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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第六章 「発病」_08 

「早く行くわよ」
「ちょっと待ってよー」
 アーヤに手を引かれ、なかば引きずられるようにして宿を飛び出したのは、窓の外に見たことのないものを見つけたからだ。宿の部屋から見えたのは港のある方角で、カペルたちがそこに見つけたのは「雨」だった。
 当然、雨が降っていただけならアーヤもカペルもこんなに驚くことは無かっただろうが、それは普通の雨ではなかった。その雨は、まるで花火か何かのように金色に光り輝いていたのだ。
 ケルンテンの街に降る、金色の雨。
 宿の主人に聞いてみたところ、この現象が見られるようになったのは最近のことらしい。そして、ケルンテンの人たちはそれを「月の雨」と呼んでいると言う。月の雨は、それを浴びたものの体調や月印の調子をよくするらしく、だから月の恵みなのだそうだ。
「月の雨、か……」
 アーヤに引きずられながら、カペルは空を見上げてぽつりと呟いた。
 港に続く門を抜ける。
 昨日、透明の騎士と戦った広場がそこにはある。
 その光景にカペルは思わず息をのんだ。
 港からの客人を迎えるケルンテンの玄関、というのがこの広場の役割で、国の威厳を示すためなのだろう、広場の造りは神殿そのものだった。
 広場を覆う巨大なアーチとそれを支える石柱。それぞれに彫り込まれたレリーフのいくつかは昨日の戦いで崩れてしまっていたが、その荘厳な印象はまるで損なわれていない。
 それらに加えて、今は空から金色の雨が降り注いでいる。はらはらと舞い落ちる金色の雫は、どこか月の鎖を斬ったときのそれに似ているとカペルは思った。
「綺麗……」
 瞳に映った雨が揺れたかと思うと、アーヤは吸い込まれるように広場へと歩み出した。手のひらで雨を受け、「服は濡れないのね」なんて言いながら空を仰ぎ見ている。
「ほんと、なんだか調子が良い感じ……」
 予感はあった。
 つられて空を仰いでみると、そこに浮かぶのはいつもの月だ。月の雨は、その名のとおり月から降っているようにも見える。だから、それが本当に月の恵みなのだとしたら、やはり自分には影響を及ぼさないものでしかないのではないか。その予感が、手のひらに消えていく金色の雫を見てはっきりとしてしまった。
 カペルの身体にはなんら変化は起こらない。
 わかっていたことでもあったし、だからといって卑屈にはならなかった。いや、なれないのだ。
 金色の雨が降り注ぐケルンテンの港前広場はとても幻想的で、そこをくるくると舞うアーヤの様子はお世辞抜きに綺麗だと思えれば、そんな気分も霧散していくのだから。
 こういうのが似合うあたり、やっぱりアーヤはお姫様なんだな……。そんなことを思いながら、カペルはしばらくアーヤの様子に見とれていた。
「カペルもこっちに来なさいよー」
「そんなにはしゃいでると、滑って転んじゃうよ」
「私がそんなドジを踏むわけな……きゃあ!」
 見えた!
 あたりを包む幻想的な空気とは真逆の、即物的ななにか。現実へと引き戻されるに十分な理由を目の当たりにして、カペルは思わず身を乗り出した。
 だが、遠くてよく見えなかったような気もする。アーヤの意志に反して舞っていたスカートは、すでに取り押さえられている。
「……見たでしょ?」
 すぐに立ち上がり、笑顔を浮かべるアーヤの手には、何故か弓。
「み、見てないよ」
「嘘よ、絶対見たでしょ!」
「いや、ほんとに見てないよ。だからもう一回転んでもらえると嬉しいなぁ、なんて」
「カペル!」
 今度は顔色と態度を一致させながら、アーヤがぷんすかと近づいてくる。腰の矢入れに手をやりながら。
「アーヤさん、そんなに急いだらまた――」
「きゃあ!」
 転んじゃった。さっきよりも近くでだ。
「……赤、か」
 満足げに頷いていると、「カペル、いま何て言った?」とアーヤの声が低く耳朶を刺激した。
 ごうと音を立ててアーヤの周りの空気がゆがむのが見えた。足下の凍った路面は徐々に融解を始め、降りかかる雪はその場で蒸散して消えていく。アーヤの手には弓。そして矢。
「見たわよね?」
 今度は言い逃れることは難しそうだった。
「あ、赤ってフェイエールの色だから、アーヤにすごく似合って……」
 また反転して、周りの状況とは似つかわしくない穏やかな笑顔。カペルは思わず次の言葉を飲み込んでしまった。
 瞬間、アーヤの表情はまたまた反転する。
「ちょ、待って! ふ、不可抗力で――」
「その目、ずっと開かなくしてあげるわ」
 矢が弓につがえられると、同時に爆炎を吹き上げて炎の翼を形成していく。確か、カーディナルクロークという名のアーヤの技だ。フェイエールの守護聖獣だった朱雀を模した、アーヤ必殺の一撃。
 ……必殺?
「そ、そんな猟奇的な発言、アーヤさんには似合わないとおも――」
「問答無用!」

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