04« 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.31.»06

ふであと

  : 

徒然なるままに、もの書き。

スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
スポンサー広告  /  tb: --  /  cm: --  /  △top

第四章 「光の英雄」_37 

 塔を旋回する青龍の背から、カペルは地上に人影を探していた。少しずつ近づくにつれ、大地に何人分かの見知った姿を見つける。
 ほっとしたのもつかのま、崩壊する塔からこぼれていた光の粒子が爆発的に増え始めたのをカペルは見た。それはカペルたちもろとも、オラデア山岳地帯の一角を包み込むように拡散し、瓦礫と砂塵から一転、光の瀑布となって大地に降り注いだ。
 ヴェスプレームの塔の最後だった。
 月の鎖のそれを数倍のスケールで描き出した光の放散の中で、塔の中心部にその粒子が塊を形成していく。ヴェスプレームの塔の核とも呼ぶべきそれが巨大な光の鳥となったように見えた直後、それは爆発を引き起こし、滞留していた粒子を吹き散らした。
「安らかに眠れ、朱雀……」
 青龍が呟いた。それが聞こえた気がした。
 爆発の衝撃波とともに散った光の粒子が、山上に巨大な光臨を現出させている。それは遠くフェイエールの街からも視認できるほどの大きさで、この直後に街が歓声に包まれたことをカペルたちは後になって知った。
 青龍の展開した障壁の中で、カペルは光の粉となったヴェスプレームの塔が演出する幻想的な光景を至近で眺めていた。塔に堆積していた最後の粉塵もそれによって吹き飛ばされ、破壊に押し包まれていた一体の視界も明瞭になる。異形を誇ったヴェスプレームの塔の跡には下層部を担っていた古い神殿の残骸だけが残り、もはや見ることのできないその姿は、すでに夢幻に類する何かでしかなかった。
「カペル、あそこ」
 その残骸から少し離れた場所、アーヤの指さす方向に再び仲間の無事を確認すると、青龍が何も言わずにそちらへと降下を開始する。ユージン、ミルシェ、ドミニカと、彼女に肩を貸されているエドアルドが見え、エンマとその部下の姿が周りにあった。
「あれ、おじちゃんは?」
「どこー?」
 そこにいないという事実がバルバガンの身に降りかかった最悪の事態を想起させると、心臓を掴まれる息苦しさが襲ってくる。そして、カペルにはもう一つ、そうなるだけの理由があった。
 シグムントのことをみんなに話さないといけない。
 それはシグムントに助けられた自分の責務。その思いが胃の腑を重くしたが、だからといって、これだけは他人に任せる気にもなれなかった。
 地表が近づいてくる。


