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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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ソウルイーター(仮) 第一章_01 

 世界は美しい。確かにそうだ。
 見渡せば、仄かに光る植物の群れ。夜だというのに視界を失わないのは、草木からこぼれ落ちている光のおかげだ。発光性の胞子か何かだろうか。雪よりも軽く、五彩色の光をそれぞれにたゆたわせながら、ふわりと揺れる光の塊。それらは木々に寄り添うよう、存在のはかなさを匂わせながら浮いては消え、漂っては灯りを繰り返している。
 視線を空へと向ければ、森の光に負けじと光る星の大海がそこにはある。木々の合間に見える夜空の光は、幾百年、幾千年も昔のものだと誰かが言っていたような気がするが、そんな遠い距離を感じさせない強さ、いや、それだけの時間を旅してきた分の強さを放ちながら、青白い月の周りに彩りを加えている。
 世界は美しい。
 確かにそうなのだ。
 一人旅の寂しさも、そうせざるを得なかった理由も、慰めてくれる世界の美しさがあるからこそ上手く対処できるというもの。
 ……だが、そんな美しさなんて、この際どうでもいい。
 今はとにかく――

「ぎゃあああああああああ!」
 後ろ髪にかかる獣の息と、ガキンと響く歯のかみ合う音。しなやかな筋肉を四メートル近い巨体に凝縮した四本足の獣の気配に押されるようにして、ノエルはひたすら走っていた。
「食べられるううううう!!!」
 死者の森とも呼ばれるこの地に入ったのは二日前。
 目的はクリスタルの鉱床だった。
 世界を支えるエネルギーの源、クリスタルの取れる土地は限られている。この一年、ノエルは人の踏みいらない土地のクリスタルを採取することを生業とし、ふらふらと各地を旅していた。
 この森もそういった土地の一つ。
 地元の人が死者の森と呼んで近づかなかったこの場所は、その名が示すように、もともと宗教的な理由で禁忌とされていた土地らしい。森を照らす仄かな光の粒子が死者の魂のようにも見え、耳が痛くなるような静けさがそれに拍車をかける。宗教的に神聖とされるには十分な土地だということは、入ってみればノエルにも理解できた。
 だがそれも昔の話で、ここ最近、この森が人を遠ざけていた決定的な理由は別のものだ。
 人を喰らう獣たち、マンイーターと呼ばれる赤い眼のモンスターたちが跋扈を始めた。
 生態系に収まっていた動物たちが、ある日突然、姿を変えた。
 神話の中の生き物と思われていた獣に姿が似た変異種もいる。
 姿形は千差万別だが、彼らには共通の特徴があった。
 人間を喰らうこと。
 両眼が焼けるような赤に染まっていること。
 そして、彼らが生息するようになった土地には、クリスタルの鉱床があるということ。
 彼らの生態はいまだ解明されてはいないが、巣か餌場を守るかのように、クリスタルのある場所へ棲み着き、侵入者を排除しようとすることはわかっている。クリスタルを求めて未知の土地へと進出していった人間が彼らの犠牲になった話は枚挙にいとまがない。
 ノエルが聞いた情報も、クリスタルの鉱床がある場所の噂ではなく、マンイーターの目撃情報だった。
 だから、ある程度の覚悟は出来ていたのだが……。
「ああ、もう! 振り切れない!」
 職業柄、ノエルがマンイーターと遭遇するのは初めてではない。というよりも、追われるのは日常茶飯事になりつつある。だが、今まで遭遇したどのマンイーターよりも、このヒョウのようなやつは速かった。闇に溶ける漆黒の身体に詰め込まれたしなやかな筋肉が大地を蹴る。赤い眼が残像を帯びて突っ込んでくる気配を木や岩といった障害物を上手く使って交わし続けてきたが、そろそろこちらの体力の方が限界だ。
 足が重い。
 そう思った瞬間、ノエルは土から頭を出していた木の根に足をすくわれて前につんのめった。その先がちょうど下り坂になっていて、木々の合間をごろごろと転がり落ちる。なんとか体勢を立て直すが、逃げる足を止められてしまった。
