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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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ソウルイーター(仮) 第一章_08 

 さらさらと水の流れる音が鼓膜をくすぐり、ノエルは失っていた意識を取り戻し始めた。
「……痛っ」
 起き上がろうとして身体を支えた左肩に痛みが走り、思わず触れた右手が赤く濡れる。元々ボロだった服もここまでになれば立派なものだ。裂けた布に血が滲み、泥に汚れた傷口が見えている。傷口は深くない。地面でこすったにしては綺麗なもので、ノエルは腰の鞄が無事なのを確かめると、そこから飲み水の入った筒を取り出して傷を洗った。
「くっ、し、染みる……」
 悲鳴を上げながらなけなしの傷薬を塗り込み終えると、筒を鞄に突っ込みながら立ち上がり、ノエルは周囲を確かめてみた。
 ずいぶん広い空洞の中にいるらしい。天井は見上げられても手の届くような距離ではなく、落ちてきたはずなのに穴らしい穴も見あたらない。転がって別の場所までやってきたのか、それとも塞がってしまったのか。
「ま、穴が見つかっても登れるとは思えないけどさ」
 ふーふーと肩の傷に息を吹きかけていると、抜け落ちた石畳のいくつかが周囲に散乱していることにノエルは気づいた。砕けてしまって意味をなさなくなったせいか、刻まれたレリーフはすでに光を失っている。崩壊の規模に比してその数はずいぶん少ない。あの時はいきなりのことで多少パニックになっていたけれど、自分で思っているよりも大きな事態じゃなかったのだろうか。
「……あれ、そういえば」
 天井に穴はなく、月光は届かない。レリーフは機能を失い、もはや光ることはない。にもかかわらず、自分は周囲を確認することができている。その不思議にようやく気づいたノエルは、その理由をすぐに理解した。
 層をなす岩壁の一部、天井、足下にもある、青白い光を帯びた透明の鉱物。神殿に刻まれたレリーフの光と似ているようで、もっと素朴で力強い光を帯びたそれの塊がいくつも見て取れる。
「これって……全部クリスタルなのかな」
 ともかく近づいて手に取ってみる。やはりクリスタルだ。まだ加工されていないはずの原石なのに、マンイーターに食べられたノエルのそれにも引けを取らない美しさ。剣を抜き、地面から突き出した部分から砕いて手に取ってみる。ずしりと重い、こぶし大のクリスタルの原石だ。
 そういえばクリスタルの鉱床を探して森に入ったんだっけか……。
 この数時間の密度に圧倒され、本分を忘れそうになっていたことに苦笑したのもつかのま、その数時間の主役だった少女の姿がないことに気づいたノエルは、あらためて周囲を確かめてみる。彼女の姿はない。だけど、自分が助かったのだから彼女が助かっていない道理はないと、心は妙に平静だった。
 地下水の流れる音を再び見つけ、ノエルはそのせせらぎで原石を洗い清めてから鞄の中に突っ込んだ。見渡す限り、この空間から進めそうな道は一つしかなく、ノエルは一つ大きく息を吐き出すと、せせらぎに沿ってその道を進んだ。
 ぽっかりと壁面に空いた穴。
 ひと二人が並んでやっとの通路のような空間にもクリスタルの原石は散在している。この穴がアリの巣のようになっているのなら迷える自信があるノエルだったが、ありがたいことに通路は一本道だった。
「出口、あるのかなぁ」
 道が一本だったことがせめてもの救いだ。分かれ道でどちらに行こうかと悩む必要もなく、この道が出口に繋がっていないのならもはや諦めるしかない。やることはシンプルな方が良い。
 それにしても、成り行きとはいえこんなところに来ることになろうとは……。
 目的のものを見つけたわけだから結果として良かったともいえるが、帝国の騎士たちと対峙する羽目になったのは計算外だった。計算外といえば、あのドラゴンもそう。らしくもなく頑張りすぎたところを助けてもらったわけだが、人を喰らうこと以外に意志を持たないはずのマンイーターが、フィーアを助けようという意志の元で動いていたのは明確だった。本能ではなく、知性を持って動くマンイーター。そのマンイーターとともに行動する少女ともども、それらは新たな発見だった。
 通路は右へ左へとうねりながらも奧へと続く。
 この先は出口なのか。
 フィーアはそっちにいるのだろうか。
 別のマンイーターが現れて襲われたりしないだろうか。
 そういえばクリスタルがそこらにあるのがこの洞窟だ。マンイーターがいたとしてもおかしくは――
「……ん?」
 地下水の流れと自分の足音以外には何もなかった空間に、奥の方から別の音が混じってくる。
 歌声だ。
 クリスタルのそれを思わせる澄みきった色の声音が、知らないけれどどこか懐かしい、素朴な旋律を歌っている。通路を照らすクリスタルがそれに合わせて光を揺らしているように見えるのは気のせいだろうが、心を落ち着かせるその声は聴いたことがある。
