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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第九章 「追憶」_07 

「ハルギータって良いところよね」
 商店の並ぶ緩やかな下り坂。ハルギータ皇城の商業区は螺旋を描くようにゆっくりと地下へと伸びている。吹き抜けの上部から取り込まれた太陽光を補助するように、何かの花を模している洒落た街灯があたりを照らし続けているからか、地下といっても監獄のような場所とはずいぶん違う。降りてくるような穏やかな風が空気を攪拌しているおかげで心地よくすらあるのが、ハルギータの商業区だった。
「女皇様の人柄のおかげかしら」
 ハルギータの女皇、スバルの印象を街のあちこちで感じるのは確かにそうだ。四百年の治世がそうさせるのだろうか。時間と愛情を注いで築き上げられた女皇の城。四百年という時間に、街の印象とは逆の薄ら寒いものを覚えていると、アーヤの視線がどこか遠くに泳ぐのが見え、その少し寂しげな瞳に映ったであろう彼女の両親の姿をドミニカもまた見た。
 あの方の娘。
 小さな頃から見守り続けたアーヤの顔に、最近よく炎鳳王シャルークの面影が重なるようになった。それほど長い時間というわけではないにしろ、解放軍に加わって戦闘の最中に身を置いてきた経験がそうさせるのだろうか。皇女でありながらそうしてしまう無鉄砲さはともかく、その真っ直ぐな心根は変わらずあってほしい。親心にも似た感情を自分のうちに確かめ、それを上手く処理できないでいる自分の中に女を垣間見たドミニカは、自嘲気味に笑った。
「あっ」
 急に立ち止まったかと思うと、アーヤの表情から両親を思う寂しさの影が消え失せていった。代わりに現れたのは、怒りとも悲しさとも違う女のそれ。
 視線を追うと、そこにはカペルとファイーナの姿があった。アクセサリーを扱う商店の前で二人が談笑している。
 変わったのは、こういうところもか。
 人一倍素直な性格のくせに、こういうところで意地を張ってしまう。強くなったといっても、未だ色濃く残る少女の顔がふいにおかしくなり、ドミニカはばれないようにくすりと笑い、こう言った。
「二人にしておいていいのかい?」
「な、何よいきなり!」
「同じ新月の民どうし、ってのはいろいろ感じるところもあるだろうね」
「そういうものかしら……」
「アーヤ、行っといで」
「ドミニカ!」
「ほら、さっさと行く」
 ぽんと押し出してやった先でわずかに戸惑い、躊躇して立ち止まったかと思うと、ふいに赤らんだ顔をこちらふりむけたアーヤは「別にそういうんじゃないんだからね!」とだけ言い残してカペルの方へと一歩を踏み出した。
「わかってるよ」
 と相づちを打ったときにはもうこちらは意識の外。艶のある黒髪を翻して走り出したアーヤの背を目で追い、ドミニカは「後悔は後にも先にも立たないからね」と独りごちてそれを送った。
「後悔、か……」
 二言目は自分に向けてだった。
 自分はどうか、と問いただしてみても答えは決まっている。あの方の娘を守る。それが自分の心に対する筋の通し方と決め、今はそれでいいのだと言い聞かせてきた。後悔というよりは諦めに近い空虚さが一瞬胸の内を暗く照らしたが、その処理の仕方を心得ているのがドミニカだった。
 アーヤが混ざって痴話げんかの様相をていしてきた三人を見遣り、慌てふためくカペルの表情をいじわるくクククと笑うと、ドミニカはそれを放置してさらに商業区を下っていった。
 フェイエールのバザールに並ぶ品々は世界中から集められていると言ってもいいものだが、ハルギータの物は他の地方の物に比べてずいぶんと少ない。地理的な問題で流通が難しいから仕方ないといえばそれまでだが、封印軍との戦いが終わればそれもいくらか解消されていくだろう。
 肥えた目にも物珍しく映る品々を眺めてドミニカはさらに道を下る。
