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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第二章 「鎖を斬る者たち」_01 

 モンタナ村に来たときの道を下ると、アーヤを抱いて駆けた平原に出た。広大な原野には、崩れた神殿の跡やそれらを繋ぐ石畳が散在していて、古くには人の栄えた土地だったということを教えている。しかし、今はそれらも苔むし、雑草に飲み込まれ、栄華の跡も緑一色に塗られた草原のアクセントでしかない。
 世界の陸地の半分を占める南大陸、その東部一帯を占めるこのルセ平原は、ブルガス王国に豊穣をもたらす穀倉地帯でもある。王都ブルガスを中心にして、西部には大規模な開墾地が広がり、そこで生産される穀物はフェイエール首長国やハルギータ女皇国といった生産能力の低い隣国にも輸出され、世界の半数以上の台所を支えていると言ってもいいほどだ。ときにその余剰を無償供与することで隣国と厚い友好関係を築いているのは、現在の統治者である蒼竜王ネストールとそれを支持する国民の温厚な性格からと言われている。
 東部には未開の原野が広がり、モンタナ村はその北端に位置している。原野には中心を東西に分断している岩壁があり、村から王都まではそれを迂回するために、かつては十日以上を必要としていた。だが先王の時代に岩壁の最も薄い部分に穴が穿たれ、今はそのおかげで二日あればといったところまで短縮されている。これはモンタナ村の住民に対する施策というよりは、ブルガスアップルに代表されるグラード森林の資源を確保する為という側面が強いが、往来が増えれば双方に利益をもたらすということもあり、住民には歓迎されていた。
 しかし、その穀倉地帯にも月の鎖の影響が徐々に現れはじめていた。ルセ平原の東端にあるプレヴェン城。かつては王族の別荘地として栄えていたこの城に月の鎖が打ち込まてから三ヶ月、そこにいた人々は王都まで避難し、今はそれを守る封印軍が駐屯しているだけだ。
 平原はその東端から徐々に腐り始め、凶暴化したモンスターが跋扈を始めた。原野を利用して行われていた遊牧もその影響で行われなくなり、熱狂的な新鮮牛乳マニアからは怨嗟の声が上がっていた。
 
 岩壁を抜けた頃に日が落ち、カペルたちは野宿の準備に入った。雨の降る気配はないので、薪を集めて火を炊くだけの簡易なものだ。獣の嫌う匂いを周囲にばらまくことで、とりあえずの安全は確保できる。
「なんかキャンプみたいで楽しいねー」
「キャンプ! キャンプ!」
 村を離れたことのなかったルカとロカは、ちょっとしたピクニック気分ではしゃいでいる。これから解放軍に合流して封印軍と戦うことになるというのに、子供たちは元気だ。
「ほら、危ないから遠くまで行かないでよ」
「わかってるって。もう子供じゃないんだから。あっ、でっかい虫!」
「……大丈夫、なのかな」

 食事を終えると、旅の疲れからか子供たちはすぐに寝てしまった。
 満天の星空。
 心地よい夜風。
 揺れる炎。
 カペルは懐からさっとフルートを取り出すと、アーヤに対して大袈裟なお辞儀をしてみせた。
「お嬢さん、一曲いかがでしょうか」
 少し驚いた顔を見せたアーヤだったが、それもすぐ微笑に変わり、炎に照らされる黒髪をそっと耳にかけながら調子を合わせる。
「よろしくてよ。聴かせていただこうかしら」
「ありがとうございます、では」
 アーヤが目を瞑り、聞く体勢に入ったことを確認したカペルは、フルートに唇を合わせた。青龍にもらったフルート、といっても特別な音が鳴るわけではない。それはごくありふれたフルートの音で、癖もなく、だからこそ聞くものの耳朶を心地よく震わせる。
 曲は、神官様の家で月を見上げながら口ずさんだあれだ。タイトルは……まだ言わなくていい。
 カペルのフルートが旋律を奏で、近くに揺れる虫の音が彩りを添える。薪の爆ぜる音はさしずめリズム隊といったところか。
 曲が終わり、カペルは再び大仰なお辞儀をした。
「いかがでしたでしょうか」
 アーヤも調子を合わせる。
「悪くなくてよ。カペルさん、この曲のタイトルは?」
「『負け犬のセレナーデ』といいます」
「……聞くんじゃなかったわ」
 アーヤが大きく肩を落とし、そして顔を見合わせて二人は笑った。芝居がかったやりとりはこれで終わり。
「ははは」
 音楽は、自分を表現する言葉と同じだ。何を考え、何を思い、何を伝えたいのか。その人の心の有り様が無形の産物となる。少なくとも、カペルにとっての音楽はそういうものだった。言葉で伝える相手がずっといなかったカペルが音楽にたどり着くのは、必然だったのかもしれない。
 言葉で自分を伝えようとすれば、相手は身構える。カペルの言葉は相手の言葉に翻訳され、カペルの思いは相手の中で変質する。そして、カペルの言葉を素直に受け入れてくれる人は、今までほとんどいなかったのだ。だから言葉で心が伝わることはない。
 だが音楽なら……。
 音楽なら、相手の中で変質することはない。ただ、相手の心に触れられるか触れられないか、それだけだ。自分の心が伝わるかはわからないが、ただ相手に伝えようとしたという実感は残る。それが途中で変質することもなかったと思える。その些細な繋がりが、カペルにとっては重要だった。
「まあいいわ。悪い曲じゃなかったしね」
 薪がパチパチと爆ぜる向こうで、アーヤは変わらず微笑している。
 彼女には届いただろうか……。

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