 歌声に導かれるように、ノエルは道を進んだ。
 そして開けた場所に出る。
 ノエルは息をのんだ。
 視界いっぱいのクリスタルの園が、目の前にあった。鉱床と言うにはあまりにも鮮やかで、それは、……そう、花園だ。クリスタルが咲き乱れる、地下の空洞に広がった光の花園。小さなクリスタルの塊が敷き詰められた半球状の空間がそこにはあった。
 そんな花園を見るのも初めてなら、花園の中央に浮かぶクリスタルもなかなかお目にかかれるものではない。人間一人を取り込めそうなほどの巨大なクリスタル。一際大きく輝くそれは、まさに花園の主のように鎮座している。
 地下とは思えぬ明るさに圧倒され、入り口にかけた手をなかなか離せないでいたノエルは、再び聞こえた歌声に意識を引き戻され、巨大なクリスタルに手をついて歌う少女の姿を見つけた。
「……フィーア」
 清冽な光を帯び、空洞に響く歌声。揺れる空気に合わせて光も踊り、優しげに歌う彼女の姿を照らし出す。
 邪魔をしてはいけない。したくない。
 手を放し、吸い込まれるように花園に足を踏み入れた瞬間に感じた言葉を胸の内で反芻し、ノエルはその場にて、フィーアの姿を目で、耳で追いかけた。
 歌声が心に触れてくる。
 その声音も、歌う姿も、このクリスタルの花園があまりにも似合いすぎて、まるで人のそれじゃないみたいだとノエルは感じた。一人旅のさなか、月を見上げた夜のことを思い出す。手の届かぬものに焦がれ、届かぬとわかっていても手を伸ばしてしまったあの夜の気持ち。それに似ている。
 人とは思えぬ美しさに、白銀のドラゴンの姿が重なって見えた。
「ん……ノエル?」
 そんなノエルの姿に気づいたフィーアが歌をやめる。名残惜しい気持ちを押し隠して、ノエルはフィーアのいる中央のクリスタルに近づいた。
「フィーア、無事だったんだね」
「ノエルこそ」
「それよりさ、ここって……」
「私も知らなかったわ」
 花園を見回す彼女の瞳にクリスタルの光が揺れ、ノエルもつられて周りを見る。
「こんなところ、あったのね」
「うん」
 死者の森の地下に咲く、クリスタルの花園。マンイーターたちがこれを守ろうとしていたのならと考えると、けして人の触れていいものではないようにも思えてくる。そんな場所に捧げられたフィーアの歌は、死者の魂に捧げられた鎮魂歌と言ったところか。
「フィーア、さっきの歌ってさ」
「盗み聞き?」
 ぐいとこちらを覗き込んできた顔に子供じみたいたずらな気分が見て取れ、彼女もこんな顔をする普通の女の子なんだと理解する。妖精のような清浄さと、人間らしさ。二つの顔が覗き込んできた顔に重なり、ノエルは「ご、ごめん」と謝ってしまう。
「またすぐに謝る」と無邪気に笑いながら、フィーアは言った。
「友達がね、好きだった歌なの」
「綺麗な曲だね」
「そう、綺麗な曲」
 少し寂しげで、少し誇らしげな声。
 それ以上は言うつもりもないらしく、でも、それ以上に伝わる何かを感じながら、ノエルはそっと浮かぶクリスタルに手を当てた。
 わずかの沈黙の間にも、光はぽろぽろとこぼれだす。
「そういえば……、ええっと、何から聞こうかな」
「助けてもらったし、答えられることなら答えてあげるわよ」
「じゃあスリーサイズを」
「…………このタイミングで、ふつうそういうこと聞く?」
「冗談です、ごめんなさい」
 場を和まそうとしたが失敗したようだった。フィーアはぷーっと頬を膨らませている。緊張が解けているのか、今までのお怒りのご様子とはまた違った、幼くも見える怒り方。気分を素直にさせているのは、優しげなクリスタルの光のおかげだろうか。
「あのドラゴンが、アゼルさん?」
「そう、アゼル。……マンイーターよ」
「ともだち?」
「とも……ふふ、やっぱり変なやつ」
「ん?」
「そーよ。ともだち。ずっと一緒に旅してきたの。帝国の連中に追われながらね」
 帝国の連中。
 先ほどの戦闘で外套の騎士たちが見せた力を思い出し、そんな連中に追われ続けているのかと思うと背筋が凍る思いだった。
 フィーアたちが追われなければならない理由とはなんなんだ?
 ドラゴンのマンイーターと、それと行動をともにする少女。
 ……追う理由はありそうだが。
「あ、そうだ。アゼルさんは!?」
 戦闘の途中だったことを思い出し、ノエルは慌ててフィーアに問いかけた。
「大丈夫。生きてる。感じるの」
 胸に手を当て、遠くの何かを感じるように言うフィーアの声は落ち着いている。信じてもいいと思えるだけの力強さが、その声にはあった。
「そう、良かった」
「うん」
 自分も無事で、フィーアも無事。助けてくれたドラゴンも無事だった。焦る必要は何もなく、目の前には見たこともない美しい光景が広がっている。
 あとは出口さえ見つけられれば。
 そう思った矢先、背後でパリンとクリスタルを踏み砕く音が響き、ノエルは反射的に後ろを振り返った。
「フィーア・エシル。逃亡劇もここまでだ」

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