 見慣れない食べ物や装飾品を見遣っていると妹のエミーのことを思い出す。同じ戦士の道を進みながら、一方は傭兵、一方は親衛隊の隊長だ。戦場に自分を見出した自分のような生き方をしなくてすんだ妹なら、こういう品々に目を輝かせることも出来るのだろうか。あの方の側にいたいという想いを押し殺し、それを忘れるために傭兵になったのもずいぶん前だ。その時間が培ったのか、装飾品の類よりもまず武具に目が行くのが自分なのだから、それを今更変えようとも思えなかった。
「今日は少し自嘲気味だな」
 そう気づける気分をさらに笑っていると、居並ぶ商店の一つに珍しい姿を見つけた。
 どうやらそこはアクセサリーの店らしい。
 ドミニカにしてみれば少女趣味と思えるピアスを手に取り、目を輝かせているのは、ヴィーカだ。
「これ……いや、こっちかな……」
「なかなかかわいいじゃないか、それ」
「ひっ!」
 ピアスを見るのに夢中でこちらには気づいていなかったらしい。後ろから声をかけると、ヴィーカは猫のように飛び跳ね、身構えながらこちらを確認した。
「……なんだ、ドミニカか」
「なんだは無いだろう、なんだは。一人で買い物かい?」
「あ、いやこれは、その、えーと……」
 両手に持ったピアスとドミニカの顔を交互に見つめ、ヴィーカは決まりの悪そうな顔を浮かべる。少女趣味なアクセサリーを見繕っているところを見られるのは、どうやら困るらしい。
(それもそうか……)
 本人は秘密にしているらしいし、周りの連中も気づいていないのがほとんどだ。解放軍の男どもは朴念仁ばかりだからな……。
 どういう事情かは察しはつくし、このままヴィーカの小さな嘘に合わせてやった方がいいだろう。その方が面白い。
「友達に贈り物でもするのかい?」
「そ、そう! そう友達! ダチにプレゼントなんだよ。いやあ、悩んじゃってさ」
「ふーん」
 いい逃げ口が見つかったとほっとするヴィーカを見て、ドミニカは思わず頬が緩んでしまう。悪いとは思いつつも、無理に秘密を打ち明けさせたところでいいことはそれほど多くない。このまま、このごっこに付き合ってあげればいいのだ。かわいいアクセサリーの一つでも欲しくなる。年頃からすれば、彼にも、いや、彼女にもそういう気持ちはあって当たり前なのだから。
「さて、いま見てたところあたりでいくと、小さくて邪魔にならなくて、でもちょいとオシャレなやつってとこか。動きにくくなるようなのはダメなんだよね」
「え、あ、うん」
「とすると、こっち……はちょっとでっかいね。これは派手すぎるか……。ヴィーカ、どう?」
「うーん、おいらとしてはもうちょっと地味目の色が好きなんだ……その友達が! こっちは?」
「そりゃ地味すぎる! もう少し飾りの大きなのにしな。これなんてどうだい?」
「ちょっと大きすぎるかなぁ。動きづらいのは困るんだよなぁ……ってダチが言ってた」
「じゃあこれだ。小さいけど飾りが凝ってる」
「あ、ちょっといいかも……ってすげえ高いじゃん! ダメダメ! もっと安いのがいいよ」
 アクセサリーに目を輝かせる姿は少女のそれだ。夢中になっているその横顔を見遣り、これで気づかない連中の気が知れないとドミニカは一つため息をつく。
 そうして顔を上げ、あたりを見回してみると、後ろの方からエドアルドがやってくるのが見えた。無愛想なのはいつものことだが、「よぉ」と手を上げて挨拶するくらいの余裕は出来たらしい。ケルンテンでの出来事のおかげでいくらか角が取れ、つんけんとしているだけのガキっぽさは無くなった。よく笑うようにもなったし、本来はこういうやつなのだろう。
「ドミニカ、ちょっといいか」
 そう言われ、身体をそちらに向けた直後、
「うううーん、いいや! じゃあもうこれに決めた! ねえどう思う、ドミニ、カ……あ、あぎゃああああああああ!!」
 ようやくエドアルドの存在に気づいたヴィーカが絶叫する。あまりの驚きぶりに店員が後ろにひっくり返ってしまった。
「ヴィーカ、買い物か?」
 ヴィーカの絶叫を意に介さず、エドアルドが言う。あまりの鈍感さにこちらが思わず頭をかきたくなるが、まあエドアルドにはこのあたりが限界だろう。
 いや、もしかしたら逆なのか? ヴィーカがアクセサリー屋で目を輝かせていても可笑しいとは思わない。それはつまり、ヴィーカが女であると知っているのでは?
