04« 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.31.»06

ふであと

  : 

徒然なるままに、もの書き。

スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
スポンサー広告  /  tb: --  /  cm: --  /  △top

第九章 「追憶」_05 

 謁見の終わり間際にスバルに呼ばれたカペルは、言われたとおりに彼女の部屋へと向かう階段を上っていた。何故か呼ばれもしないアーヤが着いてきてはいるが、彼女が隣にいることを不思議に思うこともなくなっているほど、それは当たり前のことになりつつある。
「何だろうね、ドキドキ……」
「あんた、女だったら誰でも良いわけ?」
 アーヤに呆れられながら階段を上り続けると、衛兵を両脇に抱えた扉が見えてくる。女皇の自室、と言うにはいささか質素にも感じるその前に立つと、浮ついた気持ちよりも、シグムントのことを話さねばならないという思いが強くなってきた。ぐっとその気分を呑み込み、シグムントさんもここに来たことがあるのだろうか、と考えていると、それを見透かしたのだろうか、アーヤが腕をくいと引っ張って言った。
「私はここで待ってるから頑張ってきなさい。シグムント様のことはどうせバレることだし、っていうかもうバレてるかもしれないしね。カペルはカペルなんだし、やれる範囲で頑張ってるじゃない。スバル様だってわかってくださるわ」
「アーヤ……」
 それは意識してではないのだろう。他人の心に差し込んだ影を自然と感じ、それを払う振る舞いもまた自然と出来る。彼女のそういう所は自分などには無いもので、だからこそ大切だと思えるのだ。
「それより、変なことしないでよ」
「さ、さすがにしないよ。相手は女皇様だよ?」
「どーだか……」
 ぷいと子供のように横を向いた彼女の顔を見つめ、苦笑していると部屋の内側から「入りなさい」という女皇の声が聞こえてきた。
「はい」
 いくらか軽くなった気分でドアを押し開ける。そこにはハルギータの女皇、スバルがいた。