 青龍の背を降りたのが四人だった段階で想像がついたのだろうか。シグムントがそこにいないという状況から来る当然の帰結に、説明をする前に皆の顔に影が走るのをカペルは感じた。
「あの――」
「シグムントは負けたのかい?」
「あ……」
 先回りしたユージンに一瞬、カペルは言葉を失った。
「僕を守って、それでレオニードと相打ちに……」
「そうか」とだけ呟いたユージンの顔は、眼鏡にやられた手によって見えなかった。隣にいたミルシェがその場に座り込み、伏せた顔から雫がこぼれるのを見たとき、「ねえ、バルバガンは?」と袖を引いたルカとロカに問われ、カペルは言葉に窮した。ドミニカが目を伏せ、ユージンが眼鏡に手をやったままなのを見れば、自ずと答えは出てくる。
 不意に「カペル」と青龍の声に呼ばれ、そちらを振り返った。
「どうしたんです?」と問うたカペルには答えず、青龍は瓦礫となったヴェスプレームの塔の跡に目をやっている。あの塔のものとは思えぬ程度の瓦礫も、神殿一つ分ともなればそれなりの量で、戦いの激しさを物語るには十分だった。
 無言を続ける青龍の視線を追い、瓦礫の方へと視線を流す。直後、その一部がぐらりと揺れるのを視界に捉えた。
 一際大きな瓦礫を押しのけて現れたのは、ふわりと浮かびあがる光の玉だった。青く揺らぐそれはどうやら青龍の作り出したものらしく、その中に仰向けになった人の姿が見えた。真っ二つに割れていた瓦礫を押しのけて、青い光球がこちらへとゆっくり飛んでくる。
「バルバガン!」
 ユージンが叫ぶのが聞こえ、カペルは光球の中にいるのがバルバガンだと理解した。ふわふわと浮かびながらこちらへとやってきた光球は、青龍の目の前に降りると、バルバガンだけを残して消えた。
「まだ息がある」
 バルバガンの身体を覆う無数の傷が痛々しく、思わず息を飲んだカペルだったが、青龍の言葉にはっとする。
 まだ息があるなら……。カペルはミルシェを呼ぼうと振り返った。
「ミルシェさ――」
 その言葉より早く、カペルの横をミルシェが駆け抜けていく。倒れたバルバガンの横に取り付くと、すぐに温かい光を放った手が彼に捧げられた。
「これ以上、誰も死なせない……誰も……」
 鬼気迫ると言ってもいいその表情に、カペルは胸を突かれた。
 死んだ。
 シグムントは死んだのだろうか。
 サランダの言葉からすれば、まだ希望はある。ただ、シグムントがいないということだけは、はっきりとしていた。月を縛る鎖はまだ残っているというのにだ。
 だから――
 胸のペンダントに手をやり、自分が負おうとしている責任の重さを確認したカペルは、ふとアーヤへと視線を泳がせた。治療の様子をうかがっていた顔が上げられ、澄んだ青い瞳がこちらへと向けられる。
 世界の命運を背負おうとするから重く感じる。
 ただ彼女がそう望んだから。そう考えれば勝ちすぎる荷も軽く感じられるから不思議だった。そんな風に思う自分に、らしいな、と頬を掻いたカペルは、意を決して皆の方をむき直した。
「みんな、聞いてください」
 ペンダントを握り、カペルは言った。
「光の英雄シグムントは死んじゃいない」
「カペルくん……?」
 ユージンが怪訝そうにこちらを見るのを感じたが、カペルは続ける。
「この戦いで死んだのは、旅芸人のカペル、ただ一人」
「……」
 ミルシェはバルバガンの治療を続けたまま、こちらを見ようとはしない。
「光の英雄はここにいる」
 シグムントの代わりに月の鎖を斬る。その決意を言葉にしたカペルだったが、答える者はなく、しんと静まってしまった空気に後ずさりそうになるのを耐えることになった。
 沈黙を破ったのはユージンだった。終始眼鏡にやっていた手を下ろした彼は、まっすぐにカペルの方を見て言った。
「カペルくん、自分で言ったことの意味をわかっているのかい? それがどれだけ大変なことになるのかを」
「そのつもりです」
「そうか……」
 かちゃりと眼鏡を押し上げ、ユージンが続けた。
「カペルくん、一度始めたら逃げ出したりはできないよ。僕らは世界を騙し続けなくちゃいけない。月の鎖を斬る光の英雄はここにいる。鎖を全て斬り捨てるまで、僕らはそう言い続けなくちゃいけないんだ。その意味がわかるね?」
「うっ……」
「シグムントがいなくなっても、世界はまだ英雄を必要としている。君がそれでいいというのなら、僕は君を利用させてもらうよ。あいつの意志を遂げるためにも」
 自分の中で抱いた決意も、他人の言葉を通して確認されれば別のものに見えてくる。たたらを踏みそうになる足を押しとどめ、「は、はい」とかろうじて答えたカペルは、直後、「ふざけるな……」と絞り出された声を聞いた。
 ドミニカに肩を借りながら、何とか立っていたエドアルドが顔を上げぬまま呻いていた。
「おまえに……おまえなんかに……シグムント様の代わりができてたまるか……ふざけるな……!」
 吐き出した言葉を最後に、エドアルドは再び沈黙した。
 最初から受け入れてもらえるとは思っていない。光の英雄シグムントと同じことをできるなんて自惚れる材料も見当たらない。ただ、エドアルドの言葉から、彼のシグムントへの思いの強さがわかってしまって、それが辛かった。
 意識を失ったエドアルドを支えながら、今度はドミニカが言う。
「坊や、覚悟はいいんだね? きつい毎日になるよ、きっと」
「はい、わかってます」
 そう言うと、ドミニカはふっと笑って肯定の答えとしてくれた。
「とにかく、一度フェイエールに帰りましょう。ちゃんとしたベッドにバルバガンを寝かせてあげないと」
 ミルシェが立ち上がってユージンに言った。とりあえずの応急処置は終わったのだろう。張り詰めていた雰囲気も少しだけ緩んだ気がする。だがミルシェはこちらを見ることはなかった。
「そうしよう」
 ユージンの言葉を合図に、それぞれがフェイエールへの道を歩き出す。
 ぼろぼろの、失意の凱旋だった。
 これで良かったのかな。シグムントさんの代わりなんて、出過ぎたことを言っちゃったんじゃ……。力なく並んだ背中を見つめ、逃げ出したいと思う弱い自分が頭をもたげた瞬間、そっと手に触れてきた温もりをカペルは感じた。
「やれるだけやってみなさい。フォローはしてあげるから、ね」
 自分に向けられたと信じられる笑顔を見つけ、凝りそうだった心の澱がそれだけで溶け出す。そんな自分の現金さにカペルは笑った。
「頼りにしてます」
「うん」ともう一つ弾けた笑みを残して、アーヤは皆を追いかけていった。
 揺れる黒髪をぼんやりと見つめた後、カペルはふと塔の方を振り返った。瓦礫の上に浮かんだ青白い月を仰ぎ、自分の背中を押すもう一人の姿をそこに見つけたカペルは、彼に向かって語りかけた。 
「シグムントさん、見ていてください。頼りないと思うし、どこまでやれるかもわからないけれど、僕、やれるだけやってみます」
 シグムントが笑ったと感じられたときには気負いも消え、少しだけ軽くなった足を返し、カペルはその場を後にする。
「何やってるのー? 置いていくわよー」
「待ってよー」
 その運命を知ってか知らずか、鎖に縛られながらも悠然とたゆたう月が、虚空からカペルの歩みを見下ろしていた。


<第一部 完>




【小説インフィニットアンディスカバリー】
【Prev】/【あとがき】
スポンサーサイト

テーマ: 二次創作:小説

ジャンル: 小説・文学

コメントの投稿

Secret

△top

この記事に対するコメント

△top

トラックバック

トラックバックURL
→http://amaenovel.blog78.fc2.com/tb.php/106-93935ca1
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

△top

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。