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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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ソウルイーター(仮) 第一章_07 

 どれくらい走っただろうか。
 走っては立ち止まり、歩いてはまた走り出す。ゴールがどこかもわからずに走るのはなかなかに難しいもので、ましてやゴールで何が起こるかもわからないのなら、ここで全てを出し切るわけにも行かない。
 まだ明けそうも夜空を見上げ、ノエルは荒くなった息を整えていた。
「どこまで行ったのかな」
 走り去ってしまったフィーアのことを思い出す。
 光沢のある黒い髪。澄んだ青い瞳。華奢な身体と、そこからは想像できない、マンイーターを退けるだけの力。少しきつい言葉遣いも妙に通る声のおかげで嫌みではなく、むしろ心地よささえ感じさせる。心地よかったと言えば偶然に、そして幸運にも掴んでしまったお手頃サイズの胸……のことはとりあえず横に置くとして、そんな彼女が不思議な力で見せてくれた外套の騎士たちのことも思い出さざるを得なかった。
 彼女は彼らのことを知っているかのようだった。帝国の連中だということはノエルにも理解できたが、何のためにやってきたどういう部隊なのかまではわからない。わかっているのは、フィーアが呼んだ「アゼル」という人か何かにとって危険なのだということだけだった。そしてそれは彼女にも危険が及んでいるということでもある。
 フィーアの姿に音も立てずに森を走る外套の騎士たちの姿を重ね合わせ、ノエルは肌が泡立つのを感じた。
「うう、怖いなぁ……。逃げたいなぁ……」
 じゃあ逃げればいいじゃないか、と自分でも思わないでもないが、そのたびにフィーアが最後に見せた小さな怯えが頭の中にぶり返し、実行に移す気にはなれなかった。そもそも逃げようにも道に迷っているわけだし。
 そうこうしているうちに息も整い、そろそろ行きますか、と前を向いたその時だった。
 ドン、と大気が揺れる音が前方に聞こえた。
 それが爆発音だと理解したノエルは反射的に腰に手を伸ばした。だが剣はもうそこにはない。ざわりと持ち上がる不安を内奥に確かめてから、ノエルは大地を蹴った。

 それらしい場所はすぐに見つかった。
 苔むし、ツタが這い、ほとんど森に沈んでしまっているようにも見える崩れ落ちた建築物。いつの時代のものかわからないが、神殿かなにかだろうか。森の奧に突如現れたそれに思わず息をのむと、とりあえず入り口を見つけようと、ノエルは壁伝いに歩き始めた。
 爆発音は、建物の奥の方から散発的に聞こえてくる。
 ようやく見つけた入り口には、複数の足跡が見て取れた。やはりここか。
「フィーア……」
 植物の光もなければ月明かりも入り込まない神殿の入り口が、不気味な穴を森の中にうがっている。生唾を一つ飲み下し、ノエルはその闇へと足を踏み入れた。
 エントランスのような空間を抜けて別の通路に出る。外からは暗闇のように見えたが、なかは思っていた以上に視界は良かった。
 壁や柱に刻み込まれたレリーフや文字らしきものが青白く光って浮かび上がっている。あいにく古文書の類を読む知識はなく、きちんと勉強しておけば良かったと思ったところで後の祭りだ。ともかく、今はその内容よりも視界を確保してくれていることの方がありがたいと思いながら、ノエルはその光るレリーフの一つをそっとなぞってみた。
 微妙に明滅している。それは断続的に続く爆発音、というよりももっと生々しい戦闘の音と言った方がいいだろうか、奧から聞こえるそれに呼応して強弱を見せているように見えた。
 神殿という場所に似つかわしい建築と、似つかわしくない戦闘音。崩れ落ちた部分はずいぶん古そうだったが、今起こっている何かによって崩れた部分も少なくなさそうだった。崩落した天井が道を塞いでいる。これはどちらだろうか。
