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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第八章「手を取り合って」_18 

 これで何匹目だろうか。
 数えるのは早々に止めてしまった。そんなものを誇ったところで、殿下には褒めていただけない。
 コマチは目の前の蜘蛛を切り伏せると、さらに上空からやってくる蜘蛛の群れめがけて跳躍した。最初の二匹を踏み台にしてさらに飛び、一番奥の一匹に肉薄した瞬間、逆手に構えた両の小太刀を振り抜いて切り捨てる。すぐさま小太刀を鞘に収め、空中で身体をひねりながらクナイを二本抜くと、それを踏みつけた二匹の蜘蛛に向かって撃ち放つ。月印の力をのせたクナイが光軸を引き、二つの流星となって正確に蜘蛛の急所を捉えた。
 でも、これでクナイは最後だ。
 着地し、再び小太刀を引き抜きながら周囲に視線を散らす。この辺りに限って言えば、一般人の避難はほぼ終わったと言って良い。だが、それは同時に、蜘蛛の群れがこちらへと集中してくることを意味していた。
「コマチ」
 背中から声。振り返らずともそれが誰だかを間違えるはずがない。背中合わせで戦えることの高揚感が抑えきれず、コマチの声は少しだけうわずってしまう。
「殿下、クナイが尽きました。このままでは」
「わかっておる。もう少しだ。もう少しでユージンが戻ってくる」
「はい!」
 息が少し荒らい。さすがのトウマ様と言えど、この数が相手では疲弊もするのだ。このお方が後れを取るような相手ではないと理解しつつも、もしものことがあったらと思うと背筋が凍る気分だった。
「避難はおおよそ済んだようだな」
「そのようです」
 周りは敵だらけだというのに、いや、だからこそか、この世界には二人しかいないような錯覚に襲われる。頬が紅潮するのを自覚し、そんなことを考えている場合ではないのにと自分を戒めた瞬間だった。
「コマチ、飛べ!」
「えっ!?」
 地面に横たわっていた蜘蛛の一匹が糸を吐き出し、それがトウマとコマチを襲った。逡巡したコマチは逃げ遅れてしまう。
 それを見たトウマが即座に反転し、コマチを押し倒す。ぐらりと揺れた視界にトウマの姿を捉え、守られることの喜びと、主を危険にさらしたという焦りがコマチから冷静さをさらに失わせた。
 蜘蛛の糸はトウマを襲い、その足を絡め取った。すぐに魚を釣り上げる要領で糸が引かれ、逆さ吊りになったトウマの身体が空中へと跳ね上げられる。
「若っ!」
 咄嗟に小太刀を投擲して糸を吐き出した蜘蛛を仕留めたが、よく見れば、それは先ほどコマチが切り捨てた蜘蛛の一匹だった。
 未熟さと油断が招いた結果に、自分と敵への怒りが頭をもたげる。だがそれを行動に変換するより早く、頭に上った血がすっと引くのを感じることになった。
 空中に跳ね上げられたトウマはそのまま女王蜘蛛の眼前へと落ちた。そこらの蜘蛛の数倍はある巨体から即座に大量の糸が吐き出されるのと、トウマが立ち上がり、足に絡まった糸を断ち切ったのはほぼ同時。
 間に合わない。
 冷静さを取り戻した頭がそう言い、利き手に持ちかえたもう一本の小太刀を投げても女王蜘蛛は仕留められないと判断すると、それならば身動きの取れなくなったトウマが女王蜘蛛に襲われるより早く救い出そうと、コマチは数瞬、脚力に全ての力を溜めた。
「ロウズ」
 後方から聞こえたその声が、コマチの溜めを解除させる。トウマの眼前にせり上がった石の壁が、女王蜘蛛の吐き出す大量の糸を堰き止めたのだ。
「間に合ったようだね、トウマ」