「と、ととと、友達に贈り物を……」
「そうか」
 真っ赤になっているヴィーカを見、それを特に気にするでもなくこちらを見遣るエドアルド。
 ……そこまで気の回るやつではない、か。
「ヴィーカ、もうちょっとかわいいやつにしてみたらどうだい?」
「え、あ、えーっと……いや、これでいいよ。かなり安いし、これでいい! あ、やべ……」
「どうしたんだい?」
「財布忘れた……」
「忘れた? まいったね、私も今は持ってきてないんだけど……あれ、ちょうどいいところに」
「ん、俺か?」
 エドアルドに話を振ってみると、案外素直に懐の財布を取り出し始め、ヴィーカが慌ててそれを制しようとする。
「わ、悪いよそれは! 後でまた来るから……ってもう買ってるし」
「ほら」
「でも……」
「おまえにはいろいろ迷惑もかけたからな。これくらいはさせてくれ」
「………」
「友達、喜ぶといいな」
「うん……喜ぶよ。絶対喜ぶと思う。ありがと、エドアルド」
 包装されたアクセサリーを受け取り、ヴィーカは照れくさそうに鼻をこする。色気も何もない渡し方もエドアルドらしいと言えばそれまでだが、ヴィーカの方もまだまだ幼い。少年のように振る舞っていられるのもあと数年なら、その頃には別の受け取り方も出来るようになるのだろうか。
「若いねぇ」
「それより、ドミニカ。おれはあんたに用があったんだ」
「なんだい藪から棒に」
 わかってかわからずか、ヴィーカを喜ばせる行動をしてみせたのだ。それに免じて、用とやらを聞いてやってもいい。
「付き合ってほしい」
「はい?」
「へっ!?」
 ドミニカよりも驚いてみせるヴィーカを横目にエドアルドは続ける。
「リバスネイル化の一件で、俺は自分の未熟さを痛感した。俺はまだまだ強くならなければならない。もっと修練を積まなければならないんだ」
「ああ、そっちね……」
「力だけじゃない。いつ暴走するかもわからないこの月印と付き合っていくためには、精神的にもより強くなる必要がある」
 かわいそうに、混乱してしまったヴィーカはエドアルドの話なんて聞こえていないようで、あたふたして手の中のアクセサリーを見つめている。
「それには、あんたの助言が必要だ。以前の俺はそれを無視して、結果、ああなってしまった。またそうならないためにも修行に付き合って欲しい」
「それは別にかまわないけど、あんたはもう大丈夫だと思うけどね。あの一件でずいぶんすっきりしたんじゃないかい?」
「それはそうだが」
「肩の力が抜ければ、十分使いこなせるさ。光の英雄シグムントの隣で戦い続けていたんだろう? それくらいの素質はあるはずさ」
「だがしかし……」
 とは言うものの、無碍に断る理由も特にない。傭兵としては、本来の力を出し切ったエドアルドを一度見てみたいというのもある。一度決めたらなかなか動かない頑固さは、見方を変えればエドアルドの長所。真っ直ぐさを取り戻しさえすれば気持ちのいいやつなのだから、それくらの願いは叶えてやるのが年上の女の流儀だろう。
「まあいいか。こっちの修行にも相手が欲しかったところだし」
「そうか、助かる!」
「じゃあ準備があるから皇城の出口で待ってな」
「ああ、わかった」
 まるでおもちゃをもらった子供だな、と嬉々として去っていくエドアルドを見送り、ドミニカはそのことにまだ気づいていないヴィーカの方へと目をやった。
「ヴィーカ、おい、ヴィーカ!」
「お、おう! ……ってあれ、エドアルドは?」
「もう行ったよ」
「え、あれ? あ、え、えーと、その付き合うとかどうとか」
「そうだよ、これからあいつの修行に付き合う約束をしただけさ」
「……修行?」
「そうだよ、修行。じゃあ行くからね」
「あ、うん」
 まだぼんやりとしているヴィーカの反応を見て、ドミニカは頭を掻きながらその場を去る。
「やれやれ、アーヤといい、ヴィーカといい……まだまだ子供だねぇ」

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