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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第六章 「発病」_15 

 昨夜の雪も夜明け前にはやんでいたが、街並みにうっすらと白化粧を残していた。それもコンテストが終わる頃には溶けていたが。
 コンテストはエレノアさんの優勝だった。
 アーヤの「激レア・バターケーキ」もおいしかったし、ファイーナさんの「フルーツの祭典」も舌がとろけそうなほどおいしかった。でもエレノアさんの「ウエディングスペシャル」は、なんというか、別格だった。気合の入り方が違う。なんせ「ウエディングスペシャル」なのだから。
 残念だと言いながらも、アーヤの表情はどこか晴れているようにカペルには思えた。ファイーナさんもそう。二人は同点だったわけで勝負はついていないのだが、それが良かったのかもしれない。
 表彰式が終わった。
 会場から人が引いていく中で、エレノアは師匠と二人、まだ舞台の上で話している。
 名前は呼んでもらえたのだろうか。
 彼女の表情をうかがってみるかぎりでは、どうやらまだのようだった。
「なにやってるの、カペル。私たちも帰るわよ」
「あ、うん」
 アーヤに促されたが、カペルは舞台の上を見続けた。エレノアが大きく一つ頷いて気合いを入れるのが見えたからだ。直後、「私、エレノアです!」という彼女の声が会場いっぱいに響き渡り、カペルだけでなく、会場に残っていたみんなが舞台に注目することになった。
 師匠に名前を呼ばれたいとエレノアが言っていたのを知っているのは、カペルだけ。他のみんなはぽかんとしている中で、カペルは一人、彼女にエールを送った。
 だが……、
「そうか、エクレアもいいかもしれんな、二番弟子よ。はっはっはー」
 お師匠さんは豪快に笑って厨房に消えていってしまった。
 審査員として参加したカペルは、アーヤでもファイーナでもなくエレノアに投票したのだったが、どうやら無駄に終わったようだ。
「もう二番弟子でいいや……」
 とぼとぼと舞台を降りてきてそう呟いたエレノアさんの肩をポンと叩くと、カペルはみんなと会場を後にしたのだった。

 宿への帰り道。雪の解けたケルンテンの町並みを染めているのは夕日だ。
「カペル、誰に投票したのよ。もちろん私よね?」と言うアーヤの笑顔が怖い。
「私の『フルーツの祭典』、どうでした?」と笑うファイーナさんの表情も怖い。
「はっきりいいなさい。怒らないから、ね?」とアーヤは言っているが、信用してはいけないことをカペルは知っている。
 だからエレノアに投票したことを彼女の思いとあわせて説明してみたが、「他人のことには気が回るのね……」「ほんと、そうですよね」と二人は顔を見合わせて苦笑していた。
 仲が良いのか悪いのか、女の子というのは本当によくわからない。二人で何か密談のご様子で、カペルは一人取り残される格好だ。 
 そんなとき、ふいに金色の雨が降り始めた。
「あっ、月の雨……」
 アーヤが手のひらでそれを受け止めながら、気持ちよさそうに天を仰ぎ見る。カペルもつられて空を見上げてみたが、身体への影響はやはり感じなかった。
 ファイーナも空を見上げていたが、顔から表情が消えているようにカペルには見えた。視線に気づいたファイーナが慌てて取り繕うように笑っているが、彼女の気持ちがカペルにはよくわかる。
「どうしたの、カペル?」
「ん、なんでもない」
「変なの……」
 二人にもいつか話さないといけないとは思う。
 それがいつになるかと考えていると、ファイーナは帰り道が別だからとレイムを連れて行ってしまった。
 赤く焼けた街並みにゆっくりと闇が降りてくる。
「……ファイーナさんって、いい人ね」
「どうしたの? いきなり改まっちゃって」
「ふふふ、別になんでもない」
 少し嬉しそうなアーヤ。月の雨の中をふわりと舞うように歩く彼女の足取りは軽い。
 宿が見えてきた。
 入り口に人影が見える。エドアルドだ。
 建物の壁にもたれるようにして腕を組んでいたエドアルドは、カペルたちを見つけると険しい視線を振り向けてくる。
「暢気にデートとは良いご身分だな」
「デ、デートなわけないでしょ、何言ってるのよ!」
 アーヤの抗議を鼻で笑い、エドアルドは続けた。
「明日にはここを発つ。待ってもあの透明の騎士は現れなかった。もういいだろう」
 確かにあの騎士は現れなかった。それがケルンテンの街の安全を保証するわけではないが、先を急がねばならないというエドアルドの言い分ももっともだとも思えたカペルは、エドアルドに答えた。
「はーい」
「おまえな……くっ」
 気軽なカペルの返事に腹を立てたのか、エドアルドが歩み寄ろうとしたが、とつぜん彼は手を押さえてその場にうずくまった。
「大丈夫?」
「う、うるさい。おまえに心配されるようなおれ……じゃ……」
「エドアルド!」
 エドアルドがその場に昏倒する。名前を呼びながら身体を揺すってみても、彼は呻き声を漏らすだけだ。
 月の雨の中、それは突然の出来事だった。

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