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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第八章「手を取り合って」_27 

 並んだ牢の鉄格子が、カン、カンと音を立てる。
 中に人の姿はない。
 だがしかし、そこには確かに存在する。
 人の身体を捨てることを余儀なくされた、弱き者たちが。
 水上神殿にある牢獄に、イスケンディバルはいた。かつては人であった者たちの姿を見つめるその瞳には、無人に見える牢獄と、押し殺した感情の残滓だけが映っている。
 踵を返し、イスケンディバルは神殿の上層へと向かった。何十年と昇降を繰り返してきた階段を歩くその足に、拭いきれない違和感がつきまとう。それは骨髄を伝って全身を苛んだが、心の水面を揺らすことはすでに無くなっていた。
 この十年。
 救った者たちの顔も、この手にかけた者たちの顔も、はっきりと覚えていた。鏡面にも似た感情の水面は、それらの顔を容赦なく鮮明に映し出す。
 それを正面から見据え続けた、この十年。
 永遠とも思えるその時間を物語るのは、増えた傷と、白くなった髪と髭。そして、赤く光る縛鎖の月印……。
 上層の一室にたどりつくと、セラフィックゲートへと続く空間の歪みが白銀の光を放って揺れた。ぼろぼろになったサランダとドミトリィがその中から現れ、左腕を失ったニエジェランの姿を見れば、歪みの向こうがどういう場所だったかがよくわかる。
「ふひひ、楽しかったよ。君も来れば良かったのにねぇ、イスケンディバル」
 見た目とは裏腹に充足した笑みをこぼすニエジェランが言った。それを無視し、その後ろから現れた仮面の男に、イスケンディバルは跪く。
「お帰りなさいませ、闇公子様」
 甲冑には傷一つなく、仮面の下の顔には笑みさえ見て取れる。こちらも、ぼろぼろになった封印騎士たちをも一顧だにせず、レオニードはどこか遠くを見つめながら、確かに笑っていた。
 笑っている。
 その笑みには強者の余裕が欠けていた。仮面の下から漏れ出す狂気が以前よりも深度を増しているのに気付き、身体には傷一つなくとも、心に負った傷は深手なのだということをイスケンディバルは理解した。
 光の英雄に汚された誇りが、この男をどう変えるのか……。
「イスケンディバル」
「はっ」
「世の御代にふさわしき新たな人類の姿を、世界に知らしめねばならん」
「リバスネイルの準備は整いつつあります。して、どちらへ」
「……まずは我が母にお見せするとしよう」
 母、という言葉に映る剥き出しの狂気が、心の水面に一つの波紋を呼ぶのをイスケンディバルは感じた。

<完>


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