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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第四章 「光の英雄」_35 

 接合する力を失った塔の構造物が根こそぎ崩れ落ち、砂塵と瓦礫の瀑布となってオラデア山岳地帯の一角に降り注ぐ。
 瓦礫の一部が光の粒子をこぼし始め、塔の構造物自体が月の鎖と同じように消えようとしていると教えていたが、それを把握する余裕は今のカペルにはなかった。
 しっかりと把握できるのは、手に感じるアーヤの体温だけ。
 崩落に混じり、落下物の一部となったカペルの頭は一瞬で真っ白に飛んだ。だが、パニックが完全にカペルを捉えようとした瞬間、流れ落ちる視界に、シグムントに助けられたときの感触が重なる。
 シグムントが空を蹴って塔の外壁に取り付いたあのとき、恐慌に陥ったカペルを救ったのは「落ち着け」というシグムントの声だった。思い出されたその声が額の奥で弾けると、まだやれることがあるはずだとカペルを奮い立たせ、絶望に落ちそうになる心をつなぎ止めた。
「大切なものを見つけたら、何があっても守り抜け」
 シグムントの言葉に押され、カペルは必死でアーヤの手を引き寄せた。離すまいと決めた意志を力に変えて、守るべき大切なものを抱きしめる。
 視線が絡み合い、それだけで何かがつながった気がしたカペルの手をアーヤが強く握り返す。心の澱を融解させる熱を確認したのもつかのま、崩壊の轟音と落下の風斬り音が耳をつんざき、カペルに有無を言わせぬ現実を突き付けてきた。
 何か、何か出来ることはないのか……。
 月印を持たないカペルには、シグムントのような真似は出来ない。空を掴む手の無力感が希望を徐々に追いやっていくだけだ。
 諦めが再び頭をもたげてくる。
 刹那、崩壊の怒号に混じる誰かの声を、カペルは確かに聞いた。

「――ぺるー! おーい!!」
「かーぺーるーーー!」

 よく似た幼い声が二つ。次いで砂塵と瓦礫の瀑布を切り裂く巨大な影があたりを包み、「カペル、あれ」と聞こえたアーヤの声に促されて、カペルは天を仰いだ。
 大気の奔流を滑走し、こちらに徐々に近づいてくる紺碧の巨体。見る者を圧倒する存在の力を誇示し、巨大な質量を中空にとどめさせる翼が、崩れゆく塔の残滓を押しのけながらカペルの視界を埋めていく。
 直後に吐き出された咆哮が、カペルに「青龍様!」と叫ばせ、その背中に乗った子供たちの姿を確認させた。
「ルカ、ロカ!」
「助けに来たよー、カペルー!」
「ボクたちがいないと、カペルなんてこのざまだもん!」
 遠慮のない物言いにそれが現実だと認識したときには、カペルは無意識にその手を伸ばしていた。
 青龍の爪が間近に迫り、それを掴もうとカペルの手が空を掻く。
 アーヤを助けなきゃ……。
 その想いが限界以上に手を伸ばさせ、青龍の爪を掴もうとした瞬間だった。
 手が空を掴み、その目に青龍が遠ざかっていくのが映る。
 どうして……と離れる巨体に呆然としたのも一瞬、視界の端から塔の外壁がそそり立ってきて、カペルは思わず身を縮めた。それはまだ崩れ始めていなかった塔の中層部分で、そそり立って見えたのは、カペルたちがそれをかすめるように落下していたからだ。
 このままじゃ――
 新月の民は新月の民に過ぎず、落下を防ぐ力は今のカペルにはない。
 状況を覆す力。
 何かに抗う力。
 そういうものが必要な状況をのらりくらりとかわしてきたツケが、今さらのしかかってきているのか? いや、それは違う。自分の力では端からどうしようもないのだ。新月の民である僕が、こんな状況に巻き込まれたことが不運……。
 助かると油断した意志に靄がかかり、迫り来る大地にパニックが押し寄せてくる。弱気になったその瞬間から、助かる方法を模索する余力が霧散していく。
 もう駄目なのかな……

「カペル、落ち着いて」

 諦めかけたカペルの手をアーヤがぎゅっと握り締める。彼女の体温がシグムントのそれと重なり、二人の「落ち着け」という言葉が再びカペルの意識を引き戻した。
 アーヤの目は絶望していない。
 だから、僕も……。
 逃げそうになる自分を律するなにか。
 抗う意志を芽吹かせるなにか。
 自分の知らないそれらを、彼女の瞳に映し出されている感覚にはっとして、カペルは視線をあたりに振り分けて青龍の姿を探し始めた。
 変わったわけではない。忘れていたものを思い出したわけでもない。少しだけ背中を押してくれる誰かがいた。きっとそれだけなのだ。力の及ばぬ状況に諦めてしまう自分と、それでもまだ何かやれると踏みとどまる自分を分けるのは、手のひら一つ分の小さな熱。明日にはもう忘れて、今までの自分に戻っているかもしれない。それはそれでいい。ただ、その明日をむかえるために、その熱が今という状況に抗わなければいけないと教えてくれた。
 見上げた先に青龍の姿はない。
 それなら――

 そう意気込んだ瞬間、落下の浮遊感が消え、何が起こったと考える前に見知った身体の重みが戻ってきた。
 手にはざらつく紺碧の堅い皮膚。二人は、下へと回り込んだ青龍の背中にすくい上げられていた。
「助かった……?」
 その感触をまだ理解できず、アーヤときつく握りあった手ががちがちに固まって離せない。つないだ手の向こうに互いの無事を確認し、ようやく危機が遠のいたことを理解して、二人は胸をなで下ろした。
 必死になっただけで何も出来なかったな……。安堵に混じって自嘲が頭をもたげ、カペルは思わず苦笑した。
 我ながら情けない……。
 不意に冷やかすような視線を背中に感じて振り返ると、ニヤリと笑うルカとロカの顔がそこにはあった。カペルは慌てて場を繕おうと感謝を言葉にしようとしたが、
「あ、ありが――」
「カペルのウソつき!」
「おいていかないって言ったじゃないか!」
 思いがけない言葉に呆然とし、カペルは感謝の前に「ご、ごめん」と謝罪を口にするはめになった。二人を戦いから遠ざけるために取った行動が、今こうして自身を助けることになろうとは……。
「カペルのくせに生意気だぞ!」
「生意気だぞ!」
 ふん、と胸を反らす二人に「助かったわ。ルカ、ロカ」とアーヤが告げると、四人は時を合わせて笑い出した。
 身体から力が抜けていく。
 アーヤの手を離すことも出来たが、カペルはそれを離す気にはなれずにそのままにしていた。
 握り返される感触が伝わってくる。
 気恥ずかしさはすでに無く、幾度となく自分を助けた熱を手に感じながら、カペルの目は崩れゆく塔の姿を映し続けていた。

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