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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第九章 「追憶」_10 

 空を仰いでいた。
 分厚い雲に覆われた空は、今にも落ちてきそうな重量感で視界を覆っている。それ以外には何も無かった。
「…………」
 思考がひどく重い。
 身体もそうだ。
 そのことに気づくまで意識は覚醒の境界を行き来し続け、何も考えぬまま、身動き一つせぬまま、男はその場に転がり続けていた。
 気がつけば、雲が赤く染まっていた。金色の雨がそれに混じり、ひどく現実味のない景観を現出させている。
 ようやく覚醒に傾いた頭の中、霧のかかったような記憶を緩慢にたぐり寄せた。
 ここはどこだ。
 俺は何をしている。
 俺は……誰だ。
 時間の感覚がまだ曖昧だった。だから、とにかく一つ一つゆっくりと思い出そうと思考を巡らせる。
 同時に身体を動かそうと試みたが、すぐに疲労が押し寄せてきて動かせない。あまりに重い身体は、記憶の曖昧さよりも怖い。記憶はいずれ思い出せるような気がしていたが、身体が動かないでは、ここから逃げられないからだ。
 ……逃げられない?
 そうだ、俺は逃げていた。
 でも何から? 何故?
 それが思い出せないまま、追われていた恐怖だけが蘇ってくる。身体は動かない。でも逃げなくてはいけない。
 漠然としたそれに駆り立てられ、男は懸命に身体に鞭を打つ。重すぎる疲労感を無視し、無理矢理にでも身体を動かす。
 それに答えてくれた右手が動いた。何かを掴んでいる。知っている気がする感触だ。ともかく、何でもいいからとそれを持ち上げ、ミシミシという首をわずかにそちらへ向ける。
 黒ずんだ何かの塊。ひどく冷たく、堅いようにも柔らかいようにも感じられる感触と、見た目よりもずいぶんと重い印象は、それが何であるかが次第にわかってくると、恐怖にすり替わっていく。
 自分の右手が掴んでいたのは、誰かの右手だった。
 指の一つが欠け、乾いた血に黒く汚れたその手は、肘までしかない。
 千切れた右手。
 思わずそれを落とすと、手に向けられていた意識が周りを認識し始める。
 渓谷だった。
 切り立った崖が見え、その切れ目に太陽が沈んでいく。闇に飲まれて見えなければいいものの、まだ残っていた陽光が、その渓谷の惨状を赤く浮かび上がらせていた。
 一面に死体が転がっていた。
 ある者は甲冑を着込み、ある者はボロが身体にかかっているだけ。
 すぐには数えられぬほどの死体がそこらの石くれのごとく転がり、自分もまたその一つかのように横たわっているのがわかると、男は恐怖に駆られて絶叫した。
 だが声は出ず、代わりに涙が一筋こぼれる。
 発狂しそうなほどの恐怖が全身を突き抜けると、それが軋む感触と一緒になって身体を動かそうとする。
 右足が動いた。左足もだ。足の下の死体を蹴りながら身体を起こそうとする。だが、左手が動かない。
 確認するため、男はまた首を巡らせた。
 自分の左手は、その下から伸びた一本の剣に貫かれていた。引っかかって動かないのならと引き抜いたとき、男は強烈な違和感に襲われる。
 痛みが全くない。
 自分の身に降りかかった異変は周囲のそれより恐ろしく、恐慌を引き起こした男は転がるようにその場から逃げ出そうとする。だが気ばかりが焦ってなかなか進まず、次第に辺りは闇に取り込まれていった。
 ようやく死体が途切れ、這々の体でその場を離れる。後ろを確認したい衝動をねじ伏せながら、足を引きずるようにして男は走った。
 その中で、男は自分の名を思い出した。
 それともう一つ。自分が死んだときの記憶を。

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テーマ: 二次創作:小説

ジャンル: 小説・文学

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2012/04/26 09:56 * 編集 *

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