも人の有り様の一つと考えられる程度の分別はあるつもりだが、蔑む目を向けられて許せるかどうかは別だ。あれを見れば、どうしても怒りが頭をもたげてくる。
「カペルだけでも逃げて」
「何言ってんの!? そんなの駄目に決まってる」
「そんなこと言ったって、このままじゃ……」
「駄目だ!」
 意図せずはき出した怒りが言葉に重なり、アーヤの目が一瞬、怯えを映したように見え、カペルは思わず目をそらした。
 彼女には関係がないのに……。
 怒鳴る相手を間違えている自分が情けなくて、アーヤをうかがうこともできず、カペルは階段の方へと視線をやった。
 にやけ面に相対し、再燃する怒りに任せてカペルはトロルを睨み付ける。
「怖いねぇ。でも、そんな態度もここまでだ」
 不快な笑みを浮かべて「じゃあな、英雄さん」と言うと、トロルは樽を持ったまま大きく振りかぶった。嘲笑うかのように、尊大に、ゆっくりと……。
 このままじゃ、やられるだけだ。またやられっぱなしなのか。
 それは嫌だ。それは――
 拒絶の言葉が額の奥で爆発し、カペルの身体を突き動かす。叫びとともに剣を逆手に持ち直すと、カペルは衝動に任せてそれを投げつけた。
 暴力の快楽にひたるために大きく振りかぶっていた分、トロルの投擲が遅れ、宙を切り裂く剣が距離を詰める。そして、剣は樽がトロルの手を離れるその瞬間を狙ったかのように直進し、突き刺さった。
 樽と剣、互いの速度を相乗した衝撃が、樽の中の物質に猛烈な燃焼反応を促し、トロルの直近に閃光の花を咲かせる。
 破片と炎を孕んだ爆風がトロルもろとも一帯を吹き飛ばし、巨体が階段の下へと跳ね飛ばされた。近くにいた兵士たちも、抗う術を持たずに激しく壁に打ち付けられる。運ばれていた樽はすべて落とされ、押し寄せる破片と炎によって引火し、さらなる爆発が連鎖する。悲鳴はすべて、轟音の中に埋没した。

 誘爆によって引き起こされた狂乱を、カペルは呆然と見つめていた。
 怒りに任せて投げた剣が、意図していなかったにしても、目の前で凄惨な破壊を生み出している。自分の頬を焼く熱風さえこれだ。直近で受けた人はただじゃすまないはず……。
「カペル!」
 アーヤの呼ぶ声が、遊離していた意識を呼び戻し、カペルはそちらを振り返った。辛そうに壁にもたれながら、彼女はすでに立ち上がっている。
「逃げるわよ。肩貸して」
「うっ、うん」
 アーヤの左足は歩けないほどにはひどくはないようだ。だがそれでも、大きな汗が頬を伝っている。
「足、大丈夫?」
「うん。……それより、気にする必要はないわよ。これは封印軍との戦いなんだから」
 視線は前を向いたままだが、彼女は自分の怯えを見透かしていた。
 それを気遣ってくれている言葉に、彼女があんな連中と戦いを重ねてきたんだという事実を確認させられたカペルは、どこか気後れする自分を感じていた。
 とにかく、今はここを離れることだった。

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第一章 「運命の始まり」_04 

 牢獄は、深い森の奥に残っていた古城を改築してつくられた砦の地下にあった。
 外は、とうに日が暮れていた。
 混乱の城を離れると、虫の音は近くに、鳥の鳴き声は遠くに聞こえるだけの、静かな世界が続く。
 脱出した二人は、ある程度離れたところで休憩を取った。足の状態が思ったより悪いのか、アーヤがひどく汗を流している。
 踏みならされた道は使えず、足場の悪い獣道を進まなければならなかった。痛めた足を引きずるアーヤには酷な状況だ。
 さらに悪いことに、今日の夜空には雲がない。月明かりは逃走の邪魔にしかならない。
「やっぱり僕が嫌いなんですね……」
 揺れる木々の向こう側に月を見据えながら、カペルは言葉を漏らした。
 夜空を見上げるのは久しぶりだった。いくつもの鎖を大地に下ろしながら、月は今日も夜空の王様然としている。
 夜空だけでなく、この月は、人間の世界の支配者でもあった。
 人々は、月の恩恵の下で生きている。
 月印――
 人は生まれると、まず月の神ベラと契約を行う。信仰と引き替えに、その人が持つ素養と生まれた日の月齢によって、様々な力を与えられる。
 この世界で人々が生きていく上で、その力はなくてはならないものだ。
 その力の象徴が月印だ。身体に浮かび上がる、光の紋章。
 月印を通して、人々は月の力を行使する。
 アーヤが兵士を倒した時に見せたものもその一つだろう。他にも、単純に常人以上の腕力を与えられたり、傷を癒す力を授かったり、言葉を逆さに読む能力なんてものもあるらしい。その現れ方は十人十色だ。
 だが、その契約を行えない人たちもいる。新月の日に生まれた人たちがそれだ。月に嫌われて生まれた彼らは、生涯、月の力を得ることはできない。
 彼らは「新月の民」と呼ばれ、差別の対象であり続けた。


