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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第二章 「鎖を斬る者たち」_10 

 雨が降っていた。
 儀式の翌日には、次の目的地であるフェイエール首長国へと向かおうした解放軍一行だったが、明け方から猛烈に降り始めた雨によってブルガスに足止めされていた。昼を過ぎて勢いは弱まったものの、いまだ降り止まない雨の音は城内のどこにいても聞こえる。
 蒼竜王の御厚意により、解放軍はもう一泊、ブルガスに逗留することになった。
 時間をもてあましたカペルは、いい機会だからと城内を散策していた。ミルシェに声をかけられ、午後のティータイムに付き合うことになったのは、そんな折だった。

「カペル君って本当にシグムント様にそっくりね」
 ブルガスアップルの果汁を入れたアップルティーが甘くて芳醇な香りを漂わせる向こうで、ミルシェはマジマジとカペルの顔を見て言った。
「よく言われます」
「弟さん?」
「違いますよ。……いやでも、もしかしたら」
「ん?」
「僕、孤児だったって言ったじゃないですか。捨て子だったんです。だから親の顔も知らなくて、兄弟がいたかどうかさえ……。だからもしかしたら、生き別れの双子の兄がいたかも、なんて思ったんですけどね」
「……だったら素敵ね」
「でも、シグムントさんと兄弟だったら大変だろうな。優秀な兄と比べられちゃって、僕、ぐれてたかも、なんてね。ははは」
「カペル君なら大丈夫よ。素直でかわいい子だもの」
「か、かわいい、ですか」
「そう、かわいい」
 にこりと笑うミルシェは、アーヤとは違う魅力を持った女性だと思えた。シグムントさんとは、いったいどんな関係なんだろう……。
「そうだ」
 ティーカップを机に置いて、ミルシェはおもむろに立ち上がると、ちょこんとカペルの横に座りなおした。
「へ?」
 間近にミルシェの顔を見てドギマギしていたカペルを、彼女は突然抱擁した。
「えっ、ちょ、ミ、ミルシェさん!?」
「お兄さんは無理だけど、私が今日からカペル君のお姉さんになってあげる」
「お姉さん、ですか?」
「これでカペル君は天涯孤独の身じゃなくなったわよね」
 思いがけない言葉に、カペルの心臓が一つ大きく脈打つ。
「嫌?」
「嫌なわけないですよ……」
「嬉しい?」
「そりゃもう……いろいろ……感触とか」
「え?」
「あは、あははは、嬉しいなー」
「うん」
 家族のいないカペルにとって、その言葉は深く胸をついた。それを思わず隠そうとして軽口をたたこうとしたが、ミルシェの真摯な眼差しの前では引っ込めるしかなかった。
「じゃあこれからはお姉さんって呼んでね」
「いや、それはちょっと。さすがに恥ずかしいですよ、ミルシェさん」
「あらそう? ふふふ、ざーんねん」
 そう言って離れたミルシェは、すっかり冷めたアップルティーのカップを見て、片づけを始めた。この後、シグムントさんとユージンさんのところに行く予定らしい。優しいお姉さんとの語らいも、ここでとりあえず終了だ。
「じゃあ行くね」
「はい」
 カペルはしまりのない顔でそれを見送った。よくわからない人だけど、ミルシェさんっていい人だよね。いろんな意味で。
 そんな天国の余韻に浸っていたのもつかのま、カペルの背中にざわりとした感覚が走った。それはまるで、皮膚の下を虫が這い回ったようなとも言えるし、鋭い刃物が突き立てられたようなとも言える。この感覚は初めてじゃない。確か、神官様の家で――
「……見てたわよ」
「ひぃ!」
 カペルが振り返ると、部屋の端の暗いドアが少し開いていて、そこには殺気をはらんだ目を浮かび上がらせたアーヤが、顔だけを覗かせていた。
「なによ、デレデレしちゃって」
「……アーヤ、ちょっと怖いよ」
「ふん!」と荒ぶりながら、ずかずかと部屋に入ってきたアーヤは、どかっと音を立ててソファに腰掛けた。
 アーヤの視線に促されて、というよりは命令されたように感じて、カペルは対面のソファに座った。
 沈黙。
 それきり黙ってしまったアーヤは、足をプラプラさせながら窓の外を見ている。何か言いたげだが、言いにくそうな顔。
 視線を外したまま、アーヤは言った。
「……捨て子っていうの、本当?」
「うん」
「親の顔を知らないっていうのも?」
「そうだよ」
 また沈黙。
 それに耐えきれなくなり、カペルは自分から話を続けた。
「まあこうやって無事で大きくなったわけだし。案外何とかなるもんだよね。親はなくても子は育つ、って言うし」
「親はなくても……か」
「アーヤ?」
「ううん、なんでもない」
 何がいいたかったのかはわからない。ただ、アーヤもまた自分のことを気にかけてくれているということが、カペルにはありがたかった。
 少しの間を置いて、俯いていたアーヤの視線が再び雨に戻る。
「早くやまないかな、雨。私、あんまり好きじゃないんだ」
「雨がしたたる、って感じじゃないもんね」
「どういう意味よ!」
「いやその……、アーヤは雨っていうより太陽って感じじゃない? こう、ぱーって明るい感じが」
「よく言うわよ……」
「ほんとだって」
 また怒らせてしまった。だけど、何か思い悩んで俯いているよりも、こうやってぷりぷりしている方がアーヤらしいと思えるのは、出会った頃から同じだった。もう少し控えた方がいいとも思うけれど。
 雨が降る。
 アーヤにならって、カペルも窓の外に目をやった。
 太陽に例えたのは嘘じゃない。いつもまっすぐな目の前の少女が、カペルには少しまぶしかった。

