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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第八章「手を取り合って」_10 

 コバスナ大森林の北東に広がるなだらかな岩山に打ち込まれた月の鎖は、レオニードが打ち込んだものの中でも最も古いものの一つだ。放置されていたのは、そこへ行くためには女王蜘蛛の巣を抜けなければならないという条件と、ハルギータからは最も遠い場所にあったという地理的な条件が重なった結果で、他に比して影響も小さく、緊急性が認められていなかったからだった。
 いつしか鎖の台地と呼ばれるようになったその場所は、眼下に広がる大森林とは景観を異にし、低木とわずかな草花だけが散在する荒涼とした場所だった。かつてはハルギータの聖獣麒麟の座所であった聖なる土地も、今では冷たい風が甲高い音を立てて駆け抜けるだけの、薄ら寒い場所でしかない。
 転送陣に一緒に飛び込んだエドアルドは、こちらに出た直後、少し離れた場所に見えた月の鎖を見つけると、そちらへとひた走っていってしまった。それを呆然と見送っていたカペルに遅れて、アーヤとヴィーカが現れる。風に乱された髪を耳に掛けると、アーヤが強張った瞳をこちらに向けた。ヴィーカの表情も、当然ながらいくらか硬い。
 皮膚感覚以上に寒く感じるのは、寂寥とした風景に混じる風切り音のせいか、それとも、緊迫し始めた状況のせいだろうか。ここで止めなければ、エドアルドは取り返しのつかないことになる。その理解が三人の心を逼迫させていることに疑いは無かった。
「エドアルドは?」
「あっちに行っちゃった」
 月の鎖を見たアーヤが息をのむのが見えると、さらに遅れてソレンスタムとキリヤが現れた。変わらぬ仏頂面のキリヤはともかく、ソレンスタムの微笑には普段とは違う色が混じっている。無理に隠そうとしている様子もないが、出会った頃との印象の違いは、カペルに極々わずかな戸惑いを覚えさせていた。
 ブルガスで解放軍に同行した理由を尋ねたとき、ソレンスタムはカペルへの興味とは別に、個人的な理由があると言っていた。ヘルドのことを話すソレンスタムの顔を見れば、あれがその弟子に関係することだったのだろうとも想像がつく。久々にあった弟子が封印騎士となり、ケルンテンの街に混乱をもたらし、そしてエドアルドの病魔の引き金をひいた。カペルには弟子などいるはずもなく、そしてソレンスタムはハイネイルでもある。その気分を正確に推し量ることは難しいが、だからといって、根本的な感じ方が自分たちとは違うようにも思えなかった。一人で旅をしていた頃ならどうせ理解し合えないと最初から諦めていただろうが、この旅の中で少なからず接してきた今だから、その表情から感じるものもある。
「ヘルドのことは私たちに任せてください」
 だが、ソレンスタムたちから見たらどうだろうか。ソレンスタムのような変わり者ならともかく、それが他のハイネイルだったら?
 たとえ共に旅をしたとしても、新月の民を仲間と思う気持ちが芽生えることはあるのだろうか。
 仲間。
 その言葉は、カペルの胸をざわつかせる。
 ソレンスタムさんも、アーヤやヴィーカ、それにエドアルドだって、僕の仲間だ。
 そう自分に言い聞かせるとき、必ずもう一人の自分が言う。
 相手もそう思っているのか?
 相手は違うんじゃないか?
 そんなものに答えられるはずもなく、すると昔の記憶が否応なく呼び出されて重なり合い、最後の一歩を躊躇している自分に気づかされる。
 それは新月の民として生きてきたカペルが、自衛のために身につけた性分だ。他人は自分の期待には応えてくれない。そう刷り込まれた心が、線を引く。
 越えなければ何もわからない線。
 越えればどうしようもなく傷つくことになるだろう、線。
 怯えて距離を取っていながら、それでも越えたいと心の望んでいたその線に向かって、無理矢理引きずっていってくれたのがアーヤなのだろう。それが自分を少しずつ変えてきたのがなんとなくわかる。自分一人では出来なかったことだ。だが同時に、自衛手段を奪われた心に、恐怖の記憶を呼び起こさせる行為でもあったかもしれない。
 いずれにせよ、僕と、僕を取り巻く世界は変化の渦中にある。揺れる心をひとまずそれで落ち着け、カペルは目の前の仲間たちと視線を重ねた。
「治療薬は取り返します。ですからあなたはエドアルドくんの方をお願いします」
「お願いします、って言われても、でもいったいどうすれば?」
「この際、多少の乱暴は仕方ないでしょう。薬を使うためにも、彼の動きを止めなければなりませんから」
「乱暴、ですか」
 どちらかというと、乱暴される側のような……。
「安心しなさい、バカペル。あんたがやられる前に私たちが何とかしてあげるわよ。ね、ヴィーカ」
「お、おう」
 辺りから蜘蛛がいなくなり、すっかり元気を取り戻したアーヤが言うと、ヴィーカはいくらか緊張した面持ちで答えた。
 それを見守るような微笑で聞くと、ソレンスタムはすでに歩き始めていたキリヤを追って先に進んでいく。
「やられるのが前提なんだ」
「当然そうよね」
「……よろしくね、ヴィーカ」
「へへ」
「じゃあ行こう」
 半分は自分に言い聞かせながら、カペルは月の鎖を仰ぎ見た。踏みしめた砂利の音と風切り音が混じる中で、最初に鎖を斬ったときの甲高い音が耳に思い出され、そこで死んだリュウカの熱が手の中に再生される。
 今度はきっと間に合う……。いや、間に合わせなくちゃいけない。
 出会いと別れは旅のつきものだが、エドアルドと別れるのはまだ先の話だ。
「さっさとしろ。時間はそれほど残っていない」
 腕を組んで待っていたキリヤが、ソレンスタムが追いつくなりカペルたちに言った。ただ事実だけを告げている声に促され、カペルは月の鎖へと歩み出した。

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