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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第八章「手を取り合って」_24 

 身体が、重い。
 まどろんでいたように、意識もはっきりしない。
 そう自覚できる程度に覚醒すると、白濁していた世界が次第に晴れ、ずっと単色だった世界に色彩が戻り始めた。身を焼くような月印の炎はなりをひそめ、手の甲にちりちりと焼けるような鈍い痛みを放ってはいたが、それだけだった。
 さっきのは、夢か?
 ゆっくりと開けた目に最初に飛び込んできたのは、その夢の中と同じ、カペルの姿だった。
「エドアルド」
「……カペル、か」
 シグムント様ではない。
 その顔を見ても、以前のような制御できない感情が吹き出すことはなかった。それをかみしめるように確かめ、記憶の霧が徐々に晴れていくと、この数日間に起こったことと、自分がやってしまったことが思い出されていく。
「カペル。俺は……」
「記憶はあるの?」
「ああ」
「そっか……」
 差し出されたカペルの手を掴み、エドアルドは引き起こされた。どれくらい眠っていたのか、ケルンテンにいたはずのメンバーも集まってきていた。
「ヴィーカ」
 皆に迷惑を掛けた。償えるなら償いたい。だが、カペルの後ろに見えた少年の姿に、償いようの無いものがあることを思い出し、エドアルドは名を呼ぶのが精一杯だった。
「……すまん」
「……いいんだよ、兄ちゃんはもう助からなかったんだ。それくらい、おいらにだってわかってたよ。あのままの姿で要るより、ここで止まれて良かった。だから、そんな深刻そうな顔されてもさ」
 慰められているのは、こちらの方か。
 消化しきれぬ兄への思いが瞳を揺らしながら、こうして誰かのために笑う強さ。この小さな身体に宿るその強さは、俺にはなかったものだ。シグムント様への思いにとらわれ、周りに当たり散らし、それでリーダー気取りでいた自分。
 我ながら情けなくなってくる……。
「ヴィーカ、ありがとう」
 おかげで気付くことが出来た。
 自分のやるべきこと。
 自分の果たすべき役割。
 それはシグムント様の影を追うことじゃない。
 すっかり忘れていた感謝の気持ちが自然とあふれ、エドアルドは強がって見せるヴィーカの頭を撫でてやった。優しく撫でるような器用さは持ち合わせていない。だから、いつかシグムント様がそうしてくれたように、少し粗っぽく。
 おまえももう、強がらなくていいんだ……。
 感謝も、懺悔も、やってしまったことへの後悔も、これからやるべきことへの意志もない交ぜにして、エドアルドはヴィーカの頭を粗っぽく撫でた。
「よせよ……」
 そう言いながらもされるがままにされていたヴィーカから、肩の力が抜けていくのが感じられた。手を放すと、ヴィーカの表情もうかがえた。
 目に涙。
 そして、堰を切ったように、ヴィーカはエドアルドの胸の中で泣き出した。
 その姿を見て、エドアルドはふいにシグムントの言葉を思い出す。
『おまえは強くなる』
 初陣の時だったか。
 足を引っ張るばかりだった自分がくやしくて、エドアルドは泣いた。その頭を粗っぽく撫でながら滲んだ視界を開いてくれた、光の英雄。その言葉は、その姿は、エドアルドにとっての光だった。たとえ世界中が否定したとしても、たとえこの世界からその光が消えてしまったとしても、シグムント様は、いつまでも、どこまでも、俺にとっての光の英雄だ。
 エドアルドはカペルを見る。
 姿形は似ていても、中身はまるで違う。
 シグムント様は、カペルのようには笑わない。
 カペルは、シグムント様のように強くない。
 それでもやはり、改めて思う。こいつはどこかシグムント様と似ている。姿形ではなく、強さが、似ている。そして、その強さが、再び俺の闇を取り払ってくれた。
 ドミニカに言われた言葉の意味が、今ならよくわかる。
 シグムント様のような眩しさはない。足下を照らすだけの頼りなげな光だったが、それでもこいつの強さは、光だ。
 ……そうだ。光の英雄は、ここにいる。
「カペル、どうして俺を助けた。殺しても良かったはずだ」
「んー、助ける方法があったんだよ。ヴィーカが見つけてくれてね。だから殺す必要はなかったんだ」
「……」
「仲間でしょ? 助けられるなら助けるよね、うん」
「仲間、か……」
 気の抜けた物言いに、こちらの肩の力も抜けてしまう。シグムント様に比べたら、本当に頼りないし、足りない部分も山ほどある。でも、それはお互い様だろう。頼りないと感じるのなら、それは補ってやればいい。それもお互い様だ。
 これほど迷惑を掛けた自分を、それでも笑って仲間だと言ってくれたこいつとなら。
「じゃあ、ちょっと鎖を斬ってくるよ」
 そう言って、カペルは当たり前のように自分の役割を果たそうとしている。
 役割を、果たす……。
 俺の役割はなんだ?
 それは、光の英雄を助け、月の鎖をすべて斬ること。
 だが、この身体で何が出来る?
 また暴走するかもしれないこの月印を、もう一度使うことが俺に出来るのか?
 自信がなかった。
 時間が欲しかった。
 だから……。
「ちょっと待ってくれ、カペル」
 カペルを呼び止め、エドアルドは言った。
「俺は、しばらく解放軍を離れようと思う」
「なによいきなり。治ったらいきなりわがままエドアルドに戻っちゃうわけ?」
 アーヤの言葉に首を横に振り、エドアルドは続けた。
「違う、そうじゃない……。皆に迷惑を掛けた分は償いたい。俺にやれることといったら戦うことくらいだが……、今は自信がない。この月印を使って、また暴走したらどうする? またみんなに迷惑を掛けることになる。それは出来ない」
「その危険があるのはあんたじだけじゃないわよ。私だってそう。月印を使う者なら誰だって……」
「それでもだ。力を使えば、あの月印に飲み込まれる感覚を思い出してしまう。今の俺には、自信がない」
「エド……」
「月印を使えないんじゃ、それこそ、新月の民と変わらないだろう。役に立てるわけがない」
「あっ……」
 カペルの顔が伏せられたことに気付かぬまま、エドアルドは言葉を継ぐ。
「もしここに新月の民がいたら言うだろう。今は他の連中に任せてあんたは引っ込んでな、って。戦いは、月印の使える連中に任せておけとーー」
 言い終わるよりも早く伸びてきたカペルの手に胸ぐらを掴まれ、エドアルドは次の言葉を遮られる。カペルは震えている。怯えではなく、怒りからだ。何が起こったのかもわからぬまま、エドアルドは呆然とされるがままにされていた。
「お、おい、どうしたんだ、カペル」
「月印がないことが何だって言うんだ……!」
 絞り出すようにそれだけをつぶやき、カペルは掴んでいた胸ぐらを突き放すと、つかつかと月の鎖に向かって歩き出した。
「おい、カペル、どうしーー」
「僕だって、そんなもの持ってない!」
「えっ?」
 カペルが剣を振り抜く。
 それは大地に鎖をつなぎ止めていた楔を両断した。天まで続く月の鎖が光の帯へと姿を変え、すぐに光の雨となって鎖の台地と呼ばれた場所へと舞い降りてくる。
 その中で、力任せに剣を大地に突き刺したカペルが、吐き捨てるように言った。

「僕は、新月の民だ」

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