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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第七章 「月印」_01 

 ケルンテンとハルギータは、かつて戦争状態にあった。そのため、国交はあっても決して友好的なわけではない。ケルンテンからハルギータに向かうための転送陣もあるにはあるのだが、国家同士のそんな距離感が原因か、国境線でもあるコバスナ大森林の外縁部までしかいけないのが現状だった。
 コバスナ大森林は、むせかえるような草いきれに包まれている。
 年中どこかで雨が降っていると言われる多湿地帯で、ブルガスやフェイエールではお目にかかれない動植物の宝庫でもある。長い間、敬われながらも禁忌の地として扱われ、人の手の入らぬ自然が守られてきた結果だ。
 鬱蒼と茂る森の木々は、雨を奪い合うかのように上へ上へと伸びており、獣道に降りてくる太陽光は木漏れ日程度だった。
「あーつーいー」
「……あんた、オラデア砂丘に入ったときも同じこと言ってたわよね」
「だって暑いものは暑いんだもん」
「しゃきっとしなさいよ、暑さなんて気の持ちようよ」
「そんなこと言いながらアーヤだってずいぶんまいってるじゃない」
「……このじめっとした暑さはなんとかならないのかしら。フェイエールみたいにカラッとしてたら全然気にならないのに。だいたい、太陽が見えないのに暑いってどういうことよ」
 襟元をぱたぱたとさせながらアーヤは言う。首筋から胸元にかけてまで汗が浮いていて、肌に張り付く髪がなんだか扇情的だ。
「……なによ」
「いやあ、アーヤもなかなかどうして」
「ん?」
「いえ、なんでもありません」
「ふーん、どうせ碌でもないこと考えてたんでしょ」
 なんだか視線が冷たい。
 それにしても、今はコバスナ大森林のどこを歩いているのだろうか。似たような景色ばかりで、カペルにはさっぱり判別できなかった。
「任せときなって、兄貴!」
 ヴィーカの足取りに迷いがないことが救いだ。どちらを向いても木々の群れ。肌にまとわりつく湿気が鬱陶しくて、アーヤでなくてもまいっているのは一緒だ。こんなところで迷われたら座り込みたくもなるが、そう思わせない足取りのヴィーカをとりあえず信じることができれば、自分の足取りも幾分軽くなる。
「雨、降ってなくて良かったね」
「涼しくなるなら、少しくらいは降ってくれてもいいのに」
 そんな会話をしていたせいだろうか。木々の下の人間の言葉まで、意地悪な神様は聞いているらしい。
「雨だ……」
 木々のアーチを越えて、空から雨が降り落ちて来る。音もなく、舞い散るように降り注ぐのは、金色に輝く月の雨だ。
「んー、気持ちいいー!」
 湿気にやられていた分の鬱積を払うようにアーヤが伸びをしてみせると、それに続いてルカやロカがはしゃぎ始める。当たり前のことだが、解放軍のみんなは誰もが優れた月印使いだ。そうでなければ封印軍と戦い続けることなんて出来ない。
 みんなが月の雨を浴びる様を見ていると、一人取り残された気分が頭をもたげ、それにファイーナの表情が消えた顔が重ってしまうと、カペルは一人、少しだけ滅入る気分だった。
「カペル、どうしたのよ。ケルンテンに来てから、なんだかぼーっとしてること多くない?」
「そんなことないよ」
「そうかしら。まあ、元々ぼーっとしたやつだけどね、あんたは」
「ひどいなぁ」
「あっ、もしかしてファイーナさんのこと考えてたんじゃないでしょうね!」
「そ、そんなことないよ」
「ふーん。べ、別に考えちゃ駄目なんて言わないけど……。ハルギータについたらちゃんと集中しなさいよ。あんたはシグムント様なんだからね。ボケボケしてたらすぐにばれちゃうわよ」
「はーい」
 気分が滅入ろうとするとアーヤがすぐに気づいて声をかけてくる。もしかしたら本人には自覚はないのかもしれないが、一人でいることに慣れていたカペルには、そんな彼女の態度がありがたくもあり、新鮮でもあった。そして、少しだけ戸惑いも覚えるのだ。
「ん?」
 ふいに妙な違和感がして、カペルは頭上を見上げた。
 そこには、変わらず覆い被さるような木々の姿があるだけで、別段変わったところはないように見える。
「どうしたの?」
「いや、なんか違和感がして……!」
 今度ははっきりと感じられた違和感。その感覚に引きずられるようにして森を見上げたカペルの目に、太い枝の一本が脈動する様子が飛び込んでくる。
 木が脈動する?
「見間違いかな……」
 それはまるで、降り注ぐ月の雨を飲み下すような脈動の仕方だと思えた。だけど、木がそんな風に動くなんて話は、聞いたこともないし見たこともない。
 そう自分を納得させようとしたカペルだったが、直後、今度ははっきりとその脈動を見て取ってしまった。
「アーヤ、今、あの枝が動いたよね!」
「何言ってるのよ。風じゃないの……きゃあ!」
「えっ?」
 悲鳴を上げたアーヤがいきなり抱きついてくる。枝を見た反応にしては大仰すぎる。
「ちょ、アーヤ、どうしたの?」
「カペル、クモ、クモ、カペル、ワタシ、クモ、ダメ、カペル、ワタシ」
「落ち着いてよ、アーヤ」
 震えるアーヤ。彼女が見上げていた先を見てみると、枝の一本から細い糸を垂らした小さな蜘蛛がいた。蜘蛛と言っても小指程度の大きさで、怖がるほどではないとも思える。むしろかわいい部類だ。それに、いざというときには貴重なタンパク源にもなるらしい。味は……知らないけど。
「おふたりさーん、おいてくよー」
「はいはーい、すぐにいきまーす」
 ヴィーカが早くしろと腕を組んでいるのが見え、カペルはそれに答えてからアーヤを諭すように言った。
「ほら、置いていかれちゃうから」
「クモ、いない?」
「いないよ。大丈夫だから、ね?」
 おそるおそる頭上を確かめ、蜘蛛がいなくなったことを確認したアーヤは、がくっと肩を落としてしゃがみ込んでしまった。
「もう、早くハルギータに行きましょう……」
 彼女を引っ張り上げながら、カペルはもう一度森を見上げてみたが、木々に変わった様子は見られなかった。
 それは新月の民としての穿った見方かもしれない。そう自分に言い聞かせてみても、月の雨に対する違和感は拭いきれなかった。

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