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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第二章 「鎖を斬る者たち」_08 

 夜のとばりが降りる。お祭り騒ぎだった街にも日常の空気が戻り始め、あたりには夕食の匂いと家族の談笑が満ちつつあった。縛る鎖が一本減っただけだが、心なしか、月はいつもより明るく見える。今夜は満月だ。
 カペルたちは王城へと向かった。話はついているようで、門兵はすぐに通してくれた。
 封印軍が使っていたプレヴェン城とは違い、ブルガス城は王の住まいに必要十分な華麗さをもって彩られている。一流品で揃えられた調度が並び、鏡のように磨き上げられた床には塵一つ落ちていない。機能よりも装飾を重視した甲冑の衛兵は、微動だにせず直立しているだけで神殿の彫像のような役割を果たしてもいる。
 目に入る物すべてがあるべき気品や風格を演出していて、カペルは落ち着かない気分を隠せずにいた。ルカとロカも同様にきょろきょろとしているが、アーヤはそれほどでもないように見える。彼女はこういうところに慣れているんだろうか。
「アーヤはこういうところ慣れてるの? 僕、なんか落ち着かなくてさ」
「え? ああ、うん、まあ、その、一応ね」
 彼女にしては珍しく歯切れの悪い返答にカペルは違和感を感じたが、それでこの話題は終わりにしておいた。
「あっ、ユージンさん」
 廊下で待っていたユージンを見つけて、アーヤが声をかける。
「良かった。間に合ったね」
「どうしたんです?」
「これからシグムントが月印を授かるんだよ。蒼竜王自らが執り行われる儀式でね」
「蒼竜王自らですか」
「そう。それだけ期待されてるんだね。今夜は満月で月印の力も最大になる。急だけど、儀式をやるなら今夜がいいだろうという王の御意志なんだ」
「……」
「カペル君、どうしたんだい?」
「いえ、なんでもないです。僕らも立ち会えるんですか?」
「もちろん。さぁ、儀式の間に行こう」

 月印は“祝福”の儀式をもって授けられ、それを執り行うのは神官かハイネイルの役割だ。今回の場合は、月の鎖を断つというシグムントの功績に対して、ハイネイルである蒼竜王自らが司祭となって“祝福”の儀式を執り行うということになったらしい。王自らの儀式というのは大変な名誉で、シグムントはそれだけ評価されたということだ。
 その“祝福”の儀式を、カペルはまだ見たことがなかった。

 カペルたちが儀式の間につくと、そこにはもう人だかりができていた。王自らの儀式ということで、高官のほとんどがここに来ているようだ。解放軍の一員であるカペルたちは最前列へと案内された。
 すぐに扉は閉ざされ、部屋を闇が満たした。それを払う松明に明かりがともされ、パチパチと薪の爆ぜる音だけが静寂をかき回す。これだけの人がいるにも関わらず、部屋の中は嫌に静かだった。
 壇上には蒼竜王とシグムントの姿。
 祭壇の上に用意された採光の窓が開け放たれ、月明かりが二人に降り注いだ。
 儀式は厳かに始まった。
 蒼竜王が祝福の言葉を一つ一つ重ね始めた。それに合わせるようにして、靄のように揺れる赤い光が出現し、シグムントを包み込む。その光は次第に一人の男の姿を形成し始めた。
 それが月の神ベラの姿だ。月印を与える、この世界の神。
「おお、ベラ様じゃ」
「お美しい……」
 感嘆の声があがる。周りのその反応とは裏腹に、カペルは同じように感じられないでいた。それにかまうことなく儀式は続く。
 シグムントを抱きすくめるようにしていたベラの右手が掲げられ、その手に一本の剣が現れる。力を象徴するその剣が、ベラの手によってそっと、シグムントの胸に沈められた。
「ぐっ……」
 シグムントがくぐもった声を漏らす。どこか苦しそうにも見えるが、剣はすぐにシグムントに吸収されるように立ち消えた。右手の甲に月印が現れる。それを確認すると、ベラは大きく両手を広げながら頭上へと舞い上がり、月明かりの中に霧散した。
 契約は成立した。シグムントは新たな力を手に入れた。