【小説インフィニットアンディスカバリー】
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テーマ: 二次創作:小説

ジャンル: 小説・文学

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この記事に対するコメント

はじめまして、Novelテンプレート管理人と申します。
コミュニティー「物書きの会」より伺いました。
今回、ブログ小説作成支援サイトということで、コミュニティのお仲間に入れていただきました。
突然のコメント、どうぞお許しくださいませ。

実は、拙宅「Novelテンプレート」では、 ブログ小説専用のテンプレートを作成し、 共有テンプレートとして登録させていただいております。

ブログは難しいスキルは必要なく小説を公開でき、 作者さまにとっては大変便利な媒体ですが、 読者にとってはブログ形式そのままの小説は読み辛いこと、このうえなく、 残念ながら、オンノベファン対象のアンケートでも、 「作品を読まずに即バックするサイト」の第一位は ブログで公開している作品です。
詳しくは下記の記事をご参照くださいませ。
http://noveltemplate.blog26.fc2.com/blog-entry-138.html

ですから、拙作テンプレートは、まずは、即バックされないために、 ホームページサイトへの擬態を目指したスタイルになっております。

自身も熱烈なオンノベファンであり、だからこそブログ小説の読みつらさに泣かされてきた管理人ですので、ただ見てくれだけではなく、小説を読みに訪れる読者のユーザービリティも重視したテンプレートです。

尚且つ、ユーザーさまの手間を限界まで省いたつくりになっておりますので、 カスタマイズは何も施さなくとも、 ただ小説(記事)を書くだけで、ご自分のブログがHP風小説サイトになります。

よろしければ、ぜひ一度お遊びにいらしてくださいませ。

まずはご挨拶まで
Novelテンプレート管理人 拝

URL | Novelテンプレート管理人 #-

2009/06/23 12:25 * 編集 *

Re: タイトルなし

>>Novelテンプレート管理人様
はじめまして。
ブログで小説を書くと決めたときに、Novelテンプレートさんのものも当然に検討させていただきまして、すごいことをやっているなと感心してはいたんですが、小説とは別にして、今のテンプレートが気に入っているのもあって、今はこの形に落ち着いています。
本文欄が狭くて、小説としては読みにくいかなぁとも思うのですが、グレー地のテンプレートって少ないんですよね。グレーに白が、少なくとも僕の目には一番いいみたいなのです。白地はしんどい……。
テンプレートに関しては、これからもいろいろ試行錯誤していくつもりなので、また検討させていただきますね。開発がんばってください!

URL | らんぶーたん #-

2009/06/23 15:19 * 編集 *

お返事、ありがとうございました。
白地に濃灰色が一番読みやすいと思い込んでいた私にとって、らんぷーたん様のお言葉はある意味、目からうろこでありました。
実はつい先日、これまた一番読みやすいと思い込んでいた、小説本文のワイド画面での表示が、作風、あるいは特定の読者層によっては、かえって読み辛いものであることに気づかせていただいたばかりでした。
ですかららんぶーたんさまのお言葉もまた、実に新鮮かつ、納得でありました。
確かのこちらのブログのグレー地に白は読みやすく、目に優しいですね。
シンプルなレイアウトで、地色、文字色を変えたテンプレートの試作品も、そのうちにつくってみようと思いました。
貴重なご意見、ありがとうございました。
また、お気がむかれた時にでも、覗きにきてくださいませ。
まずは御礼まで
Novelテンプレート管理人

URL | Novelテンプレート管理人 #-

2009/06/25 13:46 * 編集 *

返信

>>Novelテンプレート管理人さん
白地に濃灰色は読みやすいんですが、うちのちょっと古めのモニターだと、白地で目が痛くなるんですよね。小説を書いたり読んだりしていると目は疲れやすいですし、そこが楽だと嬉しいなぁ、なんて。
開発がんばってくださいね。
僕も今のテンプレに満足しているつもりもないので、これだ、と思ったら必ず使わせていただきたいと思っています。

URL | らんぶーたん #-

2009/06/25 16:30 * 編集 *

こんにちは、Novelテンプレート管理人です。
先日は貴重なご意見をありがとうございました。
らんぶーたん様のお言葉を参考にさせていただき、背景色と文字色を従来の拙作とは違えて作成したテンプレ2作(背景濃灰・文字色白/背景薄灰・文字色黒)が、共有テンプレートとして、昨日と本日、承認されました。

らんぶーたん様のご意見があったればこそ世に出る?ことができたテンプレートですので、そのご報告にまいりましたが、決してご利用を強要するものでも、ねだるためでもございません。
けれどもよろしければ、お時間がおありの時にでもチェックしていただき、またご意見など伺えたら、大変ありがたいです。
ご面倒とは存じますが、まずは、ご一考くださいますようお願い申しあげます。

取り急ぎご報告とお願いまで
Novelテンプレート管理人拝

URL | Novelテンプレート管理人 #-

2009/07/15 13:53 * 編集 *

>>Novelテンプレート管理人さま

おお、これはこれは。
とりあえず、今書いている小説が終わるまではこのままでいると思いますが、終わった頃にまた検討させていただきますね。
せっかくブログでやってるわけですから、連載中の作品の雰囲気に合うように、テンプレートを着替えていきたいところです。

でも、まずは器に見合う小説の腕を身につけないと……。

URL | らんぶーたん #-

2009/07/15 15:28 * 編集 *

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