「こちらへ」
「は、はい」
「どうしたのです? そのように緊張して、貴方らしくもない」
 アーヤにほぐしてもらった緊張も、一人になればすぐにぶり返してくる。自分には一生縁の無いであろう品の良い調度品の数々が目に入り、そこに何一つ違和感なくあるスバルの姿を認めれば、慣れない場所という理解が先行し、身体が正直に反応してしまった。
 シグムントらしくない。それはそうだろう。シグムントさんは、どんな場所でもシグムントさんであっただろうと思う。
「ふふふ、冗談です」
「……え、冗談?」
「掛けなさい。立ったままもないでしょう」
 何が冗談かもわからず、促されるままスバルの隣に畏まって座ると、腿に置いた手にスバルが触れてきて、カペルにはもう何が何だかわからなくなってしまっていた。
「そんな積極的な……!」
「心の素直な子。嘘がつけないのですね」
「……えーと?」
(何かおかしなことしたっけ……)
 少女のそれと変わらない、柔らかな手。老化の止まったその身体と、長い歳月によって醸成されたのであろう女皇の空気との差異に、カペルは戸惑うばかりだ。
「私たちは親子も同じ。恥ずかしがることもないでしょう」
「え、あ……その」
(なんだろう……暖かいのに、なんだか悲しい)
 何かが通じ合う感触。触れ合った手を通して伝わってくる不思議な感触が、少しくすぐったくて、少し怖い。
「少し、心に触れました」
 手が離されるとその感触が消え、スバルの言葉が、それが心の触れ合う感触だと教えてくれる。それもまたハイネイルの力なのだろうか。
「カペルというのですか、貴方は?」
「えっ」
「私はあの子の母代わりだったのですよ? 姿形がいくら似てようと、決して欺けません」
「……やっぱりわかっちゃいますよね」
 思えば最初の対面から気づかれていたのかもしれない。シグムント様に向けられていたというよりも、自分自身に向けられていたような、その視線や言葉。
 幼なじみのトウマが気づいていたのだから、母代わりだというスバル女皇が気づいていても不思議ではない。どだい、僕とシグムントさんでは違いすぎるのだ。上手く演じられてるとも思えないのだから、近しい人たちを騙せるわけがない。
「謀っているかとも思いましたが、貴方の心にやましいものはありませんでした。それに、ユージンやあの子の仲間たちが一緒なのですから」
「……単に小心なだけです」
「よいのです。貴方は貴方ですよ」
 まるで我が子に語りかけるように彼女が言う。不思議なほどに素直に聞けるその響きは、どこか懐かしくも感じるのだった。
「語らずとも、あらましはわかりました。あの子は、シグムントは勇敢であったようですね」
「はい」
「……どこか悟ったところのある子でした。戦いに出したときから覚悟はしていたはずなのに……。思ったよりも堪えますね」
「悲しくて当たり前ですよ。大事な人を失ったら悲しいと感じる。当然のことだと思います」
「……そうですね」
 寂しげな微笑。忘れられそうにもない。
「カペル」
「は、はい」
「貴方は死んではなりませんよ」
 偽善でも憐憫でもない。ただただどこまでも優しいその言葉の重さに、カペルはわずかに震える。
 死ねない。
 死ねるはずがない。
 スバルの言葉に引かれて思い出された、アーヤやエドアルドたちの笑った顔、シグムントの背中。助けたり助けられたりしながら、絡み合ってしまった歩む道を、僕一人が勝手に終わらせるわけにはいかないのだ。それは本能的な死にたくないという思いとは別の何か。一人で旅をしていた頃に忘れていたものの一つ。
 皆に力が及ばない自覚はある。それでも僕は……
「出来るだけ約束します。なるべく鎖は全部壊して、そして、生きて戻ってきたいと思います。僕を信じてくれますか?」
 約束を信じてくれる人がいれば、僕はそれを守るために、少しだけがんばれる気がする。
 その思いを告げたカペルだったが、不意にスバルの目に涙が溢れてきたことに気づいて慌ててしまった。
「あ、えっ、女皇陛下!?」
「……こんなに違うのに、同じなのですね」
「へっ?」
「信じます。何度でも、何度でも……。貴方を信じて待ちましょう。ですから、必ず生きて戻りなさい」
「努力します」
 そう答えたカペルににこりと笑うと、スバルが立ち上がる。満ち足りた心を抱いて彼女に従い、カペルは部屋のドアを開けた。
「あっ」
 そこにはアーヤが待っていた。その彼女を見て、スバルが微笑む。
「この子のこと、頼みましたよ」
「え……、あ、はい!」
 何のことかいまいち把握できてないといったアーヤとともに頭を下げると、カペルは階段を下りていく。
「何を言われたの?」
「……全部バレてたよ」
 いっそ清々しささえ感じるカペルとは逆に、アーヤは頭を抱えながら言った。
「やっぱりそうよね。……はあ、この先が心配だわ」
「まあ、何とかなるんじゃない?」
「……もう」

 階段を下りていくカペルたちを見送りながら、スバルはシグムントの言葉を思い出していた。
「約束する。鎖は全て破壊して、生きて戻ってくる。必ずだ。信じてくれるか、私を」
 そう言って旅立ち、あの子は帰ってこなかった。領民はすべて子供のようなものだったが、やはりシグムントは特別な存在だった。
 あの選択は、果たして正しかったのだろうか。
 問うても答えなど無く、答えが見つかったとしても今更何が出来るでもない。
 スバルは無理にでも笑みを作る。悔いていてはあの子に笑われる。今はあの子が未来を託した少年の無事を祈ろう。
 それにしても――
「……不思議な子。シグムントに似ているというより、むしろ――」
 その先の言葉をスバルは思わず呑み込んだ。
「まさか……いや、あれほど似ているのなら……。カペル、あの時の子だというのですか?」

【小説インフィニットアンディスカバリー】
【Prev】/【Next】
スポンサーサイト

テーマ: 二次創作:小説

ジャンル: 小説・文学

コメントの投稿

Secret

△top

この記事に対するコメント

△top

トラックバック

トラックバックURL
→http://amaenovel.blog78.fc2.com/tb.php/318-baf18b58
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

△top

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。