「来たか、ユージン!」
 絶対的な信頼がトウマの声音に混じるのを感じたとき、コマチは自分の内に沸いたわずかな嫉妬に気づかないでいた。
 若が助かった。ひとまず胸を撫で下ろしてユージンの笑みに答えると、彼はすぐに次の詠唱に取りかかり始める。
「一気に決めるぞ!」
 女王蜘蛛の懐に入り込めたことを幸いにと、トウマはその場で目を瞑り、月印の力を解放した。可視化できるほどに密度を増したそのエネルギーが激流となって渦を巻き、降り始めた月の雨を無尽蔵に飲み込むと、背中の三日月が輝きを増していく。闘気を練り上げるその背中は無防備にも見えたが、その信頼に応えるように、ユージンの石つぶてがトウマに飛びかかろうとする蜘蛛を寄せ付けずにいた。凝縮された闘気が青白い炎となって踊り、舞い散る雪を払いのける。その闘気が刀とともに鞘に納められると、合わせたように、ユージンの作り出した壁が大地へと戻っていった。
 トウマの背中から感情の波紋が消え、それに呼応するように辺りを刹那の静寂が包み込む。巨大な力が空気を張りつめ、波一つ立たぬその世界の中で、トウマが刮目した。
 その声は、確かにコマチの鼓膜を震わせた。
「明鏡止水」
 練り上げられた月印の力を吸い上げながら、トウマの刀が鞘を走る。蒼白の炎が極薄の刃へと姿を変えると、それは蜘蛛もろとも目の前の空間を二つに割った。
 閃光よりも速く、あらゆる刃よりも鋭く。
 それはコマチが視認できる速度を凌駕し、コマチが知覚できたのは、再び鞘に収められた刀の音と、遅れて両断された大蜘蛛の巨体だけだった。
 両断された蜘蛛はそれでも絶命することなく、バランスの取れなくなった身体を這わせ、腹から子蜘蛛の群れを生み出そうとしている。
「ロスデクス」
 それを制するように、詠唱を終えたユージンが大地から無数の石柱を屹立させる。巨大な爪と化した石柱が蜘蛛の四方を同時に走り、それは両断された大蜘蛛の身体を捕らえる牢獄となる。
 その様子を見ながら、コマチはすでに走り始めていた。
「コマチ!!」
「はい!」
 若に名を呼ばれることを予測できた自分を褒めてあげたい。
 トウマに答えながら手近の家屋の壁をかけあがり、コマチはユージンが作り上げた牢獄を越える高さまで跳躍した。そして、空中で身をひねりながら印を結び、身体が下方を向いた瞬間に月印を発動させる。
「いきます!」
 胸の前に生成した月印に標的を捉え、コマチは肺に練り込んだ月の力を一気に解放する。
「かがり火!」
 その月の力は、月印を通過すると同時に紅蓮の炎へと変貌を遂げた。舞い散る雪を即座に蒸散させながら殺到する火炎が女王蜘蛛の巨体を包み込み、腹から這い出そうとしていた子蜘蛛もろとも浄化の炎の中へと溶かし込んでいく。
 瞬間的に熱せられた大気が爆風となり、広場を蹂躙し、家屋の隙間を縫うように駆け抜けていく。ケルンテンの肌を刺す冷気がそれを水蒸気へと変えていく中、女王蜘蛛の断末魔がその場にいた者すべての鼓膜を震わせた。
 女王蜘蛛の腹の下で、月印がそれを縛る鎖もろとも弾けて消えた。その瞬間を認識できたものはこの場にいなかったが、知らずとも、その結果はケルンテン中から確認できた。紫がかった閃光の柱が女王蜘蛛を飲み込んで立ち上り、紅蓮の炎ごとその巨体を飲み込んで収束する。時を合わせて、街中の蜘蛛が光となって霧散した。
 先ほどまでの戦闘は夢だったかのように、静謐の時間がケルンテンの街並みを押し包んでいった。

【小説インフィニットアンディスカバリー】
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