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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第一章 「運命の始まり」_02 

「シグムント様! しっかりしてください!」
 耳朶を刺激する女性の声と、肩を揺する手のぬくもりを感じて、カペルは目を開けた。靄がかかったように茫洋としていた視界が次第に晴れ、そこに同年代と思える女性の顔が像を結ぶ。
「良かった。お気づきになられたようですね。アーヤです。助けに参りました」
 透き通るような青い瞳が丸く見開かれ、こちらに向けられている。その横で、少女の面影を残すふっくらとした頬を撫でるように、長く艶やかな黒髪が揺れていた。それがどこか扇情的で、鼻を刺激する温かい女性の香りもあって、カペルはぼんやりとした意識のうちに言葉を漏らした。
「かわいい……」
「ふぇっ? シッ、シグムント様、しっかりしてください!」

 さらに強く肩を揺すられ、覚醒しかかった意識が撹拌される。
「も、もう大丈夫だから」
 慌てて止めたカペルは、そこで改めて彼女の顔を見た。頬を赤らめているせいか、こちらを見ようとしない。思わず口にしてしまった言葉を思いだし、少し気恥ずかしい気もしたが、その前に、彼女が誰なのかという至極もっともな疑問にぶちあたる。
「あの……」
「さあ参りましょう。シグムント様」
「シグ……ミント様?」
 確か自分を取り押さえた連中もそのようなことを言っていたけど……。
「みんなの足取りはまだわかりませんが、彼らなら無事でいることと思います。まずはここを脱出しないと」
「ちょ、ちょっと待って」
 制止の言葉もむなしく、アーヤと名乗った少女によって、カペルは強引に立ち上がらせられる。
「さあ」
「待ってよ!」
 引かれる腕を振り払い、カペルは思わず大きな声を出した。
「……どうされたんですか?」
「何か勘違いしてない?」
「えっ、シグムント様、どういうことです?」
「だから、それ。僕はシグミント様じゃないよ、うん」
「……はい?」
 状況を飲み込めないのか、彼女が首をかしげる。
 どうやら自分をシグミントなる人物と間違えているらしい。
 暫く考え込んだ後、彼女は小さく頷くと、確かめるように静かに尋ねてきた。
「あなたは、私たち解放軍のリーダー、光の英雄シグムント。先の戦いで敗北の後、解放軍のメンバーは四散して行方がわからない。そんな中、光の英雄が封印軍に捕えられたと街で聞いて、私は助けに来たんです。覚えていらっしゃらないのですか?」
「僕は、フルート吹きの癒しのカペル。街でフルートを吹いていたら、そのシグミント様と間違われたらしくて、捕えられたみたい。よく覚えてるよ」
「……ほんとに違うの?」
「うん」
 訝しげな目でにらむ彼女に、カペルはにへらと笑いを浮かべる。
 しばらくの沈黙の後、彼女は大きく肩を落とした。
「ほんとに違うみたいね……。はぁ、あんな思いまでして来たのに無駄足だったってこと?」
 肩を落としたまま、自問するようにつぶやく。
 当たり前のことだが、ここまで来るのは大変だったようだ。ひどく落胆する姿に、なぜかこちらが悪い気がしてくる。何かしてあげたいのはやまやまだが、自分は囚人の身だ。出来るはずもない。
 そう結論づけたカペルの視線と、顔を上げた彼女の視線が交わる。
「クヨクヨしてらんないわね。あなた、名前は?」
「さっきも言ったんだけど……。フルート吹きの癒しのカペル、聞いたことない?」
「カペルね。私はアーヤ。よろしく」
「……無視ですか、そうですか」
 やはり彼女も自分の通り名を知らないらしい。これで通り名と言っていいものかとカペルは真剣に悩み始めた。
「それじゃ、行きましょ」
「えっ、行くってどこへ?」
「決まってるじゃない。ここを出るのよ」
「嫌だよ。危ないもん。痛いの嫌だし」
「嫌って……ここに残る気なの? 人違いで捕まってたんでしょ。こんなところに残る理由なんてないじゃない」
「人違いだからだよ。何も悪いことしてないからね。いずれ疑いは晴れて――」
 すぐに出られる。脱獄しようとして失敗したほうが何かと面倒なことになる、とカペルは思っていた。
「駄目よ。一緒に来なさい」
「はい?」
「疑いが晴れたからはい終わりです、ってなるわけないじゃない。ここをどこだと思ってるの?」
 理由もわからずにいきなり連れてこられたせいか、実感がなかったのかもしれない。自分は今、封印軍に捕まっている。けれど、捕まえに来た人たちも、さっきの看守も、わりと普通の人だった。だから、それほど緊迫した事態だとは思っていなかったというのが正直なところだったが、彼女が言うようにそれほど甘い連中ではないかもしれない。それさえも実感があるわけではなかったが……。
「それに、このまま置いていったら私の寝覚めが悪いでしょ」
「寝覚めが悪いって……」
「だから、私のために助かりなさい」
「私の……ため?」
「来なさい。いいわね」
「そんなぁ」
 あまりに自分勝手な言いように、カペルは嘆きの言葉を漏らす。
 ただ、その嘆きとは裏腹に、悪い気はしていないのが不思議だった。
 言ってることは無茶苦茶な気もするが、悪意はないように感じる。その率直な言動がいっそ清々しささえ漂わせるのは、青く透き通る瞳と同じ、彼女の純粋さのあらわれだからか。
 それが心地よいと感じている自分を自覚したカペルは、有無を言わせぬ顔の少女に、しおらしくついて行くことにした。

