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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第九章 「追憶」_06 

 キリヤが緩和剤の資料やら何やらを取って戻ってくるまでには、暫く時間がかかる。近くに鎖があるわけでもなく、必然、それまでは束の間の休息ということになり、皆が思い思いにハルギータの街を楽しんでいた。
「遅いですね」
 そんな中、ユージンに呼び出されて、カペルは皇城の門の近くにある教会にいた。告げられた時間に待ち合わせ場所に来たのだったが、そこにはトウマがいるだけだった。
「家の用事がどうこうと連絡があった。なに、直にやってくる」
「はあ……」
 目的も教えられていないカペルにとっては、この待つ時間というのは何とも落ち着かない。取って食われる心配は……、まあ無いと思いたいけれど、あえて言わないのだろうから、目的を聞いてみてもいいものかどうか。
「あの、今日はどちらへ?」
「それも直にわかる」
 まぶしすぎるくらいに真っ直ぐな笑顔には「はあ」と気の抜けた返事をするしかなく、何ともつかみ所のない人だなと再確認したところで、カペルはあたりを見回した。
 だだっ広い空間にベンチが並び、それらに対面するように、色ガラスの光を背中に受ける女神像が鎮座している。あの女神像もまた、月の神ベラの姿なのだと神官であるユージンに聞いたのはいつだったか。人に力をもたらす男性の姿、大地を産み落とした女性の姿。前者は儀式の最中にも見たことがあるが、この女性の姿というのは誰がいつ見たのだろうか。
 学のない自分にそれがわかるはずもなく、何より月の神に対する信仰心など持ち合わせていられるような境遇でもないのだから、女性像もまたベラだと言われても、そうですか、と答えれば十分なのだろう。
 そんなことをぼんやりと考えていると、やっとユージンがやってきた。相変わらず重そうな荷物を背に抱えながら、「すまない」と息を整えつつ言う。
「父さんに掴まってしまってね」
「お父さんですか?」
「ああ」
「ユージンさんのお父さんも神官さんなんですか?」
「いや、うちの家系は商家でね。早く旅を終わらせて家を継げと迫られてたわけさ」
「おぼっちゃんなんですね」
 少し疲れた顔で「はは……」と笑うと、ユージンは「それじゃあ行こうか」とトウマに言った。
「ああ、あそこに行くのも久しぶりだな」
「僕らが旅立つ直前に行ったきりだね」
「そうであった」
 出発だというのに自分が不在のまま話が進んでいく。
「あ、あの、どちらへ……」
 と聞いてみても、二人はにこりと笑って答えてはくれなかった。

「あのー、そろそろ教えていただけないでしょうか」
 ハルギータ皇城を出てすぐ左に曲がり、城の周囲をぐるりとまわるようにコバスナの森を歩く。行き先を教えない二人に着いていくしか選択肢のないカペルは、獣道としか言いようのない茂みを歩いていた。
 ちょうど正門と反対側の辺りに出ると、前を行く二人は城を離れてさらに森の奥へと歩いて行く。
「こんなに遠くに行くのなら、朝ご飯、もっと食べておけばよかったよ……」
 どれくらい歩いていただろうか。例のごとくカペルの腹の虫が叫びを上げ始める頃、ふいに開けた場所に出る。
 背の高いコバスナの木々の間から空が見え、まだ中天に上らない太陽の存在が確かめられるその場所は、ちょうど待ち合わせ場所だった教会の空間と同等の広さのある原だった。
「あの、ここは?」
「私たち三人が使っていた、……まあ、秘密の修行場と言ったところか」
 トウマがにこやかに言う。
「それより前はトウマとシグムントの秘密基地だったんだよ。出ちゃいけないって言われてるのに皇城を出て、その度に僕が呼びに行かされてさ」
「私とシグムント以外にこの場所を知っていたのはユージンだけだったからな」
「誰にも言うなって言うからそうしていたけど、トウマを探すコマチくんをまくのは大変だったものさ」
 奥の方には倒された木がいくつも見え、三つ並んだ切り株がそのそばにある。あれは椅子代わりといったところだろうか。
「三人の子供時代……」
 切り株に座る三人の幼少期の姿を想像してみるものの、二人はともかくシグムントの子供姿というものはどうにも上手く想像できない。代わりに自分の子供の頃の姿をそこに立て、トウマとユージンが話す横でむっつりと座っていると想像してみることで埋め合わせてみたが、違和感はどうしようもない。
 シグムントさんの子供時代……。昔からあんな口調だったのだろうか。
「ん、カペル、何がおかしいのだ?」
「え、あ、いや……。それで、どうして僕をここに?」
 トウマと一度目を合わせ、メガネを押し上げてからユージンが言った。
「君には、シグムントのことをもっと知っておいてもらいたくてね」
「シグムントさんのこと……」
「光の英雄の代理をやるというのももちろんなんだけど、あいつは何故か君のことを気にかけていた。だから、英雄の件が無くても、一度ゆっくりと話しておきたかったんだ」
 ユージンたちに倣い、切り株の近くに荷物を下ろす。ユージンが荷物をごそごそと探り始めたので早めの昼ご飯かと期待したカペルだったが、出されるものを確認するよりも早くトウマに「カペル」と呼ばれて振り返った。
 トウマは中腰に構え、手を刀の柄に合わせている。
「え、ちょ、トウマさん?」
「昼餉の前に運動といこう。カペル、剣を抜け。我がハルギータ一の剣豪、シンカイ流の太刀筋をそなたにも教えてやろう」
「ええ!? いや、僕、そういうのはちょっと……」
「さあ、剣を構えろ」
 嫌々ながらびくびくと剣を引き抜いたカペルを見、トウマが頭の面を顔に移し替える。
「ちょ、本気じゃないですか!」
「当たり前だ。参るぞ!!」