 思わず振り返って見上げてみる。下りになっていたせいかマンイーターの足も止まっていたようで、今は視界に敵の姿を捉えることは出来なかったが、これ幸いにと、ノエルはすぐ横にあった大きな岩の陰に身を隠した。
 何とか息を整える。
 だが、息を整えたところで逃げ切れるとは思えなかった。
 マンイーターの咆哮が岩の向こう側に聞こえた。すぐにでも追いつかれる距離なのは変わらない。
「……じゃあ、どうする?」
 独りごちた問いに答えなどなく、ノエルは無意識のうちに腰に差した剣に手をやった。マンイーターを相手にするにはいささか心許ない安物の剣。一人旅のお供としては三代目のそれは、軽くなった財布が出来る最大限の努力のたまものだったが、せいぜい夜盗から身を守ったりする程度のもの。音を立てないように引き抜いては見たものの、頬を伝う冷たい汗を拭う余裕を与えてくれることはなかった。
 落ち葉や枯れ木を踏み抜く獣の足音。もう自分の位置はばれていると思った方がいい。
 剣を両手に構え、腹に映った自分の姿を見つめ返す。つばを一つ飲み込もうとしたが失敗してしまった。
「…………」
 死んじゃうのかな。
 これまで何度も繰り返した疑問。
 それもいい。
 そのたびに繰り返してきた答え。
 死の足音が一歩、また一歩と近づいてきている実感はあるのに、ここで死ぬという実感は湧いてこない。それもいい、なんて思う余裕があるのも、まだ死ぬ時じゃないと身体か心のどこかで感じているのかもしれない。
 鍔を握る手に力を込め、大きく息を吸い込む。
 まだ死ぬ時じゃない。
 腹をくくり、ノエルは岩陰を飛び出して剣を構えた。
「えっ!?」
 直後、強烈な横薙ぎの一撃がノエルの剣を捉え、身体が抗おうとするよりも早く、頼りの刃をノエルの手から奪い去った。跳ね飛ばされた剣が空を切り、近くの大木に突き刺さる。
 剣は敵を攻撃する武器であると同時に、敵の圧力から心を支える防具でもある。どんななまくらであってもだ。
 それがいきなり奪われた。
 赤い眼が素手になったノエルの眼を直接捉える。
 ノエルには、その眼がにやりと笑ったように見えた。
「ちょ、ちょっと待っ――」
 ノエルが言い終わるよりも早く獣は身体を跳躍させ、覆い被さるように飛び込んでくる。
 すくみそうになった足を無理矢理動かし、辛うじて転がってそれから逃れる。
 さらに追撃。
 ぶんと振り回された前脚が頭上を掠める。敵を確認するために反射的に伸ばそうとしていた首を間一髪で引っ込め、瞳の色と同じ栗色の髪を何本か犠牲にしてノエルはさらに転がる。捕まえようとする脚を、咬み千切ろうとする牙をかわすためには、体裁なんて気にしてられない。
 そんなノエルの姿を見たからか、マンイーターの動きの速度が落ちる。ゆっくりと、狩りを楽しむかのようにゆっくりと、次の一撃でその身体を引き裂くための慎重さを合わせながら、じりじりと近づいてくる。
 その間も転がり続けたノエルは、先ほど弾き飛ばされた剣が突き刺さる大木の根元にようやくたどり着いた。ともかく武器がなくては抗うことも出来ない。
「くっ、ぬ、抜けない!」
 だが、大木に深々と突き刺さった剣は、その刃を強靱な繊維に絡め取られていて抜ける気配がない。
 もっと身体を鍛えておくべきだったと後悔したところで遅く、筋肉だるまになった自分の姿を想像してもゲンナリするだけだった。剣は抜けない。
 枯れ木が踏まれて爆ぜて散る。
 もう一つ。
 もう一つ。
 じわじわと近づいてくるその音と、自分を見据えて離さない赤い眼。逃げられないという実感が冷たい汗に変わって背中を伝い、それに伴って身体が硬直する。
「ほ、ほんとに死んじゃうかも……はは」
 ノエルが乾いた笑みを浮かべた直後、獣がそれを見てにやりと笑った気がしたと思ったときには、漆黒の巨体がノエルに躍りかかっていた。
 逃げられない。
 その理解から逃れるように、ノエルは強く目を瞑った。
 その直後だった。

【SoulEater】
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テーマ: 自作小説

ジャンル: 小説・文学

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