「それでカペル。あなた、武器は使える? 使えるならそれ、借りていきなさい」
 先ほどまで話していた看守が、椅子に座ったまま昏倒している。アーヤがやったらしい。
「武器……って、隠れて脱出するなら、必要ないんじゃない?」
「見つかるかもしれないでしょ!」
「だってアーヤは見つからずに入ってきたんでしょ?」
「そうよ」
「安全な脱出路とか準備してないの?」
「シグムント様と一緒だと思ってたから、帰りは強行突破のつもりだったのよね」
「ええっ!」
「仕方ないでしょ。事前に調査する時間なんてなかったんだから」
 当たり前に安全な脱出経路が用意されているものだと思っていたカペルもカペルだが、アーヤはアーヤでずいぶん無鉄砲な人らしい。
 安易に頷いたことに少し後悔を覚えるのも束の間、もう引き返すわけにもいかないと覚悟したカペルは、言われるままに、昏倒した兵士の腰から剣を抜き取った。
「すいません、お借りします」
「ほんとに使えるの?」
「……一応、一人旅が長いんで」
 剣の扱いは、ほとんどが一人旅で必要となって得たものだ。モンスターや夜盗の類から身を守るくらいなら、といった程度のものだが、剣を使えることに変わりはない。
「そう、じゃ行きましょ」

 角を曲がると、通路を中心にして対称に牢が並ぶ区画に出た。人影はまばらだ。
 カペルのいた牢は、この並びとは別の区画にあった。おそらく、特別な囚人を隔離するためのものだったのだろう。
 捕まっている人たちの中には、老人や女性の姿もある。どれも無気力な目をこちらに向けているだけで、格段の興味を示している様子はない。一緒に連れていけと騒がれるよりは都合が良いのだが、カペルは後ろめたさを感じざるを得なかった。
「あのさ」
「何よ」
「通気口から入ってきたんでしょ。そこからなら見つからずに脱出できるんじゃない?」
 通気口の格子が天井にぶら下がっている。侵入口はどうやらこれらしい。そこを戻れば、見つからずに脱出することもできるんじゃないかとカペルは思った。看守が使っていたテーブルを動かして足場にすれば、届かないわけじゃない。
「足場がいるでしょ。そんなもの残したら、ここから出て行きました、って言ってるようなもんじゃない。中じゃ身動き取れないし、時間もかかるのよね」
「そっか……」
 通気口から出る前に見つかれば、出口で待ち伏せされて終わりだ。それならば、隠れながら通路を進んだ方が柔軟に対応できる、ということか。
「それに……」
「ん?」
「あんなところ、二度と通りたくないのよ」
「狭いところ、嫌いなの?」
「うるさい! 感触、思い出しちゃったじゃない!」
 そう言うとアーヤは平手を振り上げた。思わず身構えたカペルだったが、その手は頬を打つのではなく、カペルの腕に伸ばされ、服の袖を掴むと、そこに執拗にこすりつけられ始めた。
「ちょっ……、なにするの!」
「ゴキブリ触っちゃったの思い出したのよ。拭かないと気持ち悪いでしょ!」
「そんなぁ……」
「思い出させたカペルが悪いの!」
 ひとしきりこすりつけると、戸惑うカペルをよそにアーヤは満足そうな笑顔を浮かべる。
 一人で敵の本拠地に乗り込む無鉄砲さと、それを成し遂げるだけの力がある彼女だったが、こういう年相応の笑顔も持ち合わせている。
 不思議な人だな、とカペルは思った。

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