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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第七章 「月印」_08 

 大量に積まれた本と酒か薬かの空き瓶以外には、簡素な調度品があるだけの部屋。家主と同様、生活感の無い部屋に通された後、ソレンスタムがキリヤに話を通しているのをカペルたちは待たされていた。
「結論から言えば、おまえたちの仲間が患っているのは普通の病気じゃない」
 ソレンスタムの話を聞き終わると、キリヤはこう話を切り出した。
「月印病、とでも言えばいいか」
「月印病?」
「ああ」
「それは治せるんですか?」
 そう問うと、思案顔を浮かべたキリヤは、棚の中から一つの小さな革袋を取り出した。そして、それをカペルに放り投げる。
「それは、体内の月の力を抑制するための特別な薬だ」
「抑制? そんなことして……」
 革袋を開け、そこに虹色に光るこぶし大の結晶体を見たカペルは、キリヤの言葉に一つの記憶をたぐり寄せる。
 抑制されなければならないような、月の力の異様。
 コバスナ大森林に入ったときに見た月の雨を飲む木の姿は、何か禍々しいもののように思えた。道案内が無ければ通れなくなるような異常な森の成長の原因が、月の雨にあるとすれば……。
「やっぱり、あの月の雨が何か関係あるんですか? 森の木、まるで雨を吸っているみたいに動いていた」
「……ただの馬鹿というわけでも無さそうだな。話してやろう、聞け」
 
