06« 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.31.»08

ふであと

  : 

徒然なるままに、もの書き。

スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
スポンサー広告  /  tb: --  /  cm: --  /  △top

第九章 「追憶」_04 

 謁見の間は二度目と行っても、やはり慣れない場所であることには変わりない。玉座にあるスバル陛下は前と同じ優しげな微笑をたたえてはいるが、周りに居並ぶ重臣たちからも、前と同じトゲのある視線がカペルに向けられているのだった。
「……というわけで、鎖の台地にあった月の鎖は解放されました」
「よく無事に戻りました。仲間の病気も無事に快復したようですね。なによりです」
「ありがとうございます、陛下」
「貴方たちの働きによって、ハルギータの暗雲は全て払われました。英雄の名に恥じぬ働き、私も誇りに思います」
「いやあ、それほどで……いて」
 周りにばれないようにこっそりとカペルの足を踏み抜きながら「地、地がでてるわよ」とアーヤが言う。そう、この場ではシグムントを演じなければならないのだ。
「あー、えっと、こ、光栄です」
「此度の働き、我が国にとって特別な意義を持っています。月の鎖が一掃されたことにより、封印軍の動きを牽制できたことは間違いないでしょう。働きに報いるにはそれ相応のものでなければなりません。シグムント、貴方たち一行が望むのであれば、私の出来る範囲であらゆる願いを叶えましょう。何か望みはありますか? 何でも良いのですよ?」
「な、なんでも……」
 と言いかけた側から、今度は脇腹を小突かれた。周りにばれないように僕を攻撃することにかけては、アーヤに勝てる人はいないだろう。
「あんた見境ないの!?」
 そう言われてしまっては否定も出来ず、言葉を飲み込んだカペルだったが、急に願いと言われても思いつきはしなかった。それで後ろに控えていた仲間たちに視線を送ったが、彼らも彼らで急には思いつかないようだ。それとも女皇陛下の提案と言うことで遠慮しているのだろうか。
「ねえ、カペル」
 アーヤが言った。彼女の目は下を向くヴィーカに向けられている。
「女皇陛下にリバスネイルのことを公表してもらったらどうかしら。月の雨が危険なことを、まずはハルギータの人たちに知ってもらいましょうよ。そうすれば」
「……うん、そうだね。それがいいかも」
 ヴィーカが望んでいるのは、兄のようなリバスネイル化の被害者をこれ以上出さないことだろう。それは皆の共通の願いでもある。
 アーヤの向こうにいたエドアルドも頷いて同意してくれた。
 カペルはスバルにもう一度正対すると、一つ咳払いをしてから一歩前に出た。
「陛下、一つお願いがあります」
「遠慮は要りません。何でも言いなさい」
「今、この国やケルンテン、コバスナ大森林に降っている月の雨のことはご存じでしょうか」
「ええ、知っています」
「月印にとっては滋養となる月の雨。皆がそれを吉事であると感じていることは当然のことではありますが、我々は、此度の戦いで一つの事実を知りました」
「それは?」
「月の雨は毒にもなる。増幅された月の力が肉体を蝕み、それが原因で死に至る者もあれば、力の暴走に取り込まれ、リバスネイルと呼ぶ化け物になってしまう者もいる。月印を持ち、月の雨の恩恵を受ける全てのコモネイルは、その危険と隣り合わせにあるのです」
「月の雨が……毒?」
「はい。このことを女皇陛下から公表してはいただけませんか? 月の雨が危険な物だと知らしめねば、全ての人が危険にさらされます」
 スバルは思案顔でカペルの提案を聞いてくれていたが、彼女が答えるよりも前に、隣にいた大臣の一人が前に出て言った。
「公表は無用である」と。
「なっ……!」
「混乱を招くだけだ」と続けたその男に同意して、別の大臣も言う。
「我らだけが知っておれば、国務に支障はない。何より、そのような話、俄に信じられるか」
