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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第七章 「月印」_07 

「おかしいな、そろそろ着くはずなのだが」
 ふいに立ち止まったトウマがそう言う。
「コマチ、地図を」
「はっ」
 コマチが取り出した地図を手に取り、二人してのぞき込み始めた。迷ったのだろうか、果てには地図の上下左右をひっくり返したりし出せば、カペルの不安は募るばかりだった。
「大丈夫なのかなぁ……」
 景色はずっと変わらない。少し霧が濃くなったくらいか。光の胞子がたゆたうコバスナの風景は美しいが、さすがに見飽きてきた感もあった。それにおなかも減ってきている。迷ったら帰りはどうなるのだろう。夕食までには帰れるのだろうか。
 そんなことをぼんやり考えていると、トウマが思案顔をこちらへ向けて言った。
「やはりこの先のはずなのだが……。見えてくるはずの渓流が見あたらない」
「先行して確認してまいりましょうか、殿下」
「ふむ……」
「殿下とともに拝命したこの任務。コマチ、一命を賭しましても遂行する所存です!」
 コマチさんはずいぶん気合いが入っているみたいだけど、たかが道案内なのだから一命を賭す必要はないと思います。そう言いたかったが、彼女の様子を見ているとそれもかなわなかった。というか、以前の凛とした印象とはずいぶん違うような……。
 カペルが首をかしげている間に、コマチはその場を離れようとした。が、後ろから聞こえてきた「待ってください」というソレンスタムの声がそれを止めた。
「どうされた、ソレンスタム殿」
「トウマ殿、ここで合っていますよ」
「しかし」
「結界です」
 ソレンスタムがおもむろに手に持つ杖をトンと大地に突きつけると、そこに月印が浮かび上がる。すると、ゆっくりと揺れていた眼前の霧が凝結したように動きを止め、ガラスの割れるような音を立てて崩れ落ちると、すっかり消えてしまった。そこにあった代わり映えのしない森の風景は一転し、獣道の向こう側に、渓流が木漏れ日を乱反射させている姿が現れる。
 唖然としていた皆を代表するようにトウマが言った。
「おお、結界とは気づかなかった。さすがはソレンスタム殿」
「いえ、よく知っている術法でしたから」
「知っている?」
「キリヤという研究者。私のよく知る者のようです」

 見えた渓流を遡行していくと、そのほとりに木造の小屋が見えてきた。ようやく到着らしい。辺鄙にもほどがある上、人目から隠すために結界まで張ってあるとくれば、よほどの人間嫌いか、偏屈な人なのだろうことは想像に難くなかった。
 カペルは入り口の前に立ち、二つノックをすると中へと声をかける。
「あのーすいませーん」
「誰だ」
 反応があった。
「あの、僕はシグムントという者です。用事があってわざわざこんな森の奥深いところまで来たんですが」
「用事? 俺には無い」
「困った……」
 こうもとりつく島のない返事をされると、どう返事していいものかわからなくなってしまう。「一言多いのよ」とアーヤに怒られながら首をひねってみても、解決策が思いつくはずもない。少し途方に暮れていたカペルだったが、ふいに後ろから肩をぽんとたたかれて振り返った。そこにいたのはソレンスタムで、彼はいつもの微笑を浮かべ、そして、ドアの前に立った。そう言えば、ソレンスタムさんの知り合いらしいんだっけ……。
「キリヤ、出てきなさい」
 その効果は抜群だ。直後、どたどたと何かが崩れるような音が中から聞こえたかと思うと、勢いよくドアが押し広げられた。
 中から出てきたのは、さらさらの金髪を翻らせた、少し目のきつい若い男だ。庵を結んだ研究者と言うくらいだからきっとおじいさんなのだろうと思っていたカペルは意表を突かれ、その顔をまじまじと見つめてしまう。
「ソ、ソレンスタム様!?」
「久しいですね」
「なるほど、それで結界が破られたわけか……。しかし、どうしてこのようなところに」
「シグムント殿が仰ったでしょう、用があって来たのです」
「シグムント? その胡散臭い連中のことですか」
「キリヤ、私の仲間たちです」
「仲間? 弟子ではなくて……仲間?」
 訝しげな目が向けられる。敵意と言うほどでないにせよ、歓迎されているようにはとても思えなかった。
「あの、僕はシグムントと言います。今日はあなたにお願いしたいことがあって来ました」
「シグムント。どこかで……」
 その場で思案を始めたキリヤに、ソレンスタムが言う。
「中で話しましょう。いいですか?」
「あっ、はい」
 玄関先で始まったキリヤの思案を遮り、ソレンスタムはカペルに向けて微笑を浮かべると、一人先に中へと消えていった。対照的に、残されたキリヤは胡散臭そうにこちらへと詮索の目を向ける。
「入らないのか?」
 口ではそう言いながら入れたくないという思いがにじみ出しているのが感じられると、カペルはその一歩を踏み出せない。それに、中に入ったら最後、何かの実験材料にされてしまいそうな雰囲気が彼にはある。要するに、少し怖いのだ。
「ちょっとカペル、さっさと入りなさいよ」
 後ろからアーヤが押してくる。
「そ、そんなこと言ったって……」
「入らないなら鍵をかけるぞ。女、おまえも入るならさっさと入れ」
「は、はい!」
 声を裏返らせて答えながら、アーヤはおずおずと中へと入っていった。
「自分だって怖かったんじゃないか」
「あんたもさっさと来なさい!」
「は、はい!」
 悪意のない見下し方というものがあるとするなら、きっとこんな目のことを言うのだろう。キリヤのその視線を感じながら、カペルはアーヤの後を追って中へと入った。

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