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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第五章 「心の壁、心の闇」_08 

 眼前に広がる巨大な湖は、数年前には無かったものだ。
 カサンドラ城の半身を飲み込み、今なお広がり続けるこの水たまりは、その深さにもかかわらず、湖底がはっきりと見て取れる。
 わずかの不純物も許さぬ死の湖。
 いつしか水上神殿と呼ばれるようになったカサンドラの王城を外界と隔絶するその姿は、見る者の心さえもからにしてしまいそうなほどの虚無をたたえている。
 剣にほころびがあった。
 光に捧げて見た愛用の剣にあったそれは、ヴェスプレームの塔での一戦でつけられたものだろう。エドアルドといった解放軍の戦士の顔を思い出し、ドミトリィは傷ついた剣を鞘に収めた。
「俺には俺の戦う理由、か……」
 その男が言っていた言葉を口中に繰り返し、ドミトリィは室内へと戻っていく。
「ドミトリィ、始めるぞ」
 イスケンディバルがそう言った。かつてはカサンドラの騎士として名をはせたこの男は、封印軍においてなお、厳格な眼差しを失うことなく、カサンドラの民に対して思いをはせている。剣を志したことのあるドミトリィにとっても、敬慕に値する男だった。
 そのイスケンディバルの目の前には、魔方陣が描かれていた。それを囲うようにサランダとニエジェランが立っているのを確認すると、ドミトリィもまた所定の位置についた。目の前には魔方陣。四人に挟まれたその中に、一人のハイネイルが横たわっている。
「うう……」
 呻き声を上げていることが生きている証だ。足の腱を切られ、身動きを取れなくはなっているが、その男はまだ生きている。
「ヘルドはどうしたんだい?」サランダが問う。
「あいつなら来ないよ。研究が忙しいとかなんとかと伝令が来ていた。まったく、集団行動の出来ないやつはどうかと思うね」
 レオニードがいないという焦燥など見て取れないニエジェランが軽口をたたく。ドミトリィにはそれが腹立たしかった。
「まったく、やっかいなところに紛れ込んじゃったもんだ」
「黙っていろ、ニエジェラン」
「ドミトリィ。だからボクに命令するなって言ってるだろう」
「そのあたりにしておけ……、やるぞ」
 遮るようにしてイスケンディバルが言った。
 イスケンディバルが眼前に剣を突き出したのに合わせ、残りの三人もまた同様にする。そして、同時に四つの月印を発動させた。
「ぐあああああああ!!」
 直後、魔方陣に鈍色の光が立ち上がり、中のハイネイルが断末魔のような悲鳴を上げた。胸を苦しそうに掻きむしり、口から泡を吹き始める。次いで、背に光る三日月が音を立てて割れると、そこに溜め込まれていた膨大な月の力が魔方陣にあふれ出した。
 ハイネイル一人分の月の力を吸い上げた魔方陣は、その直上の空間に歪みを形成し始める。その向こうに見えた見知らぬ世界の姿に、ドミトリィは思わず息をのんだ。
「セラフィックゲート……月の神に捧げし贄の祭壇、か」
「ただの化け物の巣窟だろ? ふひひ、面白そうじゃないか」
 もぬけの殻になったハイネイルを舐めるように見ながら、ニエジェランが野卑た笑いを浮かべて言う。
 神話の時代の獣がうごめく、月へと続く生け贄の祭壇……。光の英雄との戦いの中で、レオニードが消えた場所へと、封印騎士たちは向かおうとしている。
「さあ、無駄口をたたいている暇はない。行くよ、ドミトリィ、ニエジェラン」
 この中で一番焦燥しているように見えるのはサランダだ。その彼女が真っ先に歪みの中へと身を投じた。
「へいへい。レオニード様を救いに行かなくちゃー、だからね」
「救うのではない。お迎えに上がるだけだ」
「……ドミトリィ、ほんと、おまえは面倒なやつだな」
 そう呟きながらニエジェランも中に入る。
「ドミトリィ、あの方を頼んだぞ」
「はい。そちらのことは貴方に頼みます、イスケンディバル」
「ああ」
 英雄を失ってなお、解放軍は活動を再開した。どうやら、あの英雄と瓜二つの少年が身代わりをやっているらしい。
 だが、そのことについて考える余裕は今のドミトリィにはない。
 今はただ、レオニード様をお迎えに上がらねば……。
 自分の見いだした希望を取り戻すため、ドミトリィもまた、目の前に口を開けた歪みの中へと踏み出した。

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