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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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ソウルイーター(仮) 第一章_09 

 アクセントの赤が血にも見える漆黒の外套。同じ黒の刃を持った細身の刀がこちらに向けられていて、花園の美しさを汚すものだ、とノエルはわずかに怒りを感じた。
「フリッツ……」
 そうだ、フリッツと呼ばれていた、漆黒の外套をまとった者たちのリーダーらしき男。フィーアとアゼルを追いかけていた、敵。
 フィーアの声、そして瞳がわずかに揺れたのを聞き取ったノエルは、反射的に二人の間に割って入っていた。
 武器がない。どうする。
「何者かは知らんが、ナイトのつもりなら止めておけ」
「女の子を泣かせるやつは悪いやつ、って昔から言いませんか?」
 精一杯強がってみたものの、頬を伝う汗が冷たい。武器があったとしても勝てる相手でないことくらいは、身体の方はわかっているようだった。
「ノエル、大丈夫」
 割って入っていた右腕にフィーアの手がそっと触れる。
「でも」
「大丈夫だから」
 やはり瞳は震えている。それを押しとどめ、ノエルの前に入ったフィーアが視線を外套の男に振り向けた。
「フリッツ。私はもう戻らない。そう言ったでしょ?」
「……そのクリスタルもおまえがやったのか?」
 フィーアの問いに答えるでもなく、横に浮かぶ巨大なクリスタルを見ながら男、フリッツは言った。
 おまえがやった?
 クリスタルを?
 なんの話だ……。
「違うわ。これはもともとここにあったもの。私じゃない」
「自然発生したヒュージ・クリスタルか。そういうものもあるのだな」
 感心するような言い方をしながら、フリッツの顔に表情はない。外套と同じ漆黒の瞳が底のない穴のようにも見え、ノエルは薄ら寒いものを感じた。
 直後、フィーアが動いた。
 相手に向けられた手のひらに光が集まり、何かが弾けるような音が聞こえた。
 ブンと音を立てて空気が揺れる。マンイーターを追い払ったときのあの力。
 アゼルと同じ、雷撃の力。
 閃光がクリスタルの直上をひた走り、動かない漆黒の外套を捉えた。
 外套が閃光に貫かれる。
 そうノエルが思った直後、フィーアの腕と同じ太さのその閃光は糸くずのように小さな粒子へと姿を変えた。雷撃を、漆黒の外套が弾き返したのだ。
「おまえたちの力がどういうものか。それはすでに研究済みだ」
 霧散した雷撃は外套に傷一つつけることなく、空気を炙って風を作るのみだ。
 その風がフリッツの外套を翻らせる。
 胸に光るクリスタルが見えた。
 そのクリスタルは赤く光っていた。周りのクリスタルとは全く違う、鮮血にも似た鮮やかな赤。マンイーターの目を思い出させる、死の色。
「赤いクリスタル……」
「諦めろ、フィーア。力を封じる術はすでにある。この力がある限り、おまえは無力だ。だから帰ってこい。おまえは俺が守る」
「嫌だって言ってるでしょ! 鳥籠にはもう戻らない。私はもう一人でだって生きていける!」
「アゼルというお守りがいなくては飛べない鳥だ。違うか?」
「くっ……」
 言い返せず、言葉に詰まるフィーアに、フリッツが続ける。
「アゼルももう長くはない。人を喰らわぬマンイーターが肉体を維持できると思っているのか?」
「それは……」
「眠らせてやれ。おまえは俺が守る。そうハンナにも誓った」
「……男の勝手な理屈でしょ!」
「…………わかった。もういい。おまえが従わぬと言うのなら力尽くで連れて帰るだけだ」
 革紐にぶら下がった赤いクリスタルを引きちぎりながら、フリッツがフィーアに近づいていく。フィーアはそこから一歩も動けず、悔しそうに睨み返すだけだ。
 ダメだ。
 このままだと、フィーアが連れて行かれる。
 事情も何も出来ないまま、話の蚊帳の外のまま、せっかく追いかけてきたのに終わるのか?
 でも武器がない。クリスタルもマンイーターに食べられてしまった。
 このままじゃ……。
「ん……クリスタル?」
 クリスタルなら、ある。
 花園にも見える大量のクリスタル。その中央には見たこともないような巨大なクリスタルも存在する。こいつを起動できれば、なんとかなるんじゃないか?
「起動できるかってのが問題だけど」
「ノエル?」
「フィーア、諦めるのはまだ早いみたいだよ」
 ノエルはフィーアを下がらせ、クリスタルに手をついたまま二人の間に入った。
「何をするつもりだ?」フリッツが言う。
「抵抗」
 強がって笑ってみせても、心の内はいつもと同じ。クリスタルを使うときはいつもそうだ。
 お願いだから、上手くいって……。
 起動を促す。
 巨大なクリスタルが光を帯びる。ここまではいつだって成功したんだ。問題はここから。
「止めろ!」
 フリッツが遮ろうと飛び込んでくる。それよりも早く記述を――
 そのノエルの思いは、光の中に飲み込まれた。
「な、なんだ!?」
 起動したクリスタルの光に呼応して、花園全てのクリスタルが光を帯びる。それは地下の空洞を貫く巨大な光の柱へと姿を変え、ノエルを、フィーアを、フリッツを飲み込んだ。光はそのまま岩盤を貫き、天へと昇る。
 視界が真っ白に焼ける。
 鼓膜が振動を拒否する。
 五感を次々と断ち切られる感触。宙に浮いたようにさえ感じるその中で、ノエルは確かにそれを見た。聞いた。

 嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。
 熱い。苦しい。痛い。熱い。苦しい。痛い。痛い。
 嫌だ。熱い。苦しい。嫌だ。嫌だ。
 死ぬのは、嫌だ。

 苦悶を浮かべるいくつもの顔と声。胸の奥に走った焼くような痛みが凍り付き、また焼き焦がされて砕かれる感触に、ノエルは声にならない声を上げた。
 それが何か、受け入れたくはないが理解は出来た。感触が、理解させた。
 それは死の間際。死を拒絶する人たちの、悲痛な叫び。
 無に帰す人々の感触を、つかの間ノエルは共有した。

「ノエル!」
 それを遮る声が耳朶を打ち、握られた手に熱を感じる。無数の人々に溶け込みそうだったノエルという個がその熱によって切り取られ、唐突に失いそうになった自我が一気に収束する。
「フィーア」
「ノエル、教えてあげる」
 それは、マンイーターの襲撃に遮られた言葉の続きだった。
「見たでしょ、ノエル。あれは死の間際の記憶。クリスタルとなった死者の魂に刻み込まれた、最期の記憶よ」
「クリスタルが……死者の魂……」
「そう、だからあれは――」
 戻った聴覚に心地良かったフィーアの声を、ずしんと響くいくつもの音が遮る。それは光の柱に貫かれた岩盤が崩れ、落ちてくる音だった。
 空が見える。
 光の柱が穿った穴が地上と地下をつないでいる。星の光は周囲のそれに相殺されて見えなかったが、確かにそれは夜空だった。
 丸く切り取られた夜空。埋め尽くす光は昼のそれよりも明るく、だからその穴に浮かんだシルエットは、ノエルの目でも見間違いようがなかった。
 鋭利な爪も鈍く光っていた牙もまだ識別できないが、めいっぱい開かれた巨大な翼ははっきりとわかる。そのシルエットが真下を向き、どんどんと大きくなっていくのをノエルは見た。
「アゼル!」
 フィーアの声が響く。
 光を突き破って降りてきたドラゴンは、彼女の横に着地をすると、いきなりクリスタルに噛みついた。牙が突き立ち、輝くクリスタルがバリバリと音を立ててひびを拡げていく。
 アゼルは食いちぎるようにして頭を振り上げた。クリスタルを喰らい、放たれる光を喰らい、赤い眼を浮かび上がらせながら、全身をねじる。
 中央をもぎ取られたクリスタルはすでに徐々に光を失い始め、決定的な亀裂が縦横に走ると、ばらばらと音を立てて崩れ落ちた。
 浮遊感は消え失せ、ノエルはその場に崩れ落ちる。それは同じ映像を見ていたのか、フリッツも同じだった。
「くそ……!」
 震える身体を抱き寄せるフリッツを見、もしフィーアの手が自分に触れていなかったら、と想像すると、ノエルは絶句するしかなかった。
 クリスタルが、死者の魂?
 じゃあ、死んだ人の魂を使って僕らは生活しているということ?
 そんな馬鹿な……。
 ぐらりと揺れる身体を必死で支える。地面についた手に砕けたクリスタルが触れ、先ほどの無数の声が脳裏をよぎる。
 そんな……。
 そんなことが……。
「待って、アゼル!」
 再び沈みそうになった内奥に響く、よく通る声。
 自分を引き戻してくれた声と熱の持ち主を見つけるため、ノエルは視線を上げた。
 ドラゴンの足に掴まった少女の姿。
 飛び立とうとするドラゴンを引き留め、その手をこちらへと伸ばしている。
「ノエル、早く!」
「ま、待て……!」
 横から聞こえたフリッツの声。刀を支えに立ち上がろうとする彼を見、とにかく今は考えるよりも動かなくてはならないと頭が理解する。それについてこない身体に鞭を打ち、ノエルはフィーアの手に掴まった。
「待て、フィーア!」
 そのフリッツの声は、足下から聞こえてきた。
 ぶんと羽ばたかれた翼がノエルとフィーアともどもその巨躯を一気に持ち上げる。天井に穿たれた穴へ飛び込むころには、フリッツの叫びも聞こえなくなっていた。

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