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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第六章 「発病」_13 

 久しぶりに作るから、まずは簡単なベリィタルトから。
 レッドベリィがカペルの好物の一つだから、というわけじゃない。久しぶりだからまずは作り慣れたものを作ろうと思っただけ。
「どう?」
「おいしいよ」
 そして次が本命。
 ケルンテンは港町だから、集まる食材も豊富だった。
 オラデア山岳地帯の酪農家が生み出した「フェイエールの奇跡」とも賞される一品「オラデアバター」が手に入ったのは行幸だった。オラデア砂丘の熱波に晒されても溶けず、それでいて口の中では濃厚な甘みと一緒になってとろけ出す。それは口にしたものの舌も一緒に溶かしてしまうとさえ言われる一品で、フェイエール小麦との相性はばっちりだ。
 それに加えて、砂丘に生息するガルーダという怪鳥の卵、通称「キングエッグ」も見つかった。凶暴なガルーダの巣からこれを採取するのは容易ではなく、これもまた希少な一品と言えるだろう。
 このレア食材がそろったことで、アーヤのバターケーキはまさに「激レア・バターケーキ」へと変貌を遂げたのだ。
 これで勝てない相手など、いるはずがない。
「どう?」
「うん、おいしい」
 にもかかわらず、カペルの反応は全く一緒。何を食べても「おいしい」の一言だ。明日のコンテストに向けて味の調整をしたいというのに、全くもって役に立たない。
「でも、ほんとにおいしいんだって」
 ただ、これだけおいしそうに食べてもらえれば悪い気はしない。それは料理をする人なら誰だって同じだろう。ご多分に漏れずアーヤもそうで、カペルがケーキをほおばるのを見ていたら毒気も抜けてしまった。
「はぁ、もういいわ」
 そう言って微笑むと、アーヤも一かけ、自分のバターケーキをほおばった。カペルはカペルで別のケーキに手を出し始める。
 がっつく様子を半ば呆れながら見ていると、カペルの頬に生クリームがついているのが見え、考えるでもなしにアーヤは手を伸ばしていた。
「ほら、クリームがついてる」
 そして、そのクリームを人差し指で拭き取ると、何気なくぱくりと自分の口にやる。
 まるで子供ねと苦笑していたアーヤだったが、甘さが舌の上を通過した直後にふと我に返り、自分の行動を顧みた。
「あっ……」
 自分の人差し指を見つめ、次いでカペルの頬を見遣ると、彼は何を気にするでもなくまた一口、ケーキをほおばっている。
 ……一人で意識して、なんだか私がバカみたいじゃない。
「ん、どうしたの?」
「なんでもないわよ、バカ!」
「……またいきなり怒り出しちゃった」
 ぷいと背を向けると、視線の先にあった厨房の入り口に二つの小さな影が見えた。慌てて顔を引っ込めても誰かくらいはすぐにわかる。
 ルカとロカだ。
 何事もなかったかのように意気揚々と厨房に入ってくると、二人は棒読みで言った。
「あっ、カペルだけケーキ食べてるなんてずるい!」
「ワタシもケーキ食べたい!」
 カペルと一緒になってケーキを食べ始めたのを見て、アーヤは大きく肩を落とした。ほんとに、私一人でバカみたい。
 顔を上げると、いつの間にかドミニカが厨房の入り口にいる。目が合うとドミニカがにやりと笑った。
 ……ドミニカにも見られてたんだ。
「上手くいったかい、アーヤ?」
「べ、別にそういうんじゃないんだからね」
「ふふ、ケーキのことだよ」
 そう言ってまたにやりと笑う。
 からかわれたのがわかると、こみ上げてきた恥ずかしさに頬が赤くなってるのが自分でもわかる。
「もう知らない!」
 バターケーキの味は十分満足のいくものだった。明日はあれで勝負すればいい。
 だからいまは火照った頬を冷ましたい。アーヤは、ケルンテンの凍るような寒さに身をさらすため、カペルたちを置いて外に出たのだった。

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テーマ: 二次創作:小説

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