03« 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.»05

ふであと

  : 

徒然なるままに、もの書き。

スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
スポンサー広告  /  tb: --  /  cm: --  /  △top

第九章 「追憶」_01 

 後ろで薪が爆ぜたのが、音でわかった。
 外は雪。
 風のないケルンテンの街に降り続ける白い結晶は、その舞う速度と同じように、ゆっくり、ゆっくりとこの世界を芯から凍てつかせていく。音は雪に溶けたのか、二重になった窓の向こう側は妙に静かだ。それはこの街の肌を刺すような空気を思い出させるに十分だったが、今は厚い壁と暖炉の火が、その寒さからカペルたちを守っていた。
「……ふむ、なるほどな」
 鎖の台地での戦いを終え、とりあえずと宿に戻る。混乱の余韻が街全体に残ってはいたものの、ケルンテンに満ちる冷気が、すでにそれをぬぐい去りつつあった。
 エドアルドが壊してしまった部屋はもう使えなかったので別の部屋に案内された。主人はケルンテンで暴れた漆黒の騎士がエドアルドだとは思っていないようだったので、ユージンさんは部屋の修繕費分のいろをつけて宿代を支払い、彼のことは黙っていた。心苦しい気分はあったが、ひとまずは、と言うことで。
 だが、それでは済まないこともある。カペルにはやらなければならないことがあった。
 月の鎖を斬るどさくさに告白してしまった、自分の素性。
 新月の民であるという事実。それは思いのほかすんなりと受け入れられて、今までの杞憂は多少卑屈になっていたのかもしれないとも思えたのだが、積み重なって固まった心の澱がすべて拭われるはずもない。ただ、それもいつかは消し去ることが出来るかもしれない。そうも思えることでも進歩だと今は思える。
 だが、それでも嘘は積み重なっていた。どこかに綻びが生じれば、積み重なったそれらは、連鎖するように告白するしかなくなってしまう。
 光の英雄シグムントの最期。
 彼の幼なじみであるトウマに、話さないわけにはいかなかった。
「薄々は……薄々は気づいていたのだ。わからないはずはなかろう。あの者とは幼き頃よりの友。だが、認めたくなかったのかもしれぬ……覚悟はしていたつもりだったのだが」
 伏し目がちに言ったトウマが顔を上げる。まだ幼さを感じさせる輪郭とは逆の、深みのある金色の瞳が銀髪の向こうからカペルを見つめていた。心配とは裏腹に、そこには怒りや戸惑いよりも色濃く、ただ悲しみだけが暖炉の火と一緒に揺れている。やり場のない感情を散らすように、トウマはいつも頭につけているお面にそっと手を伸ばした。
「……」
 手に持った面を撫でながら、トウマは言った。
「それに、カペル、そなたの傍にはユージンがいた。ユージンが何も言わぬのは何かしらの理由があってのことだろうと思った。だから何も言わなかった。それも……恐れていたのやもしれぬな」
 後ろめたい気持ちもあったのだろうか。カペルの隣で、ユージンが「トウマ……」と呟いた。
「そうか、あいつがな……。はは、殺しても死なぬような顔をしておいて、真っ先に逝くか。あいつはいつも先頭を行く……」
 責めるような口調でシグムントを悼むその姿に、かけられる言葉などない。代わりに生かされた自分、という立場を再確認し、シグムントの大きな背中を思い出すと、自責の念がため息を漏らす場所さえ押し潰してしまう。
 こちらの内心を見透かしてか、トウマは軽く笑いながら言ってくれた。
「そう堅くならずとも良い。しかし、あのシグムントが自分の役割を他人に託すとはな……。その容姿といい、あの鎖を斬れることといい、そなた、いったい何者だ?」
「ただのフルート吹きですよ」
 冗談めかして答えたカペルににこりと答えるトウマ。年下ではあるが身分的には格上。話し方や雰囲気にも相応の貫禄があり、何より相手はハイネイル、目上の人という無意識の理解と見た目のギャップが、何となく痒くもあった。
「やはり違うな、そなたとシグムントでは」
 その一言で少しばかり重かった部屋の空気もいくらか楽になり、カペルも、隣にいたユージンも一つ息をつくことが出来た。それに合わせたように薪がまた爆ぜ、部屋の温度を少し上げる。
「その、シグムント様のことなんだが」
 壁にもたれかかり、カペルとトウマの話を聞いていたエドアルドが言った。
「思い出したことがある。ヴェスプレームの塔から離脱する前に、封印騎士は言っていた。レオニードを『すぐに救いに行かねば』とな」
「えっ?」
「カペル、お前は言っていたな。シグムント様は何か別の世界に引き込まれるようにして消えた、と」
「うん」
「ならこう考えられないか? シグムント様はその別の世界で今も生きている。レオニードもな。そして、封印騎士の連中はそこがどこなのかを知っている」
「じゃあシグムント様を救うこともできるっていうこと!?」
 アーヤが言った。暖炉の火を移した青い瞳には混乱と期待が見て取れる。だがそれは、メガネを指で押し戻しながら言ったユージンの一言に消えてしまった。
「だけど、僕たちは知らない。それがどこなのか。どうやって行くのか」
「それは」
