03« 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.»05

ふであと

  : 

徒然なるままに、もの書き。

スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
スポンサー広告  /  tb: --  /  cm: --  /  △top

第一章 「運命の始まり」_03 

 出口だ。
 三階分を縦貫した吹き抜けの壁に沿って、階段が大きく螺旋を描いている。それが、外への扉と地下を繋ぐ唯一の道だ。
 階段の下に広がるエントランスのような空間の端に、二人は身を隠していた。
「あそこが出口だよね」
「そうね」
 幸いにも、ここまで気づかれた様子はない。あの看守はまだ眠ってくれているようだ。
 敵対する者を閉じ込めておくだけのものという性質からか、それとも封印軍が単に人員不足なのか、大部隊が駐屯しているわけではないようで、見渡した限りでは兵士の姿はまばらだ。今いる場所の対角にある駐屯所とエントランスに数名が見えるだけで、扉の近くにもいるかもしれないが、幸いにも、階段には誰もいない。
 隠れたまま駐屯所とエントランスの兵士をやりすごし、騒がれる前に入り口の兵士を倒して脱出。これなら何とか突破できるかも。
 どうしてこんなことをやっているのだろうという疑問はあるが、それはとりあえず横に置くことにした。口に出したら隣の彼女に何をされるかわからない。
 状況を確認してアーヤを見遣る。視線が交錯し、二人は頷きあった。考えていることは一緒のようだ。それがどこか心地よかった。
 再びあたりを見回したアーヤが左手を持ち上げる。それが下ろされると同時に二人は走り出した。
 が、走り出そうとした瞬間、アーヤが悲鳴を上げて盛大に転んだ。
「きゃあっ!」
「ちょっ!?」
 カペルはアーヤを咄嗟に物陰に引きずり込んだ。暴れる彼女の口を押さえたまま、周辺に警戒の視線を飛ばす。
「大丈夫……かな」
 兵士に変わった様子はない。アーヤの悲鳴は聞こえなかったようだ。
「ゴ、ゴゴゴ、ゴキブ……」
 震えるアーヤの視線の先には、床を這う数匹の黒いものが見える。よく見れば先ほどまで手をついていた壁にも這っている。
 衛生状態がいいとは思ってなかったが、予想以上に悪いらしい。
「なんだ、ゴキブリか。怪我したのかと思っちゃったよ」
「なんだじゃないわよ! もういや……。なんなのよここは。シグムント様もいないし、服は汚れちゃうし、あんなの触っちゃうし……」
 アーヤの鋭い視線が、何故か自分に突き刺さるのを、カペルは感じた。
「全部あんたのせいなんだから!」
「……誰か聞いてください。この人むちゃくちゃです」
 直後、エントランスに警報が鳴り響き、カペルの嘆きを遮った。
「気づかれた!?」
「そんな大きな声出したら、ね」
 ふてくされるアーヤの顔を見ることなく、先ほど確認した兵士達の方に目をやる。こちらに向かってくる様子はないが、慌ただしく動き出したのは見てとれた。
「……こっちには来ないみたいだね」
「さっきのじゃないとすると……」
 牢の方が気づかれたということか。いずれにせよ、出入り口を塞がれてからではまずい。急いで脱出しないと。
 再び目で合図をした二人は、まだ警戒網が整う前なのを確認すると、物陰から一気に飛び出した。

