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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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ソウルイーター(仮) 第一章_02 

 ドゴッ、と何かがぶつかる鈍い音がし、獣の漏らした小さな悲鳴がノエルにも聞こえた。そして、その後に続いた人間の声。
「下がりなさい!」
 骨太な意志を内包しながら、透き通るように清冽な、女性の声。
 耳を疑った。
 マンイーターに捕食されそうだという状況とは繋がるはずもないその声に、ノエルは瞑っていた目を開けた。そして、その目をも疑うことになる。
 獣の姿はすでになく、そこには声の主である一人の少女が立っていた。
 吹き抜けた一陣の風に腰まで届く艶やかな黒髪を揺らし、飾り気のない純白のワンピースを翻らせる少女。そのワンピースよりも白いのではと思える肌は声と同じように澄みきっていて、少しだけ上気した頬がわずかに赤くなっているのがよくわかる。その立ち姿を風に巻き上げられた五彩色の光が包み込んでいたが、それよりも、どの光よりも強く輝く青い瞳にノエルは目を奪われた。
 その瞳はノエルではなく、離れた場所に転がったマンイーターに向けられていた。
 何故マンイーターがそんな場所に?
 目を瞑ったときに聞こえた音と、目の前に立つ人間の姿を考えれば結論は一つしかないが、華奢な少女の姿とそれが結びつかずにノエルは混乱した。
 その彼女の声が、下がりなさい、と言った。
 それは僕に向けられた言葉だったのか?
 だが彼女の目が捉えているのはマンイーターの方で、ノエルの存在など意識の外のようにも思える。
 彼女の言葉は、マンイーターに向けられている?
「下がりなさい!」
 彼女はもう一度言った。こちらを見るでもなく、その視線は首を振りながら身体を起こしたマンイーターに据えられたまま。
「こんなの食べても、あなたが穢れるだけよ!」
「ちょ、こんなのって」
 こんなの呼ばわりされたことに抗議してみたものの、ようやくこちらに向けられた目に友好的な色はない。敵意さえ感じるその視線は、こちらを一瞥しただけでマンイーターの元へと戻っていったが、あまりに綺麗だったせいか、不思議と嫌な気分はしなかった。
「さあ、下がりなさい!」
 それにしても、彼女は何故マンイーターに語りかけているのだろう。マンイーターが人間の言葉を理解するという話は聞いたことがなかったし、人間の言うことに従うはずもない。飼い慣らせるはずのない、本能のままに人間を喰らい続ける捕食者たち。僕たち人間と相容れる要素などどこにもないはずなのだから。
 彼女の言葉を聞いても、やはりマンイーターが警戒を解くことはない。グルルルルと喉を鳴らし、涎をどろりと垂れさせながら、彼女を睨んで離さない。
「そんなこと言ったって無駄だよ!」
 ノエルは声を荒げてみたが、彼女はそれを無視してマンイーターを見つめ続ける。そのマンイーターがじりじりと近づき始め、体勢を一段と低くした。
 まずい、飛びかかる気だ。
 そう判断したノエルはすぐに身体を起こした。竦んで動かなかったはずの身体が、今は何故かしっかりと動いてくれる。
 直後、人間のそれよりはるかにしなやかな筋肉をバネに変えて、マンイーターが跳躍した。
「え、どうして……」
 少女の堅かった表情が崩れ、わずかな驚きを浮かべるのを見て取ったノエルは、マンイーターのそれに比べたら遙かに鈍重な身体を跳ね上げて、動かない少女に抱きついて転んだ。
 標的を失い、勢いの余ったマンイーターが少女の後ろにあった木々をなぎ倒す。
 ノエルは少女を抱きかかえたまま坂道を転がり落ちる。勢いがつきすぎてなかなか止まれず、だけど彼女に怪我をさせてはいけないと必死だった。
「だ、大丈夫?」
 ようやく止まり、強く抱きかかえていた彼女を見てノエルは言った。
 間近で見た端整な顔立ちに心臓が一つ脈打ち、髪から漂う甘い香りに鼻腔をくすぐられる。
 か、かわいい……。じゃなかった。
 年頃は同じくらいだろうか。って、そんな場合じゃない。
 状況も忘れて思わず見とれてしまっていると、下から少女が覗き込むようにしてこちらを見た。
「放して」
 そう言われてノエルはようやく気づいた。抱きかかえていた右の手のひらに、やたらと柔らかい何かを握っていることに。
 あれだ、あれですよ!