「ごめんね、巻き込んじゃって」
 月明かりのせいか、アーヤの顔は青ざめて見える。
 足首の怪我のためか、それとも彼女の本質はそういうものなのか、少し弱気になっているようだった。
「……らしくないね」
「え?」
「そんな弱気なアーヤはらしくないよ。ちゃんと支えないから痛いじゃない、とか、もうちょっと気を使えないの、とか言ってぷりぷりしてるほうがアーヤらしいよ」
「何よそれ!」
「ははは。そうそう、それそれ」
「なっ……うぅ」
 らしいとからしくないとか、それがわかるほど出会ってから時間が経ったわけではないかもしれないが、ただ、元気な彼女のほうが好ましいと思える。
 こんな状況に追い込まれたのも、それをどこか楽しんでいるのも、そんな彼女に対する興味からかもしれない。
「でもどうしよう。近くの街には、たぶん封印軍が出張ってきてると思う。足がこんなじゃなきゃ、そのままブルガスまで行けるんだけど……」
 ブルガスは、このあたりを治める王国の名前だ。その首都が近くにあるのだが、近くといっても、アーヤの足で歩いて行くには遠すぎる。
 だから、心当たりのあるカペルはこう提案した。
「それならさ、この近くに村があるから、そこで休ませてもらわない?」
「村?」
「モンタナ村って言うんだ。青竜を祀って暮らしている静かな村でさ」
「ふーん。カペルの故郷?」
「違うよ。僕は孤独な旅芸人だからね。前に行ったことがあるんだ。その時に親切にしてもらったんだよ」
「そうなんだ……」
「今からでも歩いていけば、夜明け前につくんじゃないかな」
「そう……」
「アーヤ?」
 妙に素っ気ない態度が気になって様子をうかがってみると、アーヤは肩で息をしていた。汗の量も尋常じゃない。これは、足のせいだけじゃない。明らかに様子がおかしい。
 カペルが、そっと彼女の汗を拭ってやる。彼女は足首ではなく、おなかを押さえていた。出血している。
「……ちょっと傷口が開いちゃっただけよ」
「さっきの爆発で?」
「うん。前に封印軍と戦った時のやつなんだけど」
 四散して仲間の行方はわからない、と最初に彼女が言っていたことをカペルは思い出した。たぶんひどい負け戦だったのだろう。その時に負った傷が、先ほどの戦いで開いたらしい。
「……どうして言わないの」
「だって迷惑かかっちゃうでしょ。気遣ってたら逃げられなかったかもしれないし」
「いまさらそれはないでしょ……」
「ごめん……」
 ひどい汗だ。このまま休んでいても、アーヤの容体は悪くなる一方の気がする。急いでしかるべき治療を受けさせないと、まずいことになるのは確実だった。このまま休んでいても埒がない。
「……よし」
「へっ、ちょ、ちょっと!」
 休憩は終わりと決めたカペルは、右手をアーヤの背中にまわし、左手を膝裏にすべりこませ、おもむろに彼女をすくい上げた。
 いわゆる、お姫様だっこだ。
「何するのよ! 恥ずかしいでしょ、降ろしてよ!」
「大丈夫、誰も見てないから」
「見てるとか見てないとか、そういう問題じゃないの!」
 アーヤの抵抗を無視して進み出す。
「黙ってないと舌かむよ」
 有無を言わせないことを告げると、アーヤは抵抗を止めた。抵抗する余力もないのかもしれない。
「モンタナ村はすぐそこだかたら。急ぐよ。もうちょっと我慢して」
 走れば傷口に響くかもしれない。でも急がなくてはいけない。カペルは出来るだけ慎重に、出来るだけ速く走ることにした。
 初めて抱き上げた女性は、思いのほか軽かった。
 アーヤが、その両手をそっと首にまわしてきた。出会ったときと同じ香りが、鼻をくすぐる。
「……ありがと」
 表情は見えない。腕の中でささやかれた言葉が、ただ、熱を帯びる。
 小さく頷くと、カペルはモンタナ村へと走り出した。

【小説インフィニットアンディスカバリー】
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テーマ: 二次創作:小説

ジャンル: 小説・文学

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