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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第二章 「鎖を斬る者たち」_11 

 晴れていれば城下を見渡せるはずのバルコニーで、カペルはぼんやりと雨を見つめていた。日はもう沈んでいる。分厚い雲の上に隠れた星の代わりに、城の明かりを反射した雨が闇夜に浮かび上がっていた。
「カペル君、こんなところで何をしているんですか?」
「あっ、ソレンスタムさん」
「風邪をひきますよ」
 プレヴェン城で封印軍に囚われていた“星読み”と呼ばれるハイネイル。高名な人らしいが、威張り散らす事も無く気さくに話しかけてくるあたり、俗世を離れて権威とは無縁な隠遁生活を送っていた人らしいとも思える。
「ソレンスタムさんは、僕とシグムントさんを見間違わないんですね」
「そうですね。雰囲気が少し違いますから」
「ですよねー。ははは……」
 カペルの乾いた笑いに微笑を返し、ソレンスタムは窓の外に目をやった。
「……雨ですか。月の見えない空というのも悪くないものですね」
「ハイネイルなのに、そんな風に思うこともあるんですか?」
「ハイネイルといっても、月ばかりを見上げて生きているわけではありませんよ。ときには月を見ずに、我々の生きる大地に目を向けるというのも、何かの発見があるものです」
「へえー、意外だな」
「私が変わり者のせいかもしれませんがね。時には月の神ベラのやりように疑問を持つこともあります。例えば、この月印」
 ソレンスタムの月印が光る。コモネイルのそれと大差ないように見えるハイネイルのそれに、カペルは視線を落とした。
「月印の力の強さは、生まれた時の月齢に左右されます。しかしそれでは格差というものが生まれてしまう。生まれる瞬間など、自分では選べないというのに。新月のもとで生まれた新月の民は月印の所有さえ許されない。月の神ベラは人々に争いの種を残していった、そう考えてしまう事もあります」
「新月の民、ですか……」
「ええ。考えてもわからないことではありますがね」
 ソレンスタムにつられ、ぼんやりと外に目を移したカペルは、不意に彼の視線を感じた。だが気づかないふりをした。
「ところで、ソレンスタムさんはどうして一緒に来たんです? 最初は断ろうとしてましたよね」
 助け出された時にソレンスタムは同行を断ろうとしていたのを思いだし、カペルは尋ねてみた。
「そうですね……。大きな理由は二つあります。一つは私的なことなので伏せさせていただきますが、もう一つはカペル君、君への興味ですよ」
「え、それってどういう」
「そういう意味です」
「……あの、でも僕、そういうのはちょっと」
「ははは。違いますよ。まあ知り合いにそういう人はいますが」
「えっ」
 その時、ソレンスタムの向こう側にユージンの歩く姿を見つけた。ずいぶんと機嫌のよさそうなユージンもこちらを見つけて近づいてくる。
「ああ、こんなところにいたのかい。探したよ、カペル君」
「どうしたんです?」
「どうだい? 一緒にお風呂でも。ブルガス城のお風呂を特別に使わせていただけるんだよ! すごいだろう? こんな機会、滅多にないよ!!」
「お風呂ですか。いいですね。……あっ!?」
 ソレンスタムの顔を見たカペルの目には、変わらない微笑を浮かべるハイネイルが映る。
「さあ、行こう! ソレンスタム様もどうです?」
「いえ、私は遠慮させていただきます」
「そうですか……。さあ、カペル君、行くよ」
 そう言いながら、カペルの腕をぐいと引っ張る。どこか柔な印象とは裏腹に、大柄なユージンの力はカペルが思っているよりも強かった。
「えっ、あ、ちょっ。ソ、ソレンスタムさん!?」
「カペル君、お気をつけて」
「えっ!! ちょっとそれ、どういう意味ですか!!!?」
 微笑を湛えるだけのソレンスタムは何も答えてくれなかった。


 シグムントは、ユージンに半ば引きずられるようにしているカペルと、階段ですれ違った。
「シグムントさん、た、助けて……」
「……」
 カペルの要請に無言で答えたシグムントは、そのまま階段を上り続けた。さらに先、通路の奥にあるバルコニーで、目的の人物を見つける。
「“星読み”殿、話がある」
「……お伺いしましょう」


「いやあ、さすが王城のお風呂は違うねぇ。そう思わないかい?」
「そ、そうですね」
 気持ちよさそうに湯船につかるユージンとはそれなりの距離をとって、カペルは答えた。
「カペル君、どうしたんだい? なんだか元気がないじゃないか。のぼせちゃったのかな?」
 心配した風にユージンがカペルに近づく。カペルは思わず「そ、それよりも!」と大きな声を出して機先を制した。
「明日には出発できるんですか?」
「ん? ああ、雨はもうすぐやみそうだし、明日には出発だよ。カペル君も準備をしておいて」
「次はどこへ行くんです?」
「フェイエール首長国だね。世界で最も暑い国さ」
「フェイエールにも鎖が?」
「そう。それも、プレヴェン城なんかよりも堅固な要塞にだよ。フェイエールの首都の向こう側、オラデア山岳地帯に建設された塔があるんだ。ヴェスプレームの塔と言ってね。僕らの敗戦の地さ」
「敗戦……」
 シグムントが負けるところを、カペルは想像ができなかった。自分がそんな場所に戦いに行くことも同様で、温まったはずの身体が少し冷えるように感じた。
「でも今回はカペル君たちもいるしね。期待してるよ」
「期待されても困りますよ。隙あらば逃げ出すつもりですから。プレヴェン城でだって、僕、何もしてないですしね」
「逃げ出すって……アーヤくんが聞いたら怒るだろうね」
「……絶対に言わないでください」
 モンスターが跋扈するようになった砂丘を抜けて、フェイエールへ。そして山岳地帯を越えて敵の要塞へ。少し前には想像もしなかった激動の日々が続くことになる。隙あらば逃げ出そうというのも本音なら、アーヤが怒るから止めておこうと思うのも本音だ。
 ぼんやりとしか想像のできない戦いに、つかのま、カペルは思いをはせた。
「さあカペル君、背中を流してあげよう。お湯につかるだけがお風呂の醍醐味じゃないよ!」
「……遠慮します」
「そう言わずに。さあ!!」
「いやほんと、勘弁してください……」
 はっきりと想像できたすぐそこの未来に、カペルは懸命に抗った。

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