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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第六章 「発病」_05 

 騒ぎは港前の広場からだ。
 逃げ惑う人たちの間をすり抜けてたどり着くと、カペルはそこに敵の姿を捉えた。
「あれは……!」
 封印騎士、か?
 背中から炎のような翼を広げる騎士の姿はまさにそれだ。ただ、明らかに何かがおかしい。
 封印騎士の翼は暗闇を思い出させる禍々しい黒だ。だがこの騎士のそれは、輪郭だけを黒色の光がぼんやりと描き出しているようで、向こう側が透けて見えていた。いや、透けていたのは翼だけじゃない。その身体も、身体を覆う甲冑も、手に持つ剣さえもが透けているのだ。
 透明の騎士が剣を振り上げる。通行人の男性が腰を抜かしているが、騎士が目の前にいるのにも関わらず、ただただ怯えながら周りを見回しているだけだ。
「危ない!」
 カペルが叫んだ直後、騎士の剣が男性を捉え、男性は鈍い悲鳴を上げてその場に倒れた。
 何故逃げない?
 怯えていて動けなかったのだろうか。でも、男性はまったく騎士の方を見ていなかった。まるでその存在に気づいていないかのように、暗闇の中で正体のわからない何かに襲われているかのように、その場で震えていただけだ。
 何かがおかしい。
「なんだ、何が起こっている!」
 エドアルドが叫ぶ。まるで見えていないかのように。
「大丈夫ですか!?」
 アーヤが騎士に斬られた男性に駆け寄る。まだ騎士がそこにいるのに、彼女もまた、そこには何もないかのように不用意に近づいていく。
 ……みんなには見えていないのか?
 結論を出すよりも早く騎士が剣を振り上げたのが見え、カペルは考えるより早くアーヤを追いかけた。
「アーヤ!」
 剣がアーヤを切り裂く寸前にカペルは彼女に飛びついた。抱きすくめながら転がる格好になり、そのまま剣士から距離をとる。
「ちょ、ちょっとカペル、いきなり何するのよ! ……えっ?」
 振り下ろされた透明の剣が石畳をたたき割り、派手な音を立てて石くずをまき散らす。崩れた石畳はアーヤにも見えているらしい。
「みんな、見えないの!?」
「見えないって?」
 本当に見えていないみたいだ。でも、どうして自分にだけは見えているんだ……。
「何を言っている! カペル、どういうことだ!」
 エドアルドが叫んでいるが、カペルはどう説明すればいいかがわからなかった。みんなに見えない敵が自分にだけ見えている。それ以外のことは何もわからないのだから。
「おい、カペル!」
 エドアルドを無視して、カペルは剣を取る。
 自分にしか見えないのなら、自分がやるしかない。恐怖を噛み殺し、透明の騎士に相対する。
 騎士が吠えている。獣のような咆哮は、どこか孤独の影がつきまとっているように感じられた。
 ――俺はここにいる。
 そう叫ぶような慟哭の中にいて、まるでこちらは意識の外だ。
 その隙を突いて一気に間合いを詰め、カペルは剣を振り下ろした。
 しかしあるべきはずの手応えはなく、透明の身体を剣がすり抜ける。
「えっ、どうなって……うわっ!」
 こちらに気づいた騎士が拳を振り上げ、カペルは殴り飛ばされた。
「こっちの攻撃は当たらないのに、こんなのずるいよ……」
 口の中に血の味が広がる。
 見えても攻撃が当たらない。じゃあどうやって戦えばいい?
 剣を支えに立ち上がりながら巡らせた思考は、とても答えが見つかりそうにないものだった。
「カペル、伏せて!」
 そこにアーヤの声が聞こえて、カペルは咄嗟に頭を下げた。頭上をアーヤの放った矢が光軸を引きながら飛翔し、見えないはずの騎士に向かって直進する。
 だが、アーヤの矢は騎士の鎧に弾かれてしまう。
「当たったの?」
 騎士の姿が見えないアーヤにとっては、矢が空中で突然落ちたように見えたのかもしれない。驚きを隠せないでいる。
「アーヤ、見えるの?」
「当てずっぽうよ! どうすればいいの、見えないんじゃ戦いようがないじゃない」
 カペルの攻撃と違って、アーヤの矢は騎士に触れることはできた。だけどアーヤには敵の姿が見えていない。
 見えさえすれば戦えるのに、どうすれば……。
 見えないなら見えるようにすればいいのだが、いったいどうやって?
 血のにじんだ口元をぬぐい、カペルは立ち上がった。答えの出ぬ問いを前に自然と視線が下を向く。
 胸のペンダントが揺れているのが見えた。
 瞬間、一つの記憶がカペルの脳裏をよぎる。
 それはヴェスプレームの塔での記憶。シグムントの記憶だ。
 塔の外壁に取り残されたとき、結界によって出入り口が見えなくなっていた。その結界を取り払ったのは、カペルのフルートだとシグムントは言った。
 見えないものを見えるようにした、フルートの破魔の力。
 もしその力が本物なら……。
「ちょっと、カペル。こんなときに何してるのよ!?」
 アーヤの声も聞かず、カペルはフルートを取り出して唇に当てた。演奏するのは、シグムントに教わったあの曲だ。
 音に合わせて、青龍のフルートがぼんやりと光を放つ。
 音色は喧噪を押し返し、その場を満たすように響き渡る。
 直後、周りを威嚇するようにしていた騎士が頭を押さえて身もだえ始めた。輪郭を構成していた黒い光が青龍を思い出させる青い光となって明滅し、伸張したその光は半球状に騎士を包み込むと、中に実体を伴った漆黒の姿をあらわにさせる。
 アーヤたちが驚きを浮かべるのを横目に、カペルは首にかかるペンダントの重みをしっかりと感じ取っていた。

 助かりました、シグムントさん……。

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