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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第八章「手を取り合って」_21 

 地獄に業火があるのだとすれば、その色はきっと闇夜にも似た黒だ。その業火に身を焼かれ、悲鳴にも似た絶叫をあげる兄弟子を見遣ると、キリヤの脳裏には過去の記憶が駆け始めていた。
 この鎖鎌は、兄とも慕ったこの男に扱い方を教わった。
 武器は使い慣れたものが一番良い。おまえは薬師だから薬草を採る鎌の扱いを覚えるのが良いだろう。そう言われて手ほどきを受けた。別に武器の扱いなど覚えたいとも思わなかったし、結局それが役立つ場面もほとんど無かったが、身体がなまれば頭の回転も鈍ると師匠に言われ、鍛練だけは続けていた。
「ば、馬鹿な……、まだ時間はあったはず……ぐっ」
 漆黒の炎が半分を隠したその表情には、まるで昔の面影はない。力に魅せられ、心の奥底にあった衝動をむき出しにして吠えるヘルドの姿に、キリヤは胸を突かれる思いだった。
 なぜなら、この兄弟子の姿は、同時に自分の姿でもあるからだ。ヘルドが力を求めるようになった理由。似た感情を持ったキリヤには、それがよくわかる。
 ヘルドは、師に近づきたかったのだ。ハイネイルである師に並ぶ力を得ることは、コモネイルであるヘルドやキリヤには無理な話で、必然的に、キリヤは知の探求で近づこうとした。だがヘルドは違う。力を求め、ハイネイルであるソレンスタムと同等の力を得ようとした。力を以て師に近づきうる方法としたのだ。そしてたどりついたのが、リバスネイル化の制御だったのだろう。月の力を無尽蔵に使うため、身体を作り替える。そういう意味では、ハイネイルとリバスネイルは同じものだ。それに気付いたとき、キリヤはその月印という体系に恐れを抱いた。だがヘルドは、きっと喜悦の笑みを浮かべたに違いない。
 今は苦悶を浮かべるだけのヘルドの目がこちらを見るのを確かめ、キリヤは武器を構え直す。
「そいつを寄越せ、キリヤアアアアアアアア!!」
「渡すかよ!」
 ケタ違いに出力の上がった力で大地を蹴り、ヘルドが文字通り鎌首をもたげて突っ込んでくる。それをかわし、背を向けたヘルドに向かって、キリヤは反射的に鎖鎌の分銅を撃ち放った。見えているはずもなかったそれを易々とかわすと、ヘルドがその鎖を掴み、腕に巻きつけるようにして放さない。強烈な力に引き寄せられるのを何とかこらえながら、キリヤは獣の姿をした兄弟子を正視した。
「治療薬だ……その、治療薬を寄越せええええ!!!!」
 伸ばされた手に月印に呼応して風が渦を巻く。ヘルドから放たれたその風の塊がキリヤを襲った。大気の刃が皮膚を小さく切る。小さな痛みが頬や手に感じられたそのとき、腰にぶら下げていた革袋が風にすくわれていくのをキリヤは見た。 
「しまった!」
「ふははは、そいつはワタシが……なに!?」
 ヘルドの視線の先に、風に飛ばされた革袋が落ちる。それを拾い上げた少年の姿に、ヘルドが言葉を失った。
「へへへ、ヴィーカ様を舐めるなって言ったろ? こいつは返してもらうぜ」
「クソガキがぁあああ!」
 先ほどまで見せていた余裕は欠片も残っておらず、怒りをむき出しにしたヘルドが飛ぶようにヴィーカを追いかける。理性と知性を削り捨て、感情と衝動に飲み込まれていく様をさらけ出しながら、獲物を追う獣よりも浅ましく駆ける姿を見、キリヤはヘルドの腕に絡みついたままの鎖を引いた。使いたいくはないがこの戦いが終わるまでは仕方ない、と開放していた月印から痛みが走る。それでも、行かせるわけにはいかなかった。
「ジャマをするなあ!」
 振り返って叫びながら鎖を振りほどこうとした刹那、ヘルドが全身を痙攣させてその場にひざをついた。暴走が悪化する月印に身体が悲鳴を上げ始めたのだ。それを無視してでも月印を開放し、暴走する翼の下に持ち上げた鎌で、ヘルドは鎖を切り落とそうとした。
 いつのまにか近づいていたのか、その腕をソレンスタムが掴んで止めた。
「もうよしなさい、ヘルド」
「う、うるさい!!」
 ヘルドは、駄々をこねる子供のようにしてソレンスタムの手を振り払った。その手に持つ鎌の刃が、ソレンスタムの頬に一本の赤い線を引く。
「あっ……」
 それに絶句したのはヘルドの方で、その様子を悲しげに見たソレンスタムの手に、月印の光が仄かに灯った。
「ラノーノ」
 ソレンスタムの手から離れた光がふわりと舞い上がり、それがヘルドの頭上に光の柱を屹立させた。光の柱はヘルドを飲み込み、天へと昇る。ヘルドの絶叫は、柱の周りを舞う光球が爆ぜた音にかき消された。爆風にも、ヘルドの叫びにも微動だにせず、ソレンスタムは静かに目を瞑っている。その目が開かれたのは、光の中で漆黒の翼を失ったヘルドがその場に崩れ落ちたときだった。
「ヘルド」
「し、師よ……私は……」
 倒れた弟子を抱き起こし、昔の光をわずかに取り戻したその目を、ソレンスタムはそっと見つめた。伸ばされた手を握り返し、弟子の最期の言葉に静かに耳を傾ける。
「私は、貴方を……貴方……に……」
 言い終わるよりも早く力を失った腕が、ソレンスタムの手からこぼれ落ちる。ヘルドの両の手を胸の前に重ね合わせてやりながら、ソレンスタムは弟子の最期を看取った。
「……眠りなさい。ヘルド」
 そのかたわらで、キリヤもまた、兄弟子の最期を静かに見つめていた。

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