「さすがは光の英雄だ」
 再び感嘆の声があがる。新たな"祝福"を与えられるだけの功績を挙げられる者も稀なら、複数の月印をその身に宿す力を持った者も、また稀だ。そういう意味で、シグムントはさすがだとはカペルも思う。だが、周りと同様に感嘆する気にはなれなかった。儀式そのものに違和感を感じる。忌避すべき何かのような気がする。
 血の色のように思えた赤い光を幻視しながら、確かに美しかったが、と否定の接続詞を重ねたとき、不意にシグムントと目が合った。
 壇上で新たに得た月印を見つめていたシグムントが、大きく目を見開いてカペルを見た。視線が交錯する。無表情の代名詞のようなシグムントが、驚きの表情を浮かべている。それにカペルは驚いた。
 すぐに絡んだ視線がほどかれる。
 シグムントが何に驚いていたのかはわからない。わからないなら気にしても仕方ないと思いながらも、カペルの胸には何かが引っかかったままになった。


「いやあ、すごかった! 僕、“祝福”の儀式って初めて見ましたよ」
「初めてなのかい、珍しいね?」ユージンが訝しげな顔をする。
「普通は家族とか隣人の儀式には立ち会うものだろう。まったく、どんな環境で育ったのやら」
 部屋の隅で壁にもたれかかっていたエドアルドが、呆れたという顔だけをこちらに向けて言った。
「僕、孤児だったんで、そういうのないんだよね」
「あっ……」
 悪意があって言ったわけではないのだろう。そういう生い立ちの人間もいるということに考えが回らなかっただけだ。エドアルドは自分なんかより恵まれた環境で育ったのかもしれない。
「すまん」
 鼻をぽりぽりと掻きながら、エドアルドはばつが悪そうに謝った。いつも怒ってばかりな気がしていたけど、なんだ、怖い人じゃないんだ……。
「でもなんでシグムントだけなのさ。カペルにも“祝福”の儀式をやってあげればいいのに」
「そうだよ。カペルだって青龍様を助けるときに鎖を斬ったんだから」
 そう無邪気に言い出したルカとロカとは反対に、一同は唖然といった面持ちでカペルを凝視した。
「ちょっと何よそれ。私、聞いてないわよ」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「言ってないわよ。大事なことでしょ、どうして言わないの!」
「ごめんなさい」
「カペルくん。どういうことか聞かせてくれるかな?」
「……ええとですね」
 ユージンに促され、カペルは青龍の話を始めた。トロルを倒したところまではアーヤにも話した。その後、青龍の姿が消えそうになり、代わりに天を貫く巨大な鎖が現れようとしていたこと。それを無我夢中で断ち切ったこと。それで生まれかけの鎖は消滅し、青龍が助かったこと。それらを思い出し思い出し話す。
 ユージンは興味深そうに聞いていた。シグムントは相変わらず表情が読めないが、こちらの話に耳を傾けているようだ。少し空気が重くなった部屋の中で、一人、エドアルドだけが血相を変えていた。
「青龍……鎖……それをカペルくんが斬った……」
「で、でたらめだ! おまえなんかに鎖が斬れるわけないだろ! 鎖を斬ることができるのは、光の英雄シグムント、ただ御一人だ。顔が似ている? それがどうした。それだけでそんなことができるわけがない!」
「いや、でも」と断りを入れようとしたカペルの声は、エドアルドの「うるさい!」という一言で遮られてしまった。
「ちょっと、エド! カペルはともかく、この子たちがそんな嘘つくわけないでしょ!?」
「ちょ、カペルはともかくって……」
 アーヤの抗議に、そうだそうだと双子も同調する。
 言葉に窮したエドアルドが、シグムントに助けを求めるように手を伸ばした。が、シグムントはそれを無視して、「部屋に戻る」とだけ告げて出て行ってしまった。
 やり場を無くした手をなんとか引っ込めると、エドアルドは大きな音をたててドアを開け、一睨みを残してそそくさと出て行った。
「まったく、子供なんだから」
 アーヤが嘆息を漏らす。ルカとロカがそうだそうだとはやし立てる。
「カペル君、もしそれが本当なら、君は解放軍にとって重要な人物になるかもしれない。まだしばらくは同行してもらうことになるよ、いいね」
 そう言うユージンの言葉は真剣だ。
「……やっぱりそうなります?」
「当たり前でしょ!」
 ユージンの代わりにアーヤが答える。
「……はい」
 どうしてこんなことになってしまったんだろうと思いつつ、カペルはそのきっかけとなった少女の顔を見つめた。

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