 道を変え、昇ったり降りたりを繰り返す。音の聞こえる方向だけが目印だったが、迷いながらも、それは次第に近づいてくる。
 短い階段を昇った先、真っ直ぐに伸びた通路の向こうに外の明かりが見えた。トラップに注意しながら、ノエルはそこまで一気に駆ける。
 外に出る。
 神殿を出たわけではなく、どうやら中庭のようだった。出口はそれを囲む壁の二階か三階部分にあったらしく、扇形に広がった踊り場から中庭の壁伝いに回廊が伸びて対岸の建物にまで繋がっている。ちょうど長方形の形をしているらしい中庭はかなりの広さで、反対側の長辺にあたる壁にも通路が通っていたが、そちらは半ばで崩れてしまっていた。壁の向こうにはまだ建物が何棟も並んでいて、神殿の全容はまだわからない。
 大きさになかば呆気にとられていたノエルはふらりと出口をくぐった。
 フィーアはまだ奥の方だろうか。
 そもそもこの神殿にいなかったらどうしよう。
 というか、この神殿はいったい何の神殿なんだ。
 そんなことを僕が考えてもわかるわけないか。
 ちょっとおなかが減ってきたな……。
 などと思考が流れていく。
 直後、ノエルの目の前で対岸への通路が爆ぜ、突風と音がノエルの身体を炙った。顔を庇った腕の隙間からなんとか覗き込むと、崩れた通路をもうもうと立ちこめた煙が飲み込んでいくのが見えた瞬間、呆けた思考は全て吹っ飛んでいった。
 ここだ。
 フィーアも、外套の騎士たちも、さっきから続いていた爆発音の正体もすべてここにある。
 そう理解したノエルの目に、思いも寄らぬものが飛び込んでくる。
 立ちこめた煙を突き破って現れた、巨大な銀の体躯。鋼よりも堅い白銀の巨体を両の翼によって浮かび上がらせ、世界を睥睨する威厳に満ちた赤い瞳で眼下を望む。押し広げた顎に月光を浴びた牙がぎらりと光った直後、その中に充満した雷撃の塊がブンと音を立てて吐き出された。
「ド、ドラゴン!?」
 伝説上の獣だ。赤い瞳がマンイーターの眷属だと教えていたが、ノエルもドラゴンタイプのマンイーターを目撃するのは初めてだった。
 吐き出された雷撃が爆発を伴って壁に穴を穿ち、煙がさらに舞い上がる。ドラゴンがはばたかせた翼によって風が吹き荒れ、巨体を持ち上げると同時にその煙を払っていく。その巨体の全てが、爆煙の中から姿を現す。
 さらに目を疑った。
 煙の中からその巨躯をすべてさらけ出したドラゴン。その足に人が捕まっている。
 いや、自ら掴まっているのか?
 汚れてしまってはいるがそれとわかる純白のワンピース。腰まで伸びる黒髪が爆風にあおられ、その顔がはっきりと見えた直後、ドラゴンの下方から人を一人飲み込めるほどの巨大な火球が飛んでくる。
「フィーア!」
 ノエルの叫びはドラゴンを襲った火球の爆ぜる音にかき消された。中空に浮かぶ身体がぐらりと揺れると、下方から今度は極太の鎖が跳ね上がってきた。それはフィーアを掴む方とは逆のドラゴンの足を絡め取り、飛び立とうとする巨体から自由を奪う。
 ノエルは思わず踊り場を駆け、回廊から中庭を覗き込んだ。
 複数の人影。
 赤を差した漆黒の外套を翻らせる人影の中、一際巨体の男が脇に抱えた極太の鎖を引いているのが見え、その腕に輝くクリスタルの光をもノエルは見た。腕を包むように揺れる光の文字列。肉体をクリスタルの力で強化しているにしても、たった一人でドラゴンの力と拮抗する力は、俄には信じがたいものだった。
 その隣にいた男、フィーアが見せた映像の中でリーダー然と振る舞っていた男だ。彼が叫ぶ。
「フィーア、いい加減にしろ。戻ってこい!」
「嫌よ!」
 戦闘のせいか、それともそれ以前の何かのせいか、二人の声には混じる湿り気がある。知り合いなのは間違いないが、わかるのはそこまでだった。
 足を引く鎖をドラゴンの吐き出した雷撃がブツリと切り離す。上空には雲一つない夜空。切り離した勢いを借りてドラゴンとフィーアが空へと舞い上がろうとした。
