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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第八章「手を取り合って」_23 

 同情はごめんだ。
 優しげな言葉も、肩にかけられたその手の熱も、怯えるその目が嘘だと言っている。
 月の鎖が打ち込まれた後、父と母は流行り病で死んだ。病気がうつることが怖いというのもわかる。だが、だったら最初から近づいてくるな。言葉も、手のぬくもりも、要らない。その目で俺を見るな。かわいそうに、なんて言われても父と母は蘇らない。俺の傷をえぐるだけだ。
 両親が病を患うまでは、街の名士の家柄として生きてきた。世界に愛されていることを自覚しながら、それにおぼれることなく、ただそれが当たり前のことだと受け入れて生きていた。
 だが、それは真実では無かったのだ。
 あの月の鎖が、すべてを変えてしまった。すべてを白日の下にさらしてしまった。世界は俺を愛してなどいない。世界はただそこにあり、その気まぐれな流れの中で、誰もが昨日と明日を断ち切られる可能性を秘めている。
 今回はそれが俺の番だったのだ。
 同情はごめんだ。
 俺は独りでも生きていける。この同情の目を跳ねのけるために、俺は強くならなくちゃならないんだ。


 孤独は嫌だ。
 強がってみても、自分だけは騙せない。
 独りは嫌だ。
 強くなるといっても、その方法がわからない。
 俺は何も知らなかったのだ。
 誰かに教えを請いたかったが、周りにはもう誰もいない。
 道を指し示して欲しかった。
 いや、道じゃなくても良い。ただ、この暗闇を歩いていくための、目標となる光が欲しかった。それを見つめて進んでいけば、足下に道がなくとも確かに進んでいるのだとわかる、光が欲しかった。
 そんな時に出会ったのだ。
 光の英雄、シグムントと。
 自分の実力も知らぬまま、強くなるための修業だと言って街を出、平原でトロルに襲われた。剣は簡単にはじき飛ばされ、いたぶられるままだ。身体を縮こまらせ、戦う意思などすでに忘れ、いつ殴られるのかと怯えていた。棍棒を振り上げ、こちらを蔑む視線にも何も言い返せずにだ。
 そこを、救われた。
 振り下ろされた棍棒を素手で受け止め、流れる血に眉一つ動かさず「無事か」とだけ告げてきた騎士。それがシグムント様だった。何が起こったのかと唖然として、ただ頷いて答えると、「ならばいい」と言って一撃でトロルを切り捨ててしまった。
 その姿は、まさに俺が求めていた光だった。
「あ、ありがとうございます! あの、騎士様、お名前をお教えください!」
「……ここは危険だ。街に戻れ」
 戻れない。
 光を見つけたのだ。戻れるはずがない。
 俺は追いかけた。
 そして、連れていってくれと頭を下げたのだ。体面も何も無い。そんなもの、このお方の前では無意味だ。
「シグムントだ」
「えっ?」
「名を聞いただろう」
 それが肯定の返事だと気付くのに一拍だけ時間がかかったが、高揚感が熱を帯びたのを感じると、光を見つけたのだという実感が押し寄せてきて、涙さえ流してしまいそうだった。
「ありがとうございます! エドアルドです、よろしくお願いします!!」


 光が、見えない。
 世界から、光が消えた。
「シグムント様が死んだ?」
「嘘だ!」
「あのお方が死んだりするもんか。誰だと思っているんだ、シグムントだぞ!!」
 そう、自分に言い聞かせていた。
 その事実を認められない自分と、それが事実だと知っていながら言い聞かせているのだと気付いている自分がせめぎ合い、感情の渦に火がついて、どす黒い塊が内奥で燃え始めている。
「なんでだ! なんでみんなは当たり前のような顔をするんだ!」
「あの人はもうどこにもいないのに……なんで……」
 黒い炎が身体を蝕んでいく。感情を蝕んでいく。細胞の、心の隙間に虫がうごめくような不快さが広がれば広がるほど、それが気にならなくなるほどに、深く心が閉じていく。
「シグムント様。俺、どうしたらいいんですか? どうしたら……」
 独りは嫌だ。
 暗いのも嫌だ。
 嫌だ。
 嫌なんだ。
 独りは……。
「エドアルド!」
 閉じた心の扉をたたく音。
「シグムント様……?」
「エドアルド!!」
「違う……誰だ……」
 暗闇から伸ばされた手。シグムント様の鎧を付けたその手は、だが、シグムント様のものではない。それは……
「カペル、か?」
「エドアルド、君は独りじゃない」
「カペル、どうしておまえが」
「さあ、こっちだ」
 エドアルドは手を伸ばす。
 この手は、シグムント様ではない。
 だがそれは、光だった。
 シグムント様に似た、エドアルドにとっての光だった。

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