 国政の実務をつかさどるのは彼らだ。スバル女皇の治世が長く続いたのは、絶対的な君主でありながら、その決定を衆議によって決めてきたことにある。いくら女皇といえど大臣たちが否決した案件を押し通すことはいけないのだろう。ぐっと言葉を呑んだスバル女皇の顔を見、支障がないはずがないだろうという言葉を、カペルもまた呑み込んだ。
 こんな簡単なことでさえ障害があるのなら、どうやって止めればいい? 皆がリバスネイルによる被害を受けている横を見て見ぬ振りして進み、一刻も早く月の鎖をすべて解放してしまえばいいのだろうか。月の鎖と月の雨の因果関係もまだ不確かなことの方が多いというのに、それで多くの人が救われるのか?
 自然、重い空気が謁見の間を包み込む。それを払ったのは後ろからずいと出てきたキリヤの言葉だった。
 慌てる大臣を尻目に、彼はスバルの御前にて一礼する。
「陛下、お久しぶりです」
「発現の権利の無いものは下がれ!」
 何とか威厳を取り繕った大臣がキリヤにそう命じたが、彼はいつも以上に鋭い眼光をその大臣に浴びせ返した。
「バカは黙れ」
「バ……、な、何を不遜な」
 眼光と言動に怯んだ大臣が、倒れなかったのが不思議なくらいに後じさった。それを横目にもう一度礼をしたキリヤにスバルが言った。
「キリヤ……、元気そうでなによりです」
「陛下。陛下は月印に振り回される人間をまた見たいのですか?」
「…………」
 はっとしたスバルの顔に、痛みにも似た表情が浮かぶ。
 また?
 またとは何だ。以前にも月印に振り回される人間がここにいたということなのだろうか。スバル女皇の反応から考えれば、リバスネイル化とは別の何か。僕の知らない月印の裏側が、まだある。
 月印。
 人に恵みを与えながら、人に災いを与えもする、月の力。
 この力は、何なんだ……。
 世界は確かに便利になり、それによって得るものは多い。だけど、生じた歪みが封印軍の存在やリバスネイルだというのなら、それがいくつかの真っ当なはずの人生を狂わせたのだとしたら、それは許されることなのだろうか。
 新月の民としての時間が、月印の力に魅せられて死んでいった封印騎士の姿が、答えの見えない問いを投じてくる。
「……わかりました。では、月の雨に毒性があるということだけを公表しましょう」
「陛下、それだけでは」
 足りない。リバスネイルの危険性を見てきたカペルにとってはそう思えた。
「リバスネイル化に関しては伏せておきます。対応策無きまま公表することは、要らぬ混乱を招くだけです。疑心暗鬼という病もまた怖いもの。悪ければ、リバスネイル化を恐れた者たちによって、病気になった者が襲われることもありえます」
「そんな大げさな……」
「不十分な情報もまた毒となりえましょう。招かれるであろう混乱は、それだけ恐ろしいものでもあります」
「…………」
「その代わり、緩和剤の量産態勢をこちらで整えましょう。十分な薬を確保してから事実を公表しても遅くはないでしょう」
 確かに、対策も無しに公表するのは危険だった。やはりスバル陛下は聡明だ。四百年の統治も理由のないものではないと、カペルには思えた。
「陛下、ありがとうございます」
「キリヤ、緩和剤の材料、および製造法を提出なさい」
「謹んで。しかし、それには一度庵に戻らねばなりません。製造法は記憶していますが、試料が手元にはない」
「では護衛をつけましょう。あなたが戻り次第、生産にかからせます」
 その会話の腰を折るように、大臣が進み出てきた。
「しかし陛下。薬の量産など益の薄いことに割くものは……」
「控えなさい。決定は伝えました」
「……はっ」
 一喝された大臣が下がると、謁見の時間は終わりを迎えた。

【小説インフィニットアンディスカバリー】
【Prev】/【Next】
スポンサーサイト

テーマ: 二次創作:小説

ジャンル: 小説・文学

コメントの投稿

Secret

△top

この記事に対するコメント

△top

トラックバック

トラックバックURL
→http://amaenovel.blog78.fc2.com/tb.php/317-37ed0e32
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

△top

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。