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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第六章 「発病」_12 

 酒場を出て宿に戻る途中、左手に教会が見えてエドアルドは足を止めた。ブルガスやフェイエールにはない、立派な教会だ。そこに祭られているだろうベラの姿を幻視すると、エドアルドはふいにフェイエールで受けた月印の儀式を思い出し、自分の手に光る月印に目をやった。
 ヴェスプレームの塔での戦いのとき、こいつは確かに俺を飲み込もうとした。途中から記憶が飛んではいるが、ドミトリィに突きつけられた屈辱的な言葉は覚えているし、ドミニカやバルバガンに助けられたこともわかっている。だが、この暴れ馬を御し得なければやつには勝てないだろう。それと理解はしていても、その自信がいまのエドアルドには無かった。
 ……いや、それじゃ駄目だ。悩んでいる暇があったら一回でも多く剣を振ればいい。自分が強くならなければ、誰がシグムント様の代わりをやるというのか。
 迷いと、頭に浮かんだカペルの顔を払うように首を振ったエドアルドは、もう一度教会に目をやった。
 そのとき、知った人影が教会の裏に消えていくのが見えた。
「あれは……ヴィーカか?」
 さっきのマスターの表情が思い出され、エドアルドは何気なくその後を追う。
 角を曲がるとそこは袋小路になっていて、ヴィーカの背中と三人の子供の姿があった。
「おい、何をやっている?」
「ん、あんたは確か解放軍の」
 振り返ったヴィーカの後ろから、ボロを着た三人の子供がこちらをのぞき込んでいる。ヴィーカもまだ子供だが、三人はまだ十歳にも満たないだろう少年と少女だ。
「うおー、でっけー剣!」
「見せて見せてー」
 どういう関係だと考えを巡らしていたエドアルドは、いきなりじゃれついてくる子供たちに思わずたじろいでしまう。
「これはおもちゃじゃない。危ないから近寄るな」
 そう叱っても足下の子供たちは離れようとしない。だから子供は苦手なんだ……。
「へへ、いいだろ? 減るものじゃないし」
「この子たちは何だ、ヴィーカ」
「戦災孤児だよ。王のいなくなったカサンドラを巡って、ケルンテンとハルギータが戦争をしたのは知っているかい?」
「ああ」
 突然の王の失踪により、カサンドラは統制を失った。その国土を切り取ろうとケルンテンが進軍し、それをカサンドラと親交の深かったハルギータの軍が阻もうとして、結局はカサンドラ領内での戦争となった。
 戦争は泥沼に陥り、国土の荒れたカサンドラはもう終わりだと誰もが思っていた矢先、圧倒的な力を持ってその二国を領内から追い出したのが、レオニード率いる封印軍だ。旧カサンドラ軍の多くがそのまま封印軍に参加しているのはそのためで、そこに新月の民やら何やらが合わさって今に至っている。
 考えてみれば、カサンドラ王の失踪が今の状況の引き金になっていると言えなくもない。
「この国の最下層は、他の国のそれに比べてひどいもんさ。地べたにいる人間なんて見ようともしないやつらがてっぺんにいるんだから、こいつらみたいな戦災孤児は行き場を失っちまう。一応教会が面倒を見てくれてはいるけど、それだって最低限だからさ」
「だからヴィーカが遊んでくれるの」
「お菓子も買ってくれるもん」
 子供たちの声と目は、ヴィーカを信頼しきっている。それは少しまぶしく感じるほどだった。だが、ヴィーカがスリをやっているのをエドアルドは知っている。
「盗んだ金で、か?」
「富の再分配ってやつだよ」と得意げに言うヴィーカ。
「狙うのは金持ちばかりさ。まぁ兄貴の時は別だけど」
「……そうか」
「怒らないのか? なんか意外だな。あんたは堅物そうだから」
「行き場を失うっていうのは、辛いことだからな」
「ふーん、あんたもいろいろあるんだ」
「……」
 思い出すのは、シグムント様と出会った頃のこと。
 両親が他界し、それまでの恵まれた生活は一変した。月の鎖の影響で患った両親の病に、一人、また一人と周りから人がいなくなっていき、気がつけばエドアルドは孤独だった。
 もしあのときシグムント様に出会わなければ、俺は……。
 昔の自分を重ね合わせながら、エドアルドは子供たちの頭を撫でてやった。
「そうだ、ヴィーカ。もうすぐここを発つことになるから準備しておいてくれ」
「おいらが道案内でいいのかい?」
「酒場のマスターのお墨付きだ。問題ないだろう」
「へへ、あの親父もたまには良いことを言うね」
 鼻をこすってみせるヴィーカの得意げな顔に、マスターとの信頼関係がよくわかる。
 エドアルドは思わず笑みをこぼした。
 そういえば笑うのは久しぶりだな、と張り詰めた心が少し緩んだそのとき、子供の頭をなでるエドアルドの手に、一粒の雫が降り落ち、消えた。
 それに続くように、音もなく、重さもなく、金色の雨が降り始める。
「月の雨か……」
「降り始めたときは驚いたけどさ、もう見慣れちゃったよ。身体の調子はよくなっても腹がふくれるわけじゃないしな」
 身体の奥が熱を帯びる。緩んだ心の隙間から染みこむように、月の雨はエドアルドの身体を満たしていく。
 手の月印が脈打った。
 身体の熱も、手の疼きも、エドアルドには覚えのある感覚だった。

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