 はためかせた翼が突風を巻き起こし、階下の騎士たちをなぶる。だが、その中の一人、鎖を引いていた騎士に比べれば子供にしか見えない小柄な騎士が、風をかわしながら一気に壁を垂直に駆け上がっていった。ドラゴンがその巨躯を空へと舞い上がらせるよりも早く壁を登り切った騎士は、外套の中から二振りの小太刀を引き抜き、逆手に構えたままドラゴンの頭上へと跳ね上がる。
 上への動作を遮られたドラゴンはその場で急制動をかけたが、交錯する瞬間、騎士が振り抜いた両の小太刀に翼の一部を抉り飛ばされてしまった。浮力の一部を削り取られたドラゴンがバランスを失い、その巨大な質量が空中でぐらりと揺れた。
「こ、こっちに来る!?」
 その巨体がノエルの視界を埋めていく。思わず頭を抱えてしゃがみ込んだノエルだったが、その頭上ぎりぎりのところでドラゴンは体勢を立て直した。
「ノエル!?」
 巨体のぶつかってくる衝撃の代わりに少女の声が聞こえ、目を開けてみると追いかけてきた青い瞳がそこにはあった。ドラゴンの足に掴まり、驚いているのか、見開かれた目がこちらを凝視する。
「こんなところで何してるのよ!?」
「何って、その……」
 助けに来ました。とはとても言えないレベルの戦いを目の当たりにし、ノエルは口ごもってしまう。
 このバトルに参加しますか?
 馬鹿も休み休みに仰ってください。
 と自分の問いに即答し、そんなことよりこの状況について聞きたいのはこちらの方なのだ、とノエルはフィーアへ向けていた視線を、彼女が掴まるドラゴンへと向けてみた。
 ドラゴンの姿をしているが、ようはマンイーターの一種だ。赤い瞳がそれを証明しているし、なによりマンイーター以外にドラゴンなんているはずがない。じゃあ、そのマンイーターと一緒にいるフィーアはいったい何者? そういえば、僕を襲っていたマンイーターのことを「あの子」と呼んでいた。まる気を許している飼い犬を呼ぶかのように……。
 疑問符を重ね合わせた視線をドラゴンに向けてみる。それを迎えてくれたのは、大きくこちらに開かれた顎と浮かび上がる光の紋様、そしてその中でバリバリと音を立てて爆ぜる雷撃の塊だった。
「ちょ!」
「待って、アゼル。ノエルは敵じゃない!」
 足に抱きつき、ドラゴンを制止するようにフィーアが叫んだ。アゼルと呼ばれたドラゴンの口から雷撃が消えていく。
 アゼル?
 外套の騎士たちの姿を見た直後に彼女が叫んだ名前。それはこのドラゴンの名前ってこと?
 その答えを聞こうとした矢先、ノエルの目の前からフィーアの姿が消えた。
 ジャラリと鈍い音を立てながらまた伸びてきた巨大な鎖がアゼルの身体を捉えたのだ。翼の一部を失ったアゼルが力負けし、グンと下へと引っ張られる。
「フィーア!」
 フィーアとアゼルの姿を追いかけ、ノエルは下を覗き込んだ。
 アゼルは必死で抗っていて、その下に外套の騎士たちが見える。その中の一人、また別の外套の騎士が背中から弓を取り出そうとしていた。身長とさして変わらぬ巨大な弓。それを構えた騎士の手に、クリスタルの光が宿る。
 光は弓につがえられた矢の形へと収斂する。弓の大きさから考えてそれは矢と言うよりも槍に近い。
「やめろ、フィーアにあたる」
 だが、その矢が放たれるよりも前に、リーダーらしき男が騎士を制した。騎士は男をじろりと睨んだが、不服そうにしながらも武器を納めた。
 統制が取れているようで取れていない。
 そんな風にノエルが感じた直後、弓の騎士の後ろ、武器を持たない外套の騎士が両手にクリスタルの光を宿していることにノエルは気づいた。その光は騎士の目の前で瞬時に魔法陣へと姿を変え、そこから無数の火球が吐き出される。
 すさまじい爆発が身体のあちこちで咲き乱れ、鎖の力に抗しきれなくなったアゼルがバランスを崩す。均衡を失った反動でアゼルの巨体が激しくぶれた。
「きゃあああ!」
「フィーア!」
 騎士たちとドラゴン。そしてアゼルの足から放り出されたフィーアの姿を見たノエルの身体は、考えるよりも早くその場から飛び出していた。
