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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第八章 「手を取り合って」_02 

「あんたが必要だって言ってたの、これだろ?」
 すり替えたのはコバスナ大森林でオルトロスに襲われたときだ。わざと交錯した隙に、事前に渡されていた革袋と、キリヤがカペルに渡したそれをすり替えた。
 いま手元にあるのはキリヤの作ったという月の力を抑えるための薬だ。同じ印章の入った革袋を何故この男が持っているのかという疑問は解決できずにいるが、それは今回の仕事には関係がないこと。まだ試作段階だというそれをこの男に渡すのが、ヴィーカがカペルたちについて行った目的だった。
「その薬であんたの研究が進めば、リバスネイル化した人間を完全に治療できるようになるんだよな?」
「ああ、そうだ」
 いつも被っていたローブのフードを今日はしていない。よく考えてみれば、このヘルドという男の顔をはっきりと見るのは初めてだった。はっきり言って関わり合いになりたくないと思える顔だ。にやりと笑ったヘルドの犬歯が不気味に光り、ヴィーカは背筋の凍る気分でそれを見た。
 だが、好き嫌いを言っている余裕はない。この男が言うリバスネイルの治療薬。それが無ければ、完全にリバスネイル化してしまった兄を助けることはできないのだから……。
 最初は疑ってかかったが、ヘルドが言っていた試作段階の治療薬は存在したし、キリヤも理論上は可能だと言っていた。まだ迷いが消えたわけではないが、ヴィーカは自分に言い聞かせる。それでも、一縷の望みにすがるしかないんだ。
 ……だけど、本当にこの男を信じて良かったのだろうか。自分に言い聞かせているという感触が、苦みとなって心をざらつかせる。それを自分への嘘でさらにひた隠したヴィーカにとって、ヘルドの一言は衝撃だった。
「兄に会いたいのだったな。……なんだったら今すぐ会わせてやろうか?」
「えっ? ちょ、ちょっと待てよ。なんであんたが兄ちゃんの居場所を知ってるんだよ。兄ちゃんは我を失ってどこかへいっちまったし、そもそも姿も見えなくなって……」
「もう少しだったんだがな」
「……なに言ってんだよ」
「もう少しで、リバスネイル化したまま自我を保つ段階に入れたものを……。あれはなかなか有用な実験体だった」
「まさか、おまえ――」
 そのとき、ヴィーカの背後で轟音が鳴り響いた。何かが爆発するような音に続き、石像が崩れ落ちる音と同時に土煙が上がるのが見え、思わずそちらを凝視する。
「なんだ、あっちは確か……!?」
 そして、ヴィーカは気づいた。それがカペルたちがいるはずの宿の方角だと。脳裏をよぎる最悪の事態を振り切ろうと、そして、自分についた嘘が暴かれる恐怖に押され、ヴィーカはヘルドに詰問する。
「おまえ、おいらに何を掴ませたんだよ! あれは実験中の治療薬なんだろ!?」
「ああ、実験中のものだ。中身は少々違うがな。月の雨の結晶体、といったところか」
「そ、そんなものをエドアルドに使ったら」
「ああなる」
 ヘルドがくいと顎で指した先、黒い固まりのような何かが教会の屋根の上にいるのが見えた。エドアルドだ。その背中に漆黒の翼をはためかせ、天を仰いで咆哮を上げている。
「リバスネイルの完成だ。制御が出来なければただの化け物だな、ふはははは」
 騙された……。
 いや、自分で自分を騙していたことに、気づかされたんだ。
 情報屋である自分に偽の情報を掴ませた男に対する怒りよりも強く、自分の軽率さと愚かさに対しての怒りがヴィーカの心を支配する。それも結局、自分への言い訳でしかないのかもしれないが、脳裏に孤児の頭を撫でるエドアルドの姿が重なった瞬間、ヴィーカは我を忘れてヘルドに襲いかかった。
 だが、それも予期されていたのだろう。突き出したナイフは簡単に空を切り、身をひねったヘルドに殴り飛ばされる。血の苦みが口中に広がり、ヴィーカは地面に這いつくばった。
「……くそ、おまえなんかに、おまえなんかに!」
 痛みに対する反射と、あまりにも情けない自分への怒りが、ヴィーカの視界を滲ませる。それでも、笑う膝を叱咤して立ち上がると、精一杯の力でヘルドを睨み付けた。
 それを見下ろし、侮蔑の笑みを向けたかと思うと、ヘルドの姿はその場からかき消えた。
 ヴィーカは呆然と教会の屋根を見遣る。
 変わり果てたエドアルドの姿がはっきりと見えると、それに兄の姿を幻視し、ヴィーカは糸が切れたようにその場に膝をついた。
「そんな……」
 嘆きは言葉らしき言葉にもならず、小さな身体の中を無慈悲に駆け巡った。

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