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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第七章 「月印」_05 

 宮殿は、蟻塚のような形をしたハルギータ皇城の最上部に位置していた。衛兵に敬礼され、赤絨毯の敷かれた豪奢な階段を上り、待っていた案内人に謁見の間まで通される。この過程そのものが、王宮独特の緊張感を増幅するための装置のようにも思えるが、カペルは不思議と落ち着いていた。昨夜の緊急事態に比べれば、今日は心の準備も出来ているし、それにアーヤとユージンさんが側にいるのだから。
「さあ、ここが謁見の間ね。カ……じゃなかった。シグムント様、準備はいい?」
「えっなに?」
「じゅ・ん・び・は・い・い・かって聞いたのよ! ボケボケしない!!」
「は、はい……」
 いくらか落ち着きすぎていたらしい。
「余計なことは喋らないこと。背中を丸めて下を見たりしないこと。へらへら笑わないこと。いいわね?」
「……僕ってそういうふうに見えてるんだ」
 少しショックを受けたのもつかのま、カペルの気持ちなどお構いなしに、謁見の間の扉が厳かな音を立てて開かれる。アーヤとユージンの半歩後ろからカペルは中に入った。
 土足で踏んでいいのかとためらわれる赤絨毯が中央に伸び、右に武官、左に文官の長らしき居丈高な人たちが並んでいる。その空気にのまれそうになったカペルだったが、赤絨毯の終点、玉座に身を置く人の姿に息をのむことになった。
 見た目には自分とそう変わらない年ごろのようだが、背中に映える三日月状の光輪が、彼女がハイネイルだということを示していて、老いることのない彼らの年を詮索しても仕方がないことだとすぐにわかった。幾重にも重ねられた衣装は花弁を模しているかのようで、花の妖精か何かがいるのならこういう人なのだろうとカペルには思えた。それに、その流麗な容姿と相まって、どこかおとぎ話の世界から出てきた姫様のようでもある。いや、お姫様ではなくて女皇様なんだけど。
「お初にお目にかかります。女皇陛下」
 アーヤがフェイエール国皇女の声でそう言い、慇懃な礼をしてみせる。その姿に女皇が顔をほころばせていて、本当に嬉しそうに笑う人だとカペルは思った。
「炎の皇女、よくきてくれました」
「お会いできて光栄です、陛下」
 そして、女皇の澄んだ赤い目が、流れるような仕草でカペルを捉える。カペルも慌てて顎を引き、惚けた顔を隠しながら礼をして見せたのだったが、一瞬、笑っていた女皇の表情に驚きが混じるのを見たような気がした。
 まずい。ばれたかも……。こんなところで偽物だとばれてしまったら、いったいどんな扱いを受けるのだろうか。一国の女皇様を騙そうとしたのだから、ただで済むはずはない。
 隣に並ぶ怖いおじさんの顔をちらと見遣り、心臓が激しく音を立てるのをカペルは聞いた。
「よく戻りましたね」
「おひさしぶりです」
「……あれほど慇懃無礼であったそなたが、物腰を柔らかくすることを学んだようですね」
 その穏やかな声音からは、自分を偽物だと疑っているような印象は受けない。なんとかばれずに済んだかとも思ったが、自分の思い違いだったら困るので、カペルはアーヤに小声で尋ねてみた。
(セーフ? セーフだよね?)
(黙ってなさい!)
 そして怒られた。
 つまり、きわどいところではあるけれどばれてはいない、とアーヤも感じているということだ。それを裏付けるように、久しぶりに会った子供に尋ねるよう、女皇はカペルに声をかけてきた。
「全部で八本の鎖を解放したと聞いています。ご苦労でしたね」
「いえ」
「つもる話もあります。しばらくはここに逗留するのでしょう?」
「あ、ええと……。ありがたいお言葉ですが、その、用事が」
「用事?」
「ぼ……、ワタシの仲間が今、原因不明の病に冒されております。早くその治療法を探さねばなりません」
 終始穏やかに見える女皇の表情とは逆に、隣にいる大臣だか摂政だかは苦虫をかみつぶしたような顔をしている。
「月印ですぐに治せばよかろう」
 その大臣の声には明らかにトゲがあった。シグムントさんは彼に嫌われていたのかもしれない。執政官の手を離れて自由に行動し、世界から英雄と呼ばれている男。彼にしてみれば、好きになる理由がないというところだろうか。
「それが……」
「よい、シグムントの好きなようにさせなさい」
 月印では治せなかったことを説明しようとすると、女皇がそれを遮った。
「考えあってのことでしょう。好きになさい」
 その声音が胸を温かくするのが感じられると、一瞬、シグムントのふりをしていることも忘れて、カペルは「ありがとうございます」と素直に言ってしまう。
 それをわかってかわからずか、女皇は優しげな笑みを返すだけだった。

「それで陛下」
 話すタイミングを待っていたのか、カペルと女皇の話が一区切りされたところでユージンが言った。
「その治療法の手がかりを持つ者の情報があるのですが、居所がわからないのです。キリヤという月印の研究者なのですが、ご存じないでしょうか?」
「キリヤ……。ああ、あの子ならば、コバスナ大森林の奥に庵を結び、一人で研究を続けています。国に戻るよう何度も言ったのですが、あれは一途な子ですから」
 大切な我が子を語るように女皇は続ける。ユージンさんから聞いていたとおり、国民を我が子のように思う慈悲の女皇、というのは本当らしい。
「最近は連絡も途絶えがちで心配していたところです。ユージン、シグムント、ことのついでに彼の様子も見てきてくれますか?」
「はい」
「では、案内をつけましょう」
 そう言って女皇は居並ぶ家臣を見回す。そして、武官の列を見遣ったその目が、そこに並んでいた銀髪の少年の前で止まった。昨日の彼だ。その後ろにはコマチと呼ばれていた少女が立っている。
「トウマ、あなたが案内してあげなさい」
「はっ」
「シグムントと行動をともにすれば、あなたにも学ぶことがありましょう。幼なじみ同士です。手伝いをしておやりなさい」
「はっ、仰せのままに」
「シグムント、仲間の病が治ったあかつきには、また顔を見せてくれますね?」
「は、はい」
「期待しています。ですが、身体だけは労りなさい」
 その言葉をもって、スバル女皇との謁見は終了した。
 女皇が見せる慈悲の微笑にぺこりとお辞儀をし、にこりと笑ったトウマに笑みを返すと、カペルたちは謁見の間を後にした。
(女皇様って綺麗な人だったね)
(……後でお説教)
 アーヤのささやく声にトゲがある。なんとかばれずに済んだと思ったが、それでも及第点はもらえないらしい。

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