 と、誰に語りかけるでもなくパニック状態の頭の中で叫びながら、ノエルは慌てて彼女を解放する。
「ご、ごめん!」
 解放された少女は、土埃を払いながら立ち上がる。
「どうして……あんなに興奮して……」
「そ、そんなつもりじゃ」
 状況が状況だったけど、女の子の胸をこれでもかと鷲掴みにしたのは事実。役得は役得だし、ラッキーだとか僥倖だとかありがとうございますだとか余計な言葉が乱反射する頭の中で謝罪の言葉を探しながら視線を上げるまで、ノエルはそれが自分に向けられた言葉だと思っていたが、彼女の視線は坂の上に向けられていた。
 マンイーターの咆哮が聞こえた。坂道を転げ落ちたことで見失ってくれたようだが、すぐにこちらに気づいてやってくるだろう。
 逃げなくてはいけない。
 でもどうやって?
 走っても追いつかれる。それに今はこの少女も一緒だ。逃げ切れるのか?
 ……というか、さっきマンイーターから救ってくれたのは彼女だ。マンイーターを何らかの方法で弾き飛ばしたというのは確かなはず。その事実が彼女とどうしても結びつかず、それでも必死に結びつけようと考える。それで上を見据える彼女の顔を見つめてみたが、人形のようなそれを見ても、結びつけるどころか離れていく一方だった。
 その彼女の視線がこちらに向けられる。
 やはりちょっとご立腹のご様子だ。……そりゃそうか。
「ちょっとあんた!」
 腰に手を当て、尻餅をついたままのノエルを見下ろしながら少女は言った。思わず「は、はい!」と返答した声がうわずってしまう。怒られると身を竦ませながら、同時に、少し幼いとも思える少女の声音にそれまでの印象とどこか違うともノエルは感じた。
 だがそんなことよりも、とにかく謝ってなだめてすぐにこの場を離れなければ……。
「あんた、あの子になにしたのよ」
「へっ? な、なにってなにも……。だっていきなり襲われたわけだし、とにかく逃げるのに精一杯で」
「私の言葉が届かないなんて……」
 再び上へと向けられた視線を追わず、ノエルは彼女の横顔を見つめた。そして、その瞳に涙が浮かんでいることに気づく。
 あの涙は……、悔しい、のかな。
 悲しいでも嬉しいでも恥ずかしいでもない。悔しいときに滲む涙。何にかはわからないけれど、彼女は真剣なんだ。そうわかると、ノエルは鷲掴みがどうのこうのと考えている自分が少しだけ恥ずかしくなった。
「あの」
「……これもクリスタルの影響?」
「えっ?」
 クリスタルの影響?
 言葉の意味はわからない。クリスタルとあのマンイーターにどういう関係があるというのだろう。でも、いや、だから、今はとにかく助かることを考えなくては。
 ズサリ、と草木を踏み砕く音が頭上に聞こえ、獣の咆哮がノエルたちの身体に降り注ぐ。
 引きずられて上を向いていた視線を戻し、絡み合ったことを確認してノエルは言った。
「と、とにかく」
 この場に立ち止まるわけにはいかない。
 彼女への興味をひとまず横に置き、それは助かってからまた改めて、とノエルは彼女の手を取ろうと腕を伸ばした。
 引っ張ってでも逃げなくちゃ……。
 だが、そう思って伸ばしたノエルの手は空を掴む。
 拒否された、と思ったのもつかの間、その手は腕ごと彼女に捕まれてしまっていた。
「逃げるわよ!」
 そう言って彼女は走り出す。
 名も知らぬ不思議な少女に引っ張られながら、ノエルは逃亡を再開した。

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