「まずは忌々しいこいつについて話そう」
 キリヤは自らの手の甲に光る月印に目を遣り、吐き捨てるように言った。
「おまえたちはこいつがどういう代物なのか、考えたことがあるか?」
「月印は月印でしょ?」
 答えるアーヤをよそに、キリヤは話を続ける。
「……十五、六年くらい前だったか。ある方に月印を消すための術式を作る手伝いをしろと言われてな。当時まだ子供だったが、熱心に研究した」
「月印を消す? そんなことして何になるの?」
 アーヤの疑問はもっともだ。得られぬ物を得ようとした人たちは大勢いるが、持っている者を捨てようとする人の話など、聞いたことがない。
「さあな。結局いろいろやった結果、月印を消すには、持ち主の身体をいったんまっさらな状態に戻すのが一番だということがわかった」
「まっさらな状態?」
「儀式を受ける直前の状態、つまり生まれたての赤ん坊にまで身体を回帰させる」
「そんなこと――」
「時間回帰。ハイネイルの中でもごく一部のものしか扱えないと言われる高等魔術ですね」
 遮るようにしてソレンスタムが続けた。
 時間回帰。月印の力は、そんなことまで出来るのか……。
「たとえば、右手に月印があるとする。その右手が事故で切断されたとしたらどうなると思う? 切られた右手の付け根に月印ができる。力は消えない」
 突き出されたキリヤの手に光る月印が瞬き、消えた。
「つまり、こいつは肉体に刻み込まれたものじゃない、ということになる。言ってみれば、魂に刻み込まれた刻印だな。呪印と言ってもいい」
「呪印って……」
「体内の月の力を操作できるように身体を作り替えてしまう。それが月印の儀式の正体だ」
「作り替える!?」
「驚くこともないだろう。目の前にその最たる例がいるじゃないか」
 そう言って、キリヤはソレンスタムの方を見遣った。
「月の力を全て制御できるように作り替えられた者。それがハイネイルだ」
「……」
 ソレンスタムが無言の肯定をすると、キリヤの説明はさらに続いた。
「人間の身体の中には、器がある。大きさも形も人それぞれだが、そこには月の力が蓄積されていく。器の大きさはそのまま月印の力の大きさ、形はその現れ方だと思っていい。だが、人間はその力を操作するすべを知らずに生まれてくる。月印の儀式を受けるまでは、力はあれど使えない、という状態にあるわけだ。
 月の力が蓄積されるのは、月の出ている夜。月光を浴びてもいいし、浴びなくてもいい。月の出ている夜になれば、体内の月の力は蓄積されていく。蓄積されると言っても、その量はたかがしれているがな。大多数にとっては、蓄積される量も、月印によって消費される量も、器の底の残滓みたいなものだ。普通の人間は、その器の底の残滓程度の力で生活を営み、生涯を終える」
「それとエドの病気とどういう関係があるの?」
「焦らずに聞け」
「……」
「大きな器を持ったやつは、当然月印の力も強い」
「でも、力の大きさは生まれた日の月齢で決まるんじゃ……」
「器の大きさは生まれ持ったものだ。月齢が影響を与えるのは、その力の取り出す効率、それと、蓄積される速度に対する制限だ。月の力を操作できるようになる代償として、月印の儀式は、力の器に蓋をする。そう想像しろ」
「蓋?」
「器には当然入り口がある。そこの酒瓶のように入り口の狭い者もいれば、皿のようにやたらと広いやつもいる。当然広い方が月の力を受け取る速度は速くなるし、溜まった力が大きければ行使される力も強くなる。だが、月の力を操作できるようになる代償として、月印はその器に蓋をしてしまう」
「……満月に近いほど、その蓋が小さくなるってこと?」
「そういうことだ」
「じゃあ新月の民は」
「新月の夜に生まれた者は、たとえ儀式を受けても月の力を使えない。その器は完全に蓋がされている状態になるから、月の力が蓄積されることがない。だから力を使えない。月印も光ることはないから、儀式を行おうが行うまいが何も変わらない。それがわかっているから、新月の日に生まれた者に儀式を行うことも無くなっていったのだろう」
「……」
「で、おまえたちの仲間の件だ。そのエドアルドとかいうやつは、新たな月印を御しえないでいる。器に溜まった力の使い方を誤り、過剰に力を引き出そうとして、言ってみれば、器にひびが入ったような状態になっているわけだ」
 身体の中の器にひびが入る。目に見えるものじゃないからか、それとも月印を使ったことがないからか、カペルには上手く想像できない。
「そんな状態で月の雨を浴びたらどうなるか……。月の雨は体内の月の力を増量する。過剰に月の力を注ぎ込まれ、ひびからそれが漏れ出している状態だ。月の力を直接浴びられるほど人間の身体は強くない。そのための身体を持ったハイネイルでもない限りな。そいつが苦しんでいるのは、強すぎる力に身体が耐えきれなくなっている結果だ」
「耐えきれなくなる?」
「過剰な力は毒になる。許容範囲を超えて力が注ぎ込まれれれば、人間は壊れる。……簡単にな」
「こ、壊れるって」
「弱い者は死ぬ。だが、強い者は……」
 そう言ってキリヤは目の前に拳を突き出すと、月印を光らせた。そして、全員を見回してから、その手を裏返して手のひらを天井に向けた。
「反転する」
「反転?」
「毒を制し、強大な力を利用できるように身体が作り替えられる。人の姿を失い、人の意識も失った、姿の見えない化け物にな。反転せし者。俺はリバスネイルと呼んでいる」
「リバスネイル……」
 皆、そのリバスネイルに心当たりがあった。ケルンテンに到着した直後に、一度戦っているのだから。エドアルドがあの化け物と同じものになろうとしているという理解が、全員から言葉を奪った。
「……弱ければ死ぬ。強ければ化け物になる。そんなのってありなの?」
 アーヤが戸惑いの声を上げる。それを見下ろすようにしてキリヤは言った。
「そのためのそいつだろ? せいぜい急ぐんだな。そいつで月の力を抑制してこい。それで安静にしていれば、器のひびも治るだろう。だがな、おまえの仲間、たぶん耐えるぞ。このままだとリバスネイルへ変身だ。その薬はまだ試作段階だ。完全に反転を終えてしまったら、手遅れになる」
 手の中で光る虹色の結晶体。この試験薬だけが唯一の希望……。
 思わず手に力が入り、大事な薬を落としそうになる。直後、それをなんとか堪えたカペルの横をすり抜け、ヴィーカがキリヤの前に立った。その声は、いつものヴィーカらしからぬ深刻なものだった。
「なあ、この薬が完成したら、完全に反転したやつを治すこともできるのか?」
「理論上はな」
「そっか……」
 ヴィーカがぐっと両の手を握るのが見えた。何かに耐えているかのようだと思ったカペルだったが、ヴィーカは振り返るなり、いつもの威勢のいい声を上げた。
「兄貴、さっさとそいつを持ってケルンテンに行こうぜ! 深刻な顔をしていても、エドアルドを助けることは出来ないんだ。良かったじゃないか、治せる方法が見つかったんだからさ!」
「う、うん」
「それじゃ、早速出発だ。ほらほら、急いだ急いだ」
 カペルはヴィーカに押されるようにして出口へと向かった。様子を伺ってみても、背中を押すヴィーカの表情は見えなかった。

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