 突然の警報に混乱する兵士達。その隙を縫うように走り抜け、二人は階段を駆け上がる。
 上りきった先に広がる通路には、門番の役目を負う兵士が二人、扉の両脇に立っていた。
 こちらを確認すると、慌ててメイスを握り直し、襲いかかってくる。
「立ち止まっちゃ駄目よ、カペル!」
「そんなこと言ったって……!」
 そう言っている間にも間合いは詰まり、兵士の一人が前方を行くアーヤに襲いかかった。鈍い光を放つメイスが、上段から振り下ろされる。
 その時、アーヤの右手の甲に光の紋章が浮かび上がった。火の粉のような赤い光の粒子がその身に滞留を始め、同時に足下がかすかな炎を帯びると、小さく爆発した。生み出された推進力を利用して加速、身を低くしたアーヤが、メイスの下をかいくぐる。そのまま兵士の脇をすり抜け、後ろに回り込むと、看守を倒した要領でナイフの柄を叩き付けた。かすかな残り火の上に、兵士が崩れ落ちる。
「月印……!」
 光に気を取られたカペルの動きが鈍った。もう一人の兵士がその油断を見逃すことはなく、当然にカペルへの攻撃を止めることはない。
 同様に振り下ろされたメイスを、カペルは慌てて剣で受け止めた。しかし、足は止めざるを得ない。
「カペル!」
「くっ……」
 アーヤの声に応える余裕もなく、不意に叩きつけられた敵意を前に、身体が硬直する。
 夜盗のそれとは違う、訓練された者の攻撃。防ぐのが精一杯だ。
 それでもカペルは、兵士の攻撃の隙をついて、剣を水平に払った。しかし、それは空を切る。強引に敵のリズムに割って入った攻撃は、かわされるとカペルの隙となる。身体が流れた。
 次の攻撃が来る。生命の危険を感じた身体がすくみ、カペルの隙を決定的なものとする。
 ……しかし、次の攻撃は無かった。
 見ると、兵士もまた身を固くしていた。何かに怯えているようだ。
 まるで格上の相手と対峙せざるをえなかったかのように……。
「あっ」
 そして、カペルは気づいた。相手はまだ自分のことを光の英雄だと思っているのだ。そんな封印軍の兵士から見れば、カペルの心許ない一振りも、名も知らないフルート吹きの一振りではなく、英雄の一振りになる。自分が獄につながれる理由になった英雄の影が、今は身を助けてくれる。
 光明を見いだしたカペルは、すぐさま体勢を整えた。
 怯えた兵士の攻撃が大振りになる。それを見て取ったカペルは、タイミングを合わせて、振り下ろされるメイスを剣で跳ね上げた。
 そして、あらわになった相手の懐へ身体をねじ込む。
 不意を突かれ、腹部に体当たりを受けた兵士が悶絶し、頭を下げた。
 下がったあごを、カペルがすかさず剣の柄ではじき飛ばす。
 あごを打ち抜かれた兵士は意識を断ち切られ、派手な金属音と一緒にメイスを落とすと、膝からその場に崩れ落ちた。
「カペル、やるじゃない!」
「はぁ……はあ……まあね」
 久しぶりに正対した敵意をなんとかはねのけ、緊張から一転、身体の力がすっと抜ける。剣をだらしなく下げたまま、カペルはとりあえずの笑みを返した。上気した顔を汗が伝う。
「って言ってる場合じゃなかった。行くわよ。出口はもうすぐ――」
 唐突に言葉を切ったアーヤが、いきなりカペルを突き倒した。
 仰向けに倒れながら、カペルは頭の上を通り過ぎていく何かを見た。咄嗟に身を翻したアーヤは直撃を避けたが、その何かが壁にぶつかり、爆発する。
 薄暗い地下の通路を一瞬の閃光が照らし出し、爆発音が狭い空間に反響する。熱風が追うように辺りを吹き上げ、積もった埃もろとも、爆砕した破片を撒き散らした。
「きゃあ!」
 爆発音に混じってアーヤの悲鳴が聞こえた。カペルをかばって逃げ遅れた彼女は、至近で爆発の衝撃を受け、大きく吹き飛ばされたのだ。
 焼かれた視界を庇いながら薄く開いた目に、壁にもたれかかったまま動かないアーヤの姿が映る。
「アーヤ!」
 急いで身体を起こすと、カペルはアーヤのもとに駆け寄った。
 大きな出血はないが、壁にぶつかったときに頭を打ったのか、意識が混濁しているように見える。
 カペルが支えると、アーヤは重そうに上体を起こす。その拍子に、彼女が小さな悲鳴を漏らした。左の足首が腫れている。
「うう……大丈夫。でも……」
 足首を押さえながらも、彼女の視線はカペル越しに階段の方に注がれる。
 振り返ると、来た道は幾人もの兵士たちによって塞がれていた。追っ手だ。
 兵士に混じって、その中に人間より二回りは大きい巨人がいる。
「トロル……!」