 太陽が頭上に昇る頃には、カペルはもうぼろぼろだった。剣を落とさないことが精一杯だ。
「はあ、はあ……、もうダメです……」
「情けない。世界を救おうとする男がこの程度で音を上げるな」
「いや、僕はただのフルート吹きであってですね」
 ようやく仮面を外したトウマを確認する余力もなく、落とさなかった剣を杖代わりになんとか立つ。手加減してくれていたのだろうけれど、それでもカペルが相手するには厳しかった。
「この辺にしておこう、トウマ」
「ふむ」
 ユージンが助け船を出してくれなかったら、まだ続けるつもりだったのだろうか。ともかく、
「やっと解放された……」
「さあ、昼ご飯にしよう」
 切り株の上に置かれたバスケットには何種類かのサンドイッチが入っていた。
「アーヤくんが作ってくれたんだよ」
「へえ……」
 お姫様なのに案外料理が上手いんだよね、アーヤって。
「カペルくんはトマト、大丈夫かい?」
「ん? 大丈夫ですけど」
「シグムントはトマトがダメでね。結局、旅に出てからも一切口にしなかったな」
「あのシグムントさんがですか!?」
「そう、あのシグムントが、だよ」
 分厚いミートパティとトマトが挟まれたハンバーガーを受け取りながら、シグムントの意外な一面にカペルは驚かざるをえなかった。
 あのシグムントさんが好き嫌いとか……。
 不意にシグムントの幼少期の姿が想像でき、ユージンとトウマにつられてカペルも笑った。
 二人の昔話を聞くのはカペルにも楽しくて、食事の時間はあっという間に過ぎていく。バスケットが全て空になった頃、面の手入れをしながらトウマがぽつりと呟いた。
「……懐かしいな、ユージン」
「そんなに前のことじゃないはずなんだけどね」
 友人を失った二人を見遣り、古い友を失った喪失感というものはどういうものだろうと考えてみる。
 僕には友達なんていなかった。
 失うことの怖さも無いが、こうして笑って話せる思い出も無い。どちらが幸せなことかと問われてもすぐに答えられるはずもなく、ただ、失いたくない友がいるのだと思えるのが、今のカペルだった。
「カペル。シグムントは最後まで立派に戦ったか?」
「はい、それはもう」
「そうか」
 ゆるりと立ち上がったトウマは、一本の木の前におもむろに立った。面をつけ、その手を刀にやる。
 カペルがその仕草を見たと思った瞬間、かちんと金属の触れ合う音が聞こえたかと思うと、トウマの目の前の木が、斜めに走った断面に沿うようにずるりとずれ落ちた。枝葉のこすれあう音が遅れて聞こえてくる。
「改めて誓おう。この刃、あの者が守ったもののために」
 捧げられた剣に陽光が光る。吹いた風が、一瞬、コバスナの木々をざわめかせた。

【小説インフィニットアンディスカバリー】
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