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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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ソウルイーター(仮) 第一章_05 

「はあ、はあ……どこまで逃げればいいの?」
「もう限界?」
「実はとっくに」
 走りにくい足場に、追われているという心理状況が拍車をかけ、正直、今すぐにでも立ち止まって空を仰ぎたいところだ。フィーアの表情にはまだ余裕がある。男としてはまたまた情けないが、そうも言っていられないと、上下する肩が訴えていた。
「情けないわね」
 そう言いながらも、足を止めたフィーアが大きく息を吐き出す。どうやら彼女も疲れていたようだ。
 幸い、先ほどの攻撃でマンイーターを足止めすることには成功したようで、かなり距離は稼げている。もしかしたら撒けたんじゃないかとも思えたが、人間のそれよりはるかに鋭敏な嗅覚が逃してくれると思うのは楽観的すぎるというものだ。
「逃げ切れる……のかな」
 木に背中を預け、わずかに途切れた緊張の隙間からそんな言葉がこぼれ出す。フィーアの返答はなく、その瞳は後方へと向けられている。腕を引かれる力のせいで気づかないでいたが、彼女は思っていた以上に華奢で小さい。上気した頬に朱が差しているのもあって、改めて見てみるとずいぶん幼く見える。
 笑ったところを見てみたい、と状況をまた考慮しない自分の思考に苦笑しながら、ノエルも彼女の視線を追って後ろを見た。遠くに木の折れる乾いた音が聞こえる。やはりこちらに近づいてきている。
「ノエル」
「ん?」
 呼ばれて振り返ると、彼女もまたツカツカと近づいてくる。なんだか深刻な顔をしていて、ノエルは思わず後じさった。
 フィーアの腕が伸びてくる。
 そ、そんな強引に……!
 と馬鹿を考えていたノエルを無視して、フィーアの手はノエルの胸元に揺れていたクリスタルを捕まえた。
「ノエル、これ大事な物?」
 クリスタルを見つめる彼女の瞳に影が差す。それが気になったものの、ノエルはとりあえず問いに答えた。
「いや、ただの支給品だけど」
「そう……それじゃ」
 しばらく手の中でそれを弄ったフィーアは、意を決したようにそれを引きちぎった。
「あっ、ちょ、ちょっと」
「死にたくないでしょ?」
 有無を言わせぬ視線に抗議を遮られ、思わずこくりと頷いてしまう。
 それを見たフィーアは、引きちぎった革紐ごとクリスタルをその場に捨てた。
「あの岩陰に隠れる。早く」
 ぐいと引っ張られるまま、ノエルは言われるとおりにした。フィーアの力は、クリスタルが後ろ髪を引く力よりも十分に強かった。
「その、クリスタル捨てちゃったけど……」
「すぐにわかる」
 岩陰に隠れ、視線をクリスタルを捨てた場所へと向けたまま、フィーアは答えた。
 クリスタルは、こういうマンイーターに襲われたときに戦うために必要な武器だった。ノエルにとってはお守り程度のものだったが、同業者に限らず、およそ戦闘を生業の一部とする人たちにとってそれは事実で、だからフィーアの行動が理解できなかった。すぐにわかる、と言われても納得できるはずもなく、だからといって助けられっぱなしの自分が何を言えるでもなく、ノエルもまたクリスタルの方へと視線を飛ばす。
「……来た」
 マンイーターの気配。
 木の枝が折れる音に混じって喉を鳴らす低い音が聞こえ、ようやく落ち着き始めた身体に緊張が走る。
「見てなさい」
 耳元で囁かれた言葉にドキリとしながら、ノエルはじっとマンイーターの同行を追った。
 マンイーターの姿が見える。その黒い巨体を揺らしながら、ゆったりと近づいてくる獣の姿に緊張が高まっていくのが感じられる。先ほどまで何度も食べられそうになっていたのだから当たり前だ。
 そんなノエルを探すようにしていたマンイーターが、突然足を止めた。それは先ほどフィーアがクリスタルを捨てた場所で、マンイーターはその周りをぐるぐると警戒するように回り出す。
「あっ」
 そして、マンイーターはそれを食べた。
 ペンダントの革紐ごと口の中に放り込み、噛み砕き、飲み込んだ。
「食べ……た?」
「あの子たちはクリスタルを捕食する」
「本当だったんだ……」
 マンイーターが人を襲って喰らうというのは常識だったが、クリスタルも好んで食べるという話は、あくまで噂程度のものだった。目の当たりにしたみると、それは至極自然なことのようにもノエルには見えた。
「あんなものを身につけて入ってきたら、襲ってくださいって言ってるようなものよ」
「不用意に刺激しちゃったってこと?」
「そういうこと」
