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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第八章「手を取り合って」_20 

 降り始めた月の雨が、今だけは味方をしてくれている。
 軽くなった身体を躍らせ、アーヤは月印の力で作り出した光の矢を撃ち放った。それは宙に浮かぶ球体の群れを擦過して飛び、直上で弾け、無数の矢となって降り注いだ。月の雨にも似た光の矢がソーサリーグローブを捉える。だが、それはソーサリーグローブの張った魔力の被膜によってかき消され、鈍色に光る球面に傷一つつけられないでいた。
「これじゃ駄目? それなら」
 吸収した月の力を引き絞った矢に乗せ、それを炎の鳥へと変化させる。いつもより一回り大きく広げた翼をはためかせ、カーディナル・クロークが敵である球体の群れを追った。中空で弧を描かせてみれば、その姿はまさに鳥だ。球体のいくつかを炎でなぎ払い、アーヤの放った鳳凰が空を舞う。
 それを避けるように降下してきたいくつかのソーサリーグローブに向かって、アーヤは一気に接近する。炎の軌跡を大地に描き、加速しながら矢を弓につがえ、矢じりの触れる距離からそれを解き放つ。防御のための結界を張らせない至近の一撃は、金属質のその球体を真っ二つにたたき割った。
 背中から気配。鋭敏になった感覚がそれを捉え、アーヤが横に跳ねるに合わせて雷撃が襲ってくる。振り返ると同時に眼前まで接近してきていたソーサリーグローブを見ると、アーヤは咄嗟にそれを蹴り上げた。体勢が崩れるのに任せたまま、頭上に浮かばせたソーサリーグローブに向かって矢を撃ち込む。矢が突き刺さり、機能を失って落ちてくるのをかわしながら立ち上がった。疲れるどころか、逆に調子の上がってくる感覚に少し驚きながらも、アーヤは確信する。
「いける……」
 その確信を力に変えて月印に収束させ、アーヤはそれを弓に添えた。爆発的に吹き上げた炎が六本の矢と姿を変え、弓を中点とする円を描いて展開される。指先に走った痛みが力の許容量を教え、アーヤは肥大化したエネルギーの臨界点を感じ取った。弦が弾かれるのを合図に、炎の矢はそれぞれの獲物を追って手元から解き放たれる。それぞれがカーディナル・クロークと同等の火力を持つその姿は、さながらフェイエールの聖獣である朱雀からこぼれ落ちた、六枚の羽だ。
 さすがに重くなった身体を支えながら、六枚の羽がソーサリーグローブの群れを次々と爆炎に包み込んでいくのをアーヤは見上げた。いつもはこれほどうまく制御できない技だったが、これも月の雨の恩恵だろうか。
 ……薬と毒はコインの裏表だ。敵を倒すだけの力を与えてくれる月の雨。それは同時に、エドアルドを狂わせた一因でもあるのだから。
 アーヤはエドアルドの方を見遣る。
 カペルを攻撃するその合間に、エドアルドは苦悶の表情を浮かべているようにも見える。漆黒の翼が月の雨を吸い、踊るたびに動きが止まる。それはカペルにとってはプラスだったが、エドアルドの状態が刻一刻と悪化しているということも意味していた。
「早くしないと……この雨の中じゃ、エドアルドが……っ!」
 視線を外していた隙に、ソーサリーグローブの一つがこちらへと突っ込んできていたことに気付き、アーヤはすぐに態勢を立て直す。だが、咄嗟に矢を引き抜こうとした手の動きが鈍い。それでもなんとか射た矢が巨大な砲弾と化したソーサリーグローブを迎撃するが、先ほどまでとは違い、その矢には硬質の球体を止めるだけの力はなかった。
 避けることは出来ない。それなら……。
 この一撃はもらうと腹をくくり、アーヤは反射的になけなしの月の力を月印に注ぎ込み、防御のための障壁として展開する。ぐっと歯を食いしばり、敵の一撃を待ちかまえた瞬間だった。
 アーヤとソーサリーグローブの間に割って入った小さな影。
 甲高い金属音は、ヴィーカの持つ短剣がソーサリーグローブの一撃を受け止めた音だった。刃の腹で受け止め、猫を思わせる柔軟な足腰で突撃の衝撃を減殺しきると、ヴィーカは目の前の球体を蹴り飛ばした。腰に下げた小さなバッグから別の短剣を引き抜き、大地に転がったそれに投擲する。月の力を乗せたその刃が球体の皮膜を突き破ると、弾けた欠片と一緒になって、ソーサリーグローブは爆散して消えた。
「ヴィーカ!?」
「へへへ、いつまでも泣いてたら、兄ちゃんに笑われちまうよ」
 振り返り、鼻をこすりながら言うヴィーカの目は真っ赤に腫れていた。
「それに、これ以上みんなに迷惑は掛けられないから……」
 すべてを受け入れられるほど、ヴィーカの身に降りかかった出来事は小さくないはず。目の前にはまだ、ヘルドも、エドアルドもいるのだ。それでも笑ってみせるヴィーカの強さは、この子の長所でもあると同時に、その身を滅ぼしかねない危うさもはらんでいると感じられたが、いまはそれに助けられる思いだった。
「ありがと、ヴィーカ」
「へへへ」
 腰のバッグにはまだいろいろと入っているらしく、先ほど投げた短剣のスペアもあるらしい。投げつけたときの引き抜く勢いで予備のそれが飛び出していたのをしまいながら、ヴィーカは照れ臭そうに笑った。
「ん? ヴィーカ、それってコマチさんのクナイじゃ……」
「盗んだんじゃないぜ。落とし物を拾っただけだからな」
「もう……。ふふふ」
 得意げに言うヴィーカを見、少しだけ軽くなった気分で笑った直後、異様な絶叫がアーヤとヴィーカの耳をつんざいた。
「ぐああああああああああああ!!!」
 エドアルドかと思ったのも一瞬、それがソレンスタムたちの方から聞こえてきたことに気付いて、アーヤはそちらへと視線を流す。
 漆黒の翼と甲冑へと変えていた姿を留めきれず、炎にも似た何かに変わった月の力がヘルドの身を焼き焦がしている。全身を苛むその苦痛に悶え、顔の半分を焼く漆黒の炎の下で、赤く燃える目が光を失いつつあった。
「月の雨は、毒にもなる……」
 独りごちた言葉に冷たい汗が頬を伝い、アーヤは身を震わせると、エドアルドの姿を視界の端に捉えながら矢を弓につがえた。敵と定めたものへと視線を戻し、今は自分のなすべきことを、と逸る自分に言い聞かせる。
 必ず間に合う。必ず間に合うから……。

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