 回廊から空中へ。
 ついさっき、自分を助けてくれた少女に向かって。
 落下の浮遊感が全身を襲い、それでもフィーアに向けて手を伸ばす。遅ればせながらやってきた恐怖に悲鳴を上げる胸中を無視し、とにかく、フィーアの所に……。
「ノエル!」
 気づいたフィーアがこちらへと手を伸ばしてくる。
 アゼルからそれた火球の一つがノエルの後方で爆ぜ、爆風が二人の距離を縮めてくれた。
 指先に確かな熱を感じ、夢中でそれをたぐり寄せる。掴まえた手を一気に引き寄せ、ノエルはフィーアの身体を包み込むように抱きしめた。
「……馬鹿」
 胸の中に聞こえた声を反芻し、確かに馬鹿をやっている、と何も反論できないことを自覚する。
 飛び込んだは良いけど、どうしよう。後先考えない行動が身を危険にさらしていることを理解しつつも、後先考えずに行動するなんていつ以来だろう、という思いが脳裏をよぎり、どちらかというと苦笑を浮かべたい気分だった。
 とにかく、飛び込んだからにはフィーアに怪我をさせるわけにはいかない。
 強くフィーアを抱きしめてみたものの、地面は容赦なく近づいてくる。
 激突する。そう思った。
 直後、吹き上げるような突風が身体を包み込むのをノエルは感じた。
 そのまま吹き飛ばされる中、視界にアゼルの姿を捉える。鎖を引きちぎり、傷だらけの翼をはためかせるドラゴン。突風が落下の勢いを減殺し、代わりに横へと流された身体が宙を舞う。
 手入れされてない芝生を転がり、石畳を転がり、ノエルとフィーアはなんとか中庭に降り立った。大きな怪我はない。
「っててて。フィーア、大丈夫?」
「大丈夫、じゃないわよ、馬鹿! 危ないから森を出なさいって言ったでしょ!」
「ご、ごめん」
 怒りながら涙を浮かべるその剣幕に圧倒され、ノエルは思わず謝ってしまった。中庭の中央、何かの文字が彫り込まれた石畳も、滑り止めにもならずにノエルは後じさるしかない。
「……何者だ」
 背中から声が聞こえ、ノエルは振り返った。外套の騎士の一人、リーダーと思しき男がこちらへと近づいてくる。
「え、ええっと、その」
「ノエル、下がって」
 言い淀むノエルの前に出、押し広げた手を騎士に向けてフィーアが言う。
「……フィーア、いい加減にしろ」
「フリッツ……。あんなところにはもう戻らないって言ってるでしょ!」
 やはり知り合いなのだ。フリッツと名を呼ぶフィーアの声に自分の知らない色を感じ、ノエルは思わずドキリとしてしまう。いや、そもそも名前以外は何も知らないのだから、ドキリとする必要なんてないのだけれど。いやいや、じゃあそんな名前しか知らない彼女を追いかけて、僕はなんでこんなところにいるのだろうか。
 ようやくの疑問にノエルが気づいた直後、それを遮る次の変化が足下から始まった。
 先ほどから踏みしめている石畳。そこに刻まれた文字やレリーフの数々が、何に反応したのか、神殿の中と同じように青白く明滅を始めた。それは次第に速度と輝度を増し、月明かりのある外のはずが、内部のそれよりも明るく感じられるようになった瞬間、吐き出された光がその一角を半球状に包み込んだ。
「なに、なんなの?」
 何が起こったのかはフィーアにもわからないらしく、近づいてきていた騎士もまた同様らしい。当然ノエルにもわからないが、足下に走った感触ははっきりと感じられた。
 崩れる――。
 その感触は時を置かずに現実となり、ノエルとフィーアの足下の石畳がぐらりと揺れた。波打つ間もなく崩れ始めた石畳の下に巨大な空洞が姿を現す。その時にはすでに、二人は地下に広がる空中へと身を投じることになっていた。

【SoulEater】
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ジャンル: 小説・文学

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