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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第八章 「手を取り合って」_09 

 幸いにも、転送陣がある場所には誰もいなかった。街で始まった騒動のためか、衛兵の姿もない。誰かを巻き込むわけにもいかず、衛兵と問答している時間も、今のソレンスタムには惜しかった。
 暦からさっと星の並びを思い出し、それを独自に編み上げた術式に織り込んで月印を発動する。ローブを翻して手をつくと、ソレンスタムは止まっていた転送陣へと一気に術式にのせた月の力を送り込んだ。
 転送陣が光を放って起動すると同時に、三層の魔法陣が直上に出現。まるで鍵穴を合わせるかのように三つの魔法陣が回り出し、それが止まると、三つの魔法陣は折り重なるようにして転送陣へと降下した。
 転送陣の機構はそのままに、魔方陣の術式を一時的に偽装して、その目的地に変更を加える術法だ。秘術というわけではなかったが、隠遁生活が長かったおかげでまだ誰にも見せていないのも事実だった。キリヤが驚いた顔をしていたけれど、すぐに自分なりの分析をし始めるあたり、彼らしさは変わっていないようだった。ヘルドのことを思えば、キリヤの変わらなさに慰められる思いもする。
「さあ、これで準備は整いました」
「しかし、あいつらで本当に大丈夫なんでしょうか。暴走したリバスネイルともなると、それなりに腕の立つ者でないと対峙することすらままならないでしょう?」
「大丈夫です。彼ならね」
「……師匠がそう言うのなら、大丈夫なのでしょうが」
 キリヤはソレンスタムの星読みとしての能力を指してそう言っているのだろうが、ソレンスタムが大丈夫だというのはそこではなかった。彼らならきっとなんとかする。そんな根拠のない確信がソレンスタムにはあった。それを言ったらキリヤはきっと驚くだろうが、誰よりも自分自身が驚いているのだ。
 他人と語らい、行動をともにすることで人は変わる。
 書を読み、星を読めば頭ではわかる。だが、そのことの本質を理解することはできなかっただろう。人とはそういう愚鈍な生き物なのだ。だからそれは、この旅の副産物でもあった。
「学ぶことはまだまだ多い」
「師匠?」
「キリヤ。ヘルドとの問題が片付いたとしても、私たちとともに来なさい。それはきっとあなたのためにもなる」
「……考えておきます」
 照れくさいとき、嬉しいとき、キリヤは仏頂面を浮かべる。それも彼の変わらぬところの一つだとわかると、ソレンスタムは軽くなった気分に押されて微笑を浮かべた。
「師匠、やはりあなたは変わられた」
 そう言いながら、キリヤが笑って答えた直後、「ソレンスタムさん!」と叫ぶ声が聞こえた。
 アーヤとヴィーカの二人が、カペルを追い立てるエドアルドを上手く牽制し、カペルはカペルで攻撃を何とかかわしながら、こちらへと走ってくる。やはり上手くやってくれたのだという理解が胸を温めたが、同時に変わり果てたエドアルドの姿にヘルドの姿が重なり、ソレンスタムは杖を持つ手に力をこめた。
「カペルくん、月の鎖のある場所まで飛ばしますよ!」
「月の鎖!? ちょ、ちょっと、まだ心の準備が……!」
 言いよどむカペルにエドアルドが突進し、それを受けたカペルが激しく吹き飛ばされる。ソレンスタムたちの目の前をごろごろと転がると、カペルは転送陣の直前で停止し、立ち上がるなり剣を構えた。
 そこにもう一度、エドアルドが猪突する。
 助けに入ろうと思ったのも束の間、ぐっと歯を食いしばるのカペルの顔が見えると、ソレンスタムはそれをやめた。
 カペルはエドアルドの突進を受け止めると同時に相手の腕を取り、吹き飛ばされる勢いを使ってエドアルドを転送陣の中へと引き込んだ。
「ふん、やるじゃないか」
 キリヤが精一杯の賛辞を送る中、遅れてアーヤとヴィーカの二人がやってくる。
「ソレンスタムさん!」
「アーヤさん、あなたはカペルくんを援護してあげてください。私もすぐに参ります」
「ソレンスタム様が直接戦われるんですか?」
「ヘルドは私の弟子です。師である私が何もしないというわけにはいかない」
「弟子!?」
 驚いたのも一瞬、炎の皇女は生来の賢さでそれを飲み込むと、「……わかりました」と一言だけ言い、転送陣の中へと消えていった。彼女の賢さも、裏表のない正直さも、ソレンスタムの目には幼いものに映るが、同時にそれは好ましいものとも思えるのだった。
 一緒にいたヴィーカは、アーヤが消えるのを見送ると、束の間、キリヤと視線を交錯させていた。お互い、治療薬のことで思うところはあるだろう。だがそれも、この状況を収拾してからでも遅くない。
 ヴィーカも何も言わず転送陣の中へと踏み出した。キリヤは無言のままそれを見送った。
「ボクもいくー」
「ワタシもー」
 いつの間に追いかけてきたのか、ルカとロカがグスタフの背にまたがってこちらへと走ってくる。ソレンスタムはそれを止めて、二人に言った。
「君たちにはここを封鎖してもらいたいのです」
「ふうさ?」
「この先は危険です。あの蜘蛛たちが追ってこないようにするためにも、一般の人たちが紛れ込まないようにするためにも、ここは誰も通すわけにはいきません」
「おっちゃんみたいに通せんぼすればいいの?」
「そうです。バルバガンさんの代わり、あなたたちならできますね」
「もちろん!」
「おっちゃんの代わりー」
「それでは、よろしくお願いします」
 ここにいればいくらか安全だろう。まだ出会いや別れを糧にするには幼すぎる二人。だが、この才能に恵まれた二人にとって、この旅がかけがえのないものになる日はそう遠くないだろう。その近い将来を守るためにも、彼らはここにおいておくのが一番だ。
 ソレンスタムはキリヤと視線を重ねた。キリヤは一つ頷くと、転送陣の中へと先に行く。
「よーし、誰もとおさないぞー」
「とおさないんだから!」
「がう!」
 二人と一匹の背中を見遣ると、ソレンスタムは、弟子たちの待つ鎖の台地へと向かった。

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