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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第八章「手を取り合って」_22 

 降りしきるこの月の雨は、だれの味方なのだろうか。
 受け止めた剣が悲鳴を上げ、押し付けられた慣性に流されるままカペルは殴り飛ばされる。月の雨を喰らい、次第に破壊力を増し始めているエドアルドの攻撃を受け続けるのも、そろそろ限界だ。力の入らぬ膝が笑い、それでも這いつくばっているわけにもいかず、カペルは剣を支えにしてなんとか立ち上がった。
「しまった……」
 顔を上げると、そこには落としていた大剣を拾ったエドアルドの姿があった。手に馴染む獲物を確かめながら、エドアルドが獣の咆哮を上げる。拳ならまだしも、エドアルドが振るうあの大剣を受け止められるのだろうか。たとえエドアルドが月印を使わなかったとしても、それが出来る自信がカペルには無かった。当たり前だ。努力を続けてきたエドアルドの剣を受け止められるほど、僕は強くない。努力もしていない。
 何かを得るためには、何かを犠牲にする必要がある。代償を払わぬまま得られるものなどない。それがわかっていたから、カペルは何も得ようとしてこなかった。力も、仲間も、月印も、必要ではないと思おうとしていた。だけど今は……。
 エドアルドを仲間と呼ぶための代償はなんだ?
 それがこの痛みならば、もう少しだけ、僕は耐えられる。
「カペル!」
 後ろから呼ぶ声に振り返ると、あの球体をすべてたたき落としたアーヤがそこにいた。いくらか上気しているのは、戦いか、あるいは月の雨がもたらす高揚感のせいだろうか。いずれにせよ、息を弾ませながらやって来た援軍に、張りつめすぎていた気分がいくらか楽になるのをカペルは感じた。
「あんたもやれば出来るじゃない。よく堪えたわね」
「アーヤ」
 エドアルドを見遣り、アーヤは言う。
「急がないと、もうそれほど時間は残ってないわよ」
「でも薬が」
「ヴィーカが持ってきてくれるわ。さあ、私たちはあの馬鹿をひっぱたいて、さっさと捕まえちゃいましょう」
「ひ、ひっぱたくって……」
「安心しなさい、バカペル。今の私は何だってできちゃうんだから」
 そう言ってアーヤはにこりと笑ったが、本当は不安でいっぱいなのだと書かれているその笑顔に、カペルは緩みかけた気分を引き締めなおした。
 リバスネイル化したヘルドが暴走したのは、カペルも見ていた。制御に自信があったはずのヘルドがそうだったのだ。この雨の中、すでに暴走を始めているエドアルドの症状が一線を越えてしまうまでの時間に、余裕のあるはずがない。
 意思を確かめあい、二人がこくりと頷きあった直後、エドアルドが気合いとともに大剣を突き出した。暴走する月の力がそれに乗り、衝撃波となって襲いかかってくる。二人は咄嗟に左右に飛んだ。後ろの岩壁が砕けるのに気を取られたカペルよりも一歩早く、アーヤがエドアルドに向かって走り出す。
 一気に懐に飛び込もうとしたアーヤを、エドアルドは剣を横に薙ぐことで阻止した。アーヤはそれを予期していたかのように剣の間合いの外で後ろに跳び、続けざまに五本の矢を撃ち放つ。ほぼ同時にも思える速度で放たれたそれをエドアルドは大剣の腹で受けきり、いまだ空中にあったアーヤに向かってそれを一閃した。
「きゃあ!」
 突風にも似たエネルギーの奔流に押し流され、アーヤは後方に飛ばされる。その一振りの隙をついて、今度はカペルが飛び込んだ。なまじの攻撃では弾かれるだけ。そう判断したカペルは、飛び込む勢いを借りて身体を縦に回転させながら、全体重を乗せた切り下ろしをエドアルドに叩きつけた。
