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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第八章 「手を取り合って」_01 

 変わらず鈍色の空がのしかかるケルンテンの街並み。凛然とした空気もまた変わりないが、それを肌で感じたカペルは、寒さを忌避するのも忘れて、胸の内にあるほっとした気分を隠せないでいた。何故なら、もしもエドアルドが手遅れだったとしたら、街がいつもどおりの時間を紡いでいることなんて出来なかったはずだから。
 宿に入り、眠るエドアルドと、それを見守るミルシェ、ドミニカの二人を確認したカペルは、トウマたちの紹介もそこそこに、キリヤから聞いたエドアルドの症状の原因について説明した。
「ふーん、なるほどねぇ」
「驚かないんですか?」
 驚くミルシェとは対照的に、ドミニカの反応は淡泊だ。新月の民である自分でさえあれほど驚いたのだから、その身に月印を持つ人間ならもっと驚いても良いと思える。だが、もっと驚くことになったのはカペルの方だった。
「……話していなかったことがある。実は、エドアルドは一度、そのリバスネイルというのになりかかっているんだよ」
「ええっ!?」
「ヴェスプレームの塔で助けに行ったとき、エドアルドの月印はほとんど反転していてね。すでに理性も働かないような状態だった。脱出したときに気を失っていたのは、封印騎士にやられたわけじゃなくて、私が無理矢理眠らせたからなのさ」
「む、無理矢理ですか……」
 実は、ドミニカさんが一番怖い人なんじゃないかとカペルは思った。無論、顔にも口にも出さないが。
「それで注意深く監視してはいたんだが、なるほど、そういう理屈なのかい」
 どこか遠くを見ているようにも見える彼女の瞳は、まるで手の焼ける弟を見守る姉のようだった。アーヤが甘えられる唯一と言っていい相手でもあれば、武器を手に取る傭兵の姿よりも、こちらの方が彼女の本質なのかもしれない。
 エドアルドが玉の汗を浮かべ、小さく呻き声を漏らした。
「さっさと治療してやれ」
「そうでした。それじゃ早速」
 キリヤに促され、カペルは革袋から治療薬を取り出した。堅い手触り。冷たくも温かくもない不思議な感触。エドアルドを救うための、唯一の方策。その感触を確かめ、その重みがぐっと手を重くする。わずかに息を飲んだカペルは仲間の顔を見回してこくりと頷いた。
「あれ?」
 そこで、一緒にいたはずのヴィーカがいないことに気づく。
「そういや、ヴィーカは?」
「そういえばいないわね」
 アーヤが首をかしげて答えるが、「そんなことより、エドの治療が先でしょ?」とすぐに気分を変えて促すものだから、カペルもエドアルドへと意識を向け直した。
「はーい」
 とにかく間に合った。
 薬で月の力を抑え、しばらくは安静にする必要がある。エドアルドはしばらく解放軍を離れることになるのだろうか。戦力的にも辛いところだけど、仕方ないことだ。
 それより、休んでいろと言って、それを聞いてくれるかが心配かも……。
「そいつを胸に沈めろ。そうすれば体内に吸収されていくはずだ」
 それはまた、治療が終わってから考えればいい。
 気を取り直し、こぶし大の結晶体を両手でしっかり持つと、カペルはそれを、眠るエドアルドの胸元へと持って行く。
(……ん?)
 虹色に光る結晶体の手触りは変わらない。こんなものがどうやって吸収されるのだろうと疑問を浮かべたカペルは、そのとき、結晶体の中に漠然とした違和感を感じた。
「ん? おい、ちょっと待て!」
「えっ?」
 キリヤが叫んだ瞬間、結晶体の中で異変は始まった。
 虹色に光る結晶体の中央に、血のような赤い滲みがはっきりと見え、そして、それは急速に全体へと広がり始めた。浸食された結晶体は輝きを失い、黒ずんだ赤に染まっていく。それを見て取ったときには、結晶体はすでにエドアルドの胸に沈み始めていて、すでにカペルには止めることは出来なかった。
「ぐあああああああああ!!!!」
 エドアルドが絶叫する。
 胸を掻きむしるその手の月印が暗く光り、黒い炎となってエドアルドの全身に燃え移ると、爆発的に解放された力が衝撃波となって部屋を蹂躙し、窓という窓のガラスをたたき割った。
「キリヤ、どういうことですか?」ソレンスタムが問う。
「俺の薬じゃない! どこかですり替えられーー」
 ソレンスタムに答えながら周りを見回すキリヤ。彼と目があった瞬間、カペルはここにいるはずの少年の顔を思い出した。それはキリヤも同様らしく、ぐっと唇をかむと、彼は吐き捨てるように言った。
「……あのガキか」
 直後、ベッドに横たわっていたはずのエドアルドがゆらりと立ち上がるのをカペルは見た。手には剣。そして、背には漆黒の翼。
「まずい! 武器を取れ、来るぞ!!」
 ドミニカが叫ぶ。
 闇をたたえ、赤く光るエドアルドの目がカペルを捉える。だが、カペルの心には不思議と恐怖はなかった。
 どうすれば助けられるのか。
 自然と思い出されたシグムントの背中がその自問と重なり、カペルはただ、エドアルドの目を正面から見つめ返していた。

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