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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第七章 「月印」_02 

 コバスナ大森林の中は、日があまり差し込まない昼であっても不思議と明るく感じられた。その理由が、夜になるとよくわかる。
 無数の木々に混じって生息するコケからだろうか。地面からふわりと浮かび上がり、大木の樹皮からほろりとこぼれ落ちる発光性の胞子が、淡い光で森の様相を浮かび上がらせているのだ。
 星空を写した、というにはあまりにも淡く、優しげな光。遠くから聞こえる鳥やモンスターの不気味な鳴き声さえなければ、しばらく立ち止まって、この光景を眺めていたいところだ。
 そう、立ち止まって……。
「もう歩くの疲れちゃったよ」
「だらしないなぁ、アニキは。もうすぐだからさ、ほら気合い入れて」
 ヴィーカに背中を押され、カペルは無理矢理に歩かされていた。
「ハルギータにはおいしい物ってあるのかな」
「ハルギータ米が有名だよね」
「お米かぁ……」
 空腹の苦しみを淡い星空に逃がしながら歩き続ける。
 しばらくすると、ふいに森が開ける場所に出た。
 そして、木々の群れが途切れた先、広がったはずのカペルの視界を埋めたのは、乳白色の巨大な建造物だった。
「着いたよ。ハルギータ皇城だ」
 土色の混じった乳白色の壁は人工物らしからぬ曲線を描いていて、蟻塚を人のスケールにまで巨大化したもの、と言えばしっくりくるだろうか。そのところどころに採光用の窓が設けられている様も、蟻塚という言い方がふさわしい。人工物であるはずのそれは、不思議なほどコバスナ大森林の風景に溶け込んでいるようにも見え、森の主と呼ばれる巨大なモンスターが住んでいる、と言われても疑うことはなかったかもしれない。
 この巨大な塚は、数百年前にハルギータ女皇スバルによって建設されたものという話だったが、いったい何をどうやればこんな巨大な建造物を建設出来るのか、カペルにはさっぱりわからなかった。その感覚はヴェスプレームの塔を見たときに似ていて、あちらは確かレオニードが聖獣を犠牲にして建設したのだと思い出されれば、こちらももしかして、という疑念が頭をもたげてくる。
「まさかね……」
 闇公子ならともかく、慈悲の女皇として知られているスバル女皇がそんなことをするだろうか。ともかく、それも数百年前の事情だろう。時間的にも空間的にも、自分に想像できる規模の話ではない。
「ハルギータへようこそ」
 前に進み出たユージンがそう言い、ここからの案内を買って出る。アーヤやルカロカもぽかんと口を開けているのが見え、カペルも同様にしながら周りを見回しつつ、ハルギータ皇城の門扉をくぐった。門の守衛は、ユージンの顔を見るなり敬礼してみせていた。
「ユージンさんってもしかして偉い人なの?」
「私もよく知らないのよ」
 その疑問は後日、本人に尋ねればいいか。
 中は想像していたよりも開放的に感じられる広さだった。街一つを取り込んだ巨大な塚の中は、その異様にふさわしく入り組んだ構造をしているが、商業区や居住区と言った具合に役割に応じて区分けがはっきりしているらしく、見た目の複雑さとは裏腹にしっかりと秩序はあるらしい。自然物を取り入れた内装の街並みはどこか生物的で、ケルンテンの人工的なそれとはまるで逆だが、むしろこちらの方が人間味があるとも思えてくるというのは、なんとも不思議な言葉の感覚だった。
「今日はもう遅い。宿を取るからみんなはそこで休むといいよ」
「ユージンさんは?」
「僕はこれから王宮に行って、帰還の報告をしてくる。たぶん明日の朝に女皇陛下と謁見するとになると思うから……、シグムント、いいね?」
「……」
 誰のことを言っているのかわからずにぼんやりしていると、アーヤに「あんたのことでしょう!」と怒られた。それで初めて気づく。
「あの、シグムントさんのふりってもう始めるんですか?」
「ここはあいつの故郷だから、知り合いも多い。緊張感は常にもっておいた方が良い」
「あっ、はい……わかりました」
 フェイエールやケルンテンとは違う。ここにはシグムントさんのことをよく知る人たちがたくさんいるのだ。彼の不在はまだ知られるわけにも行かず、そのためにも今からなりきらなくてはいけない。
 相変わらず肝心なことに気づくのが遅いという自嘲と、いきなりの本番にカペルは引きつった笑いを浮かべるしかなかったが、それを見たユージンが優しく笑ってみせてくれた。
「今日はすぐに宿に入ってゆっくり休んで。明日の本番に向けて、一晩かけて気持ちを切り替えればいい」
「そうします」
「じゃあ、みんなもそういうことだから。今日のところは解散だね」
 そう言って、ユージンは宿とは別の方向へと歩いて行った。その背中にいくらかの疲れが見て取れ、彼もまた整理しきれぬ思いを抱いている一人なのだと自覚すると、カペルはアーヤとともに宿へと足を向けた。
「カペル、ユージンさんの苦労に報いなきゃいけないんだから、しっかりしなさいよ」
「がんばります」
「あんたのがんばるほど信用できないものはないわよね」
「また手厳しい仰りようで」
 そう言えば、ハルギータ女皇はシグムントさんの育ての親でもあるという話だった。そんな人を騙し通せるのか。そもそも、騙して良いものなのかどうか……。どちらの答えも、結局は明日の本番になるまではわかるはずもない。
 無意識のうちに手をやった胸のペンダントにシグムントの姿を思い出しながら、カペルは初めて訪れるハルギータ皇城の通路を歩いていた。

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