「助けに行くことはできない。助けに行くわけにもね。今は月の雨とリバスネイルの問題もある。月の雨と鎖に関連があるのなら、僕らは一刻も早くその鎖を断ち切らねばならないんだ」
「ユージンさん……」
「今はあいつが生きているかもしれないという希望だけで十分さ。それに……、戻ってきたときには、この戦いも終わっていたほうがいい」
 ユージンがミルシェを見遣る。それでカペルは思い出した。シグムントが吐血していたことを。その病の手は、命に届く。
 風が強く吹いたのか、二重になった窓がぶるりと震える。一同が一瞬沈黙したのもつかの間、それを払うようにトウマが言った。
「しかし新月の民であることまで同じとは、不思議なものだな」
 その一言に「へっ?」と間の抜けた声を出したのはカペル、「えっ?」と口を押さえたのはアーヤだ。
「ん、知らなかったのか? シグムントもまた、そなたと同じ新月の民だったのだ」
「……ええっと、ユージンさん?」
「言ってなかったっけ?」
「聞いてませんよ! ってあれ? シグムントさん、ブルガスで儀式を受けてませんでしたっけ?」
「新月の日に生まれたというわけではなかったらしい。儀式を受けさせなかった理由はわからないけど、スバル陛下のご意向だったみたいだから。何か深いわけでもあったんだろうけど」
「…………」
 呆気にとられながらもシグムントの戦いぶりを思い出す。少なくとも最初の封印騎士を倒したときは月印の力を使っていなかったわけだ。いったい何をどうしたらそこまで強くなれるのか。そう考えると言葉もない。
 あの強かったシグムントが新月の民であったという事実は、カペルがそうであることよりも驚きが大きいらしく、エドもアーヤも声を失っている。
「まあそれは横に置くとしてだ。事情は理解した。これからも同様に協力させてもらおう。宜しく頼むぞ、カペル」
「あ……はい」
「共に、世界を」
 にこりと笑ったトウマに曖昧に頷き、差し出された手を握る。だがそれよりも、驚きを通り越した事実が熱となって心に染みていく感触を、カペルは噛みしめていた。
 シグムントさんも、僕と同じ新月の民だった……。
「それじゃあ、今後のことだけど」
 と、ユージンが固まっていたみんなを促そうとした時、ガチャリと音を立てて部屋のドアが開いた。
「ちーっす、ってあれ? 取り込み中だった?」
 入ってきたのはヴィーカだ。
 封印騎士ヘルドの戦いに巻き込まれ、目の前で兄を失うことになってしまった怒りや悲しみも、誰かにぶつけるでもなく、泣くだけ泣いてしまえば飲み込んでみせるのがヴィーカの強さだ。赤かった目も元に戻り、そのままふらりとどこかに外出していたかと思えば、けろりとした顔で戻ってくる。
「おかえり、ヴィーカ。ちょうど今後のことを決めようとしていたところだよ」
「そのことなんだけどさ。とりあえずケルンテンは早めに離れた方がいいと思うぜ。その……」
 急に言葉を濁したヴィーカがばつの悪そうな顔でちらりと横を見る。暖炉の湧きに立っていたエドアルドと視線が合うとそれをそらし、「あの……」とらしくもない態度をとり続けていると、見かねたエドアルドが「どうした?」と先を促した。
「エドアルドの大剣ってほら、目立つだろ? リバスネイル化してた時に見て覚えてるって人が意外と多くてさ。それで、ほら、解放軍ってのも目立つ存在だろ。噂ってのは根拠なんて無くても広がるもんだし、それで」
「ようするに、俺が暴れたせいでケルンテンに長居するわけにはいかないってことか」
「で、でも、思ってたよりも被害は小さかったみたいなんだ。蜘蛛の被害も警備の連中が頑張ってくれてたみたいでそれほどでもなかったし、そもそもエドアルドはカペルの兄貴とやりあってたのがほとんどで人に被害を出してたわけじゃ」
「わかってるさ。自分のやってしまったことも、みんなに迷惑をかけているということも。その借りは、今後の働きで返したいと思っている」
「あ……」
 エドアルドを気遣ってくれている気持ちが嬉しくて、カペルはヴィーカの代わりに言葉を継いだ。
「そうそう。エドにはこれから頑張ってもらうからね。僕が楽するために……いてっ」
「そんなこと言ったら、あんたはシグムント様の代わりなんだからね。全然がんばりが足りないんだから」
 と後ろから頭を小突いてきたのはアーヤだ。痛いところをついてくるのも、悪意の無さも、いつもの彼女のそれだった。
「じゃあ、とにかくいったんハルギータに戻ろう」
「そうだね、月の雨とリバスネイルの件も、スバル様に報告しなければならないしね」
 ユージンがそういう横で、カペルはハルギータの女皇スバルの顔を思い出していた。彼女にもまた、シグムントのことを話さなければならない。そう思うと気が重かった。

【小説インフィニットアンディスカバリー】
【Prev】/【Next】
スポンサーサイト

テーマ: 二次創作:小説

ジャンル: 小説・文学

コメントの投稿

Secret

△top

この記事に対するコメント

△top

トラックバック

トラックバックURL
→http://amaenovel.blog78.fc2.com/tb.php/314-15263f8d
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

△top

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。