 人の数倍はあろう怪力と、見るからに頑強な体躯。破壊を好む残忍さと、それを象徴するような凶暴な面容から、人々に忌み嫌われているのがトロルという種族だ。封印軍には、そんなやつまでいるのか。
「俺の持ち場にいてくれるなんてな。こいつは運がいい」
 棍棒と大きな樽を抱えたそのトロルを中心に、十人ほどの兵士。それに遅れて、トロルと同じ樽を二人がかりで運ぶ兵士が数組。さっき飛んできたのは、たぶんあの樽なのだろう。トロルの怪力を活かして投げるという原始的な攻撃方法だが、効果は先ほど見たとおりだ。
 とてもじゃないが、自分一人では相手にならない。
「悪いが逃げらんねえよ、英雄様」
 トロルが下卑た笑みを浮かべる。半分開いたままの口から唾液がしたたり落ちているのが、ここからでもよくわかる。
「ここで死んでも事故だよな。ぶはははは」
 他の兵士に語るトロルと、追従の笑みを浮かべる兵士たち。
 その目に、そのにやつきに、カペルは激しい怒りを感じだ。
 それが、幼い頃、自分に向けられ続けたものと同じだったからだ。他人の弱さをあざ笑うことで自分の優越を確認し合い、そうすることでしか己を確立できない連中。それこそが弱さだということも認識できない、いや、認識していても認められないからこそ、無くなることもなく、永遠に続く差別の目……。
 それも人の有り様の一つと考えられる程度の分別はあるつもりだが、蔑む目を向けられて許せるかどうかは別だ。あれを見れば、どうしても怒りが頭をもたげてくる。
「カペルだけでも逃げて」
「何言ってんの!? そんなの駄目に決まってる」
「そんなこと言ったって、このままじゃ……」
「駄目だ!」
 意図せずはき出した怒りが言葉に重なり、アーヤの目が一瞬、怯えを映したように見え、カペルは思わず目をそらした。
 彼女には関係がないのに……。
 怒鳴る相手を間違えている自分が情けなくて、アーヤをうかがうこともできず、カペルは階段の方へと視線をやった。
 にやけ面に相対し、再燃する怒りに任せてカペルはトロルを睨み付ける。
「怖いねぇ。でも、そんな態度もここまでだ」
 不快な笑みを浮かべて「じゃあな、英雄さん」と言うと、トロルは樽を持ったまま大きく振りかぶった。嘲笑うかのように、尊大に、ゆっくりと……。
 このままじゃ、やられるだけだ。またやられっぱなしなのか。
 それは嫌だ。それは――
 拒絶の言葉が額の奥で爆発し、カペルの身体を突き動かす。叫びとともに剣を逆手に持ち直すと、カペルは衝動に任せてそれを投げつけた。
 暴力の快楽にひたるために大きく振りかぶっていた分、トロルの投擲が遅れ、宙を切り裂く剣が距離を詰める。そして、剣は樽がトロルの手を離れるその瞬間を狙ったかのように直進し、突き刺さった。
 樽と剣、互いの速度を相乗した衝撃が、樽の中の物質に猛烈な燃焼反応を促し、トロルの直近に閃光の花を咲かせる。
 破片と炎を孕んだ爆風がトロルもろとも一帯を吹き飛ばし、巨体が階段の下へと跳ね飛ばされた。近くにいた兵士たちも、抗う術を持たずに激しく壁に打ち付けられる。運ばれていた樽はすべて落とされ、押し寄せる破片と炎によって引火し、さらなる爆発が連鎖する。悲鳴はすべて、轟音の中に埋没した。

 誘爆によって引き起こされた狂乱を、カペルは呆然と見つめていた。
 怒りに任せて投げた剣が、意図していなかったにしても、目の前で凄惨な破壊を生み出している。自分の頬を焼く熱風さえこれだ。直近で受けた人はただじゃすまないはず……。
「カペル!」
 アーヤの呼ぶ声が、遊離していた意識を呼び戻し、カペルはそちらを振り返った。辛そうに壁にもたれながら、彼女はすでに立ち上がっている。
「逃げるわよ。肩貸して」
「うっ、うん」
 アーヤの左足は歩けないほどにはひどくはないようだ。だがそれでも、大きな汗が頬を伝っている。
「足、大丈夫?」
「うん。……それより、気にする必要はないわよ。これは封印軍との戦いなんだから」
 視線は前を向いたままだが、彼女は自分の怯えを見透かしていた。
 それを気遣ってくれている言葉に、彼女があんな連中と戦いを重ねてきたんだという事実を確認させられたカペルは、どこか気後れする自分を感じていた。
 とにかく、今はここを離れることだった。

【小説インフィニットアンディスカバリー】
【Prev】/【Next】
スポンサーサイト

テーマ: 二次創作:小説

ジャンル: 小説・文学

コメントの投稿

Secret

△top

この記事に対するコメント

こんにちは。はじめまして。

原作ゲームはまっっったく知らないのですが(ゴメンなさい)、
面白そうな出だしですね。

カペルくんが大物そうで良いです。
がんばって続けて下さい!

URL | ミズマ。 #-

2009/06/01 22:15 * 編集 *

Re: タイトルなし

>>ミズマ。さん
どもです。
原作は、去年、XBOX360で日本のRPGの発売ラッシュがあったんですが、その中で一番売れなかった作品です(笑
面白いので、機会があったらプレイしてみてくださいね。

この小説、実はすでにかなり書きためた分がありまして、処女小説なんですがかなりの長編になってます。よろしかったらお付き合いください!

URL | らんぶーたん #-

2009/06/02 00:40 * 編集 *

△top

トラックバック

トラックバックURL
→http://amaenovel.blog78.fc2.com/tb.php/4-43394d90
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

△top

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。