 が、それも月の力で保護された篭手で防がれてしまう。そのまま剣をはじき飛ばされ、カペルは尻餅を突いた。見上げるエドアルドの目には赤く焼ける感情の渦だけがあり、こちらを敵としか見なさぬ冷たいその目に、カペルは一瞬、覚悟を促された。
 エドアルドが剣を振り上げる。すると、今度は誰かが投げたロープがそこに絡みついた。そのロープがエドアルドの剣を止める。エドアルドにつられてカペルもロープの投げられたほうを見遣る。頼りなげなロープの端を持ち、懸命に引いているのはヴィーカだ。
「ヴィーカ!」
「へへへっ、……ってうわぁ!」
 直後、エドアルドがロープを引き、釣り上げられるようになったヴィーカが宙を舞った。この隙にと立ち上がっていたカペルだったが、飛んできたヴィーカを受け止める羽目になり、結局もう一度尻餅を突くことになる。
「いてててて……」
 転んだ拍子に瞑った目を開けると、エドアルドが再び剣を振り上げるのがヴィーカ越しに見え、まずいと思った刹那、炎の鳥と化した矢に襲われてエドアルドがよろめいた。
「あったまきた! もう怪我しても知らないんだから!!」
 月の雨の影響か、それともいつも通りのアーヤか、ぷんすかと怒り出したアーヤが容赦なくエドアルドを攻撃し、エドアルドはそれに応じてアーヤを追う。
 とりあえず助かったことに息をつくと、胸の中で顔を上げようとしないヴィーカに気付いて、カペルは戸惑った。
「ヴィーカ、大丈夫?」
「兄貴、あの、おいら……」
 責任感の強さはヴィーカの長所でもあるが、この年で背負うにはいくらか重すぎる荷を抱えてしまう原因にもなっている。怪我でもしたのかと思ったら、どうやら違うようで、先ほどの兄とのことで皆に迷惑を掛けたのだとでも思っているのだろう。言葉に詰まり、顔を上げないのがその証拠だ。
 ヴィーカは、もっと誰かに甘えればいいんだ。それがまだ許されるうちに。
「助かったよ、ヴィーカ」
 それだけ言うと、頭の回転の速いこの少年ははっとして顔を上げた。照れ臭そうに笑うのも強がりからだが、思い詰めているよりましだ。
「へへ、だからヴィーカ様に任せとけって言ったろ?」
 鼻をこすりながらそう言うと、ヴィーカは腰のバッグから革袋を取り出して言った。
「兄貴、治療薬、返すよ」
「うん」
 今はまだ、戦いの緊張感があるからいい。この戦いが終わったら、きっとヴィーカを襲う悲しみは今の比じゃないはずだ。でも、その時にはみんなが側にいる。それはエドアルドだって同じだ。リバスネイルが解けた後、エドアルドの周りにもみんながいる。帰るべき人の輪が、そこにはあるんだ。
「カペル!!」
 悲鳴にも似たアーヤの声に呼ばれ、カペルとヴィーカはそちらを見遣った。
「があああああああああああ!!」
 エドアルドの絶叫がこだます。そして、その漆黒の翼の先端が徐々に透明化していくのをカペルは見た。
「カペル、時間がないわよ!」
 革袋から取り出した治療薬を手に確かめると、カペルはすぐに立ち上がって走り出した。身悶えながらも剣を振り回すエドアルドに近づくのは危険だが、もうそんなことを言っている時間がない。
 アーヤが矢を射かけ、エドアルドの注意を引く。そのおかげで一瞬遅れた斬撃をかいくぐり、カペルはエドアルドの懐に飛び込んで一気に押し倒した。馬乗りになって押さえ込めたのは、エドアルドが痙攣を始めたからだ。治療薬を持つ手に力が入る。赤く焼けるエドアルドの双眸をのぞき込み、カペルは言った。
「ちょっと痛いよ」
 その瞳に移る自分の姿にシグムントの影を見ながら、カペルは治療薬をエドアルドの胸に叩きつけた。

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