 護身用に必要とはいえ、それがマンイーターに襲われる理由にもなる。無くても襲われるなら持っていた方がいいような気もするが、過度に刺激する理由になるのなら、と考えるとどちらがいいかなんてすぐに答えは出せなかった。
「ごめんなさい」
「?」
「いや、刺激しちゃったんだったら僕が悪いのかなー、なんて」
「……ふふ、変なやつ」
 フィーアが少し笑ったような気がした。それに驚いていると、気づいたフィーアがその笑顔ごとぷいと横を向いてしまった。それは照れくさいときの仕草のようにも思えて、ようやく彼女が年相応の女の子に見えたのが嬉しかった。
「少しは時間を稼げたでしょ。音を立てずに逃げるわよ」
「また逃げるの?」
「当たり前でしょ! 食べられたいの!?」
「ちょ、そんな大きい声出したら」
 慌ててフィーアの口を塞ぐ。
「んー!」
 抗議の声を荒げようとしたのもつかの間、自分の不注意に気づいてフィーアはすぐにおとなしくなった。そして、二人はそのままマンイーターの様子をうかがってみる。
「気づかれて……ない?」
 マンイーターはあらぬ方向を向いている。耳をぴんと立て、何か遠くの音か気配を探っているかのようだ。とにかくこちらは動けない。別のものに気を取られているのなら、今は気配を消すことに必死にならなければ。
「……なに?」
 塞いでいたノエルの腕をどけ、その中でフィーアも怪訝な顔を浮かべている。彼女にもわからない何か。それをマンイーターは追っている。
 しばらくだんまりが続く。
 鈴々と鳴く虫の音が妙にはっきり聞こえてきたが、ノエルの耳に聞き分けられるのは、あとは自分とフィーアの押し殺した呼吸音だけだった。
「…………」
 何かに吸い寄せられるように、マンイーターはずっと一点を見つめ続けている。その目に自分もまた吸い寄せられそうになるのを自覚し、ノエルがはっとした瞬間、マンイーターはその場を去っていった。気配を探っていた方向へ、飛ぶように駆けていく。
 離れて気配が途絶えたことを確認し、ノエルとフィーアは身体の力を抜いた。
「助かった……」
 安堵が身体を駆け抜けていくのに身を任せ、ノエルはその場に腰を下ろす。
「フィーア、ありがとう。君がいなかったら食べられてるところだっ……フィーア?」
 すっかり油断しきったノエルとは違い、彼女はまだ緊張を解いていない。また下唇を弄りだしていた。何かを考えているようだ。
「フィーア?」
「……おかしいわよ。いくらクリスタルを食べたといっても、目の前の私たちを見逃すなんて」
「でも助かったわけだし、良かったじゃない」
 まるでノエルの声など聞こえていないように、フィーアはあたりを見回した。そして、そばにあった一番大きな木に歩み寄ると、その太い幹にそっと左手を添える。
 ふわりと柔らかな風が吹いた。
 それは彼女を取り巻く空気の動き。ふわりと持ち上がった空気が森を漂う光の粒子を舞い上がらせ、光は彼女を包み込むように滞留を始める。その光のせいだろうか。彼女自身が光を帯びたようにも見え、まるでこの森の妖精かなにかだとノエルは思った。
 そういえば、彼女はいったい何者なんだろう。
 この危険な森にはおよそ似つかわしくない、華奢な少女。
 それでいてマンイーターの習性を知っていたり、彼らを退けるだけの力を持っていたり……。
 そうだ、あの手から放った光はいったい何だったんだ?
 クリスタルの力と似ているようだけど、根本的に違うようにも思える力。雷のようにも見えた。
 空気の揺れに合わせて静かに踊る黒い髪も光を帯び、艶やかに揺れる。光の粒子を従える美しい少女に見惚れたノエルは、ただ一つ、自分の内ではっきりとしている感触を言葉にして確かめてみた。
「……悪い人ではない、よね」
「!? こいつら……」
 その少女の顔が突然に曇り、取り囲む光の粒子が跳ね上がる。
「なに、何の話?」
「来なさい」
 呼ばれてノエルはフィーアに近づく。
 彼女を取り囲む光をそっとかきわけようとすると「早く!」とどやされ、ノエルは手の届く距離まで近づいた。周りを映したのではなく、彼女自身もまたうっすらと光を帯びているのが、この距離ならわかる。
 そんなところにいちいち見入っているノエルに苛立ったのか、フィーアが乱暴に腕を伸ばしてノエルの胸ぐらを掴んだ。
「ちょ」
 抗議するよりも早くその手は引き寄せられ、フィーアの息のかかる距離にまで顔を近づけさせられる。女の子特有の甘い香りが鼻腔をくすぐり、あまりの強引さにドキリとしたのもつかの間、フィーアがそのまま顔を近づけてくる。思わず目を瞑ったノエルだったが、一瞬期待したこととは違う感触が額にあった瞬間、瞑ったままのはずの目に何かが像を結ぶのを知覚した。

【SoulEater】
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