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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第三章 「新月の民」_07 

 異変にはすぐに気づいた。誰でもすぐに気づく変化だ。
「――翼?」
 背中から炎のように吹き上げる、漆黒の翼。禍々しく黒い光を放つそれを受けて、封印騎士の月印がさらにどす黒く汚れる。口元が歪む。カペルが見えたと思った月印の鎖は、すでに消えていた。
「ふふ、ふはははは。こいつはすごい。力が、力が噴き出してくる!」
「気をつけろ、エドアルド」
「だ、大丈夫です。こんなもの、こけおどしだ!」
 言うや封印騎士の懐に飛び込んだエドアルドは、剣先が届く前にまた弾き飛ばされた。さっきと違うのは、封印騎士がエドアルドとの間をすぐに詰めていたことだ。
 封印騎士がにやりと笑うのが見えた。上半身だけを起こしているエドアルドに、覆いかぶさるように剣を構える。一突きで、エドアルドはやられる。
 金属音。
 カペルは思わず目をそらした。容易に想像できるエドアルドの姿に、全身が凍り付くようになって動けない。
「シ、シグムント様……」
「気をつけろと言った」
 エドアルドは無事だった。
 封印騎士とエドアルドの間にシグムントが割って入り、盾で剣をはね飛ばしていた。シグムントの介入に、封印騎士は即座に距離を取る。
「ようやく真打ちの登場か」
 そう言って、にやりと不敵に笑う。シグムントを前にしても余裕さえ感じさせる封印騎士の変化に、カペルは戸惑うばかりだった。
「エドアルド、二人がかりでやるぞ」
「シグムント様、それはしかし……」
「目的を忘れるな。我々は腕試しをしに来たわけではない」
「は、はい」
 シグムントが飛び出し、エドアルドがそれに倣う。
 シグムントが剣を横に薙いだ。頭部を襲うその攻撃を、封印騎士は小手一つで跳ね返した。反動を利用して身体を回転させ、シグムントは次の攻撃に移る。今度は上段からの攻撃。それも止められる。同時にエドアルドが突きを繰り出す。それは振り払われた剣に簡単にたたき落とされた。封印騎士は剣をそのまま大地に突き刺す。
「離れろ!」
 シグムントが叫ぶ。二人が左右に散った直後、封印騎士を中心に円錐状の石柱が無数の刃となって屹立した。先ほどまでとは桁違いの月印の力。どうなっているんだ……。封印騎士が剣を引き抜くと石柱はたち消えた。
 剣を構え直した二人が再び飛び込もうとする。それを封印騎士は剣の一閃で牽制した。牽制どころか、その切っ先から飛び出した巨大な弧を描く衝撃波に押され、二人は後方に吹き飛ばされる。
「ふはははははは、どうした、英雄殿、お前の力はそんなものか!?」
「くそっ!!」
「落ち着け、エドアルド」
 興奮するエドアルドを諫めながら、シグムントと封印騎士がにらみ合って対峙する。
 異形の翼を手に入れた封印騎士の力は、二人がかりでも征することが出来ないのか。負けるかもしれないと、カペルはこの時、初めて思った。シグムントがいれば負けるはずがないと、特に根拠も無く信じていたのかもしれない。
 そのカペルの気持ちをよそに、シグムントは対峙を続ける。
 そして、大きく息をついた。
「行くぞ」
 シグムントの月印が光る。足元に小さな爆発が引き起こされたかのような加速で、シグムントは一気に間合いを詰めた。封印騎士が迎撃の為に大地に剣を突き立て、再び石柱を屹立させる。それを、シグムントは大きく跳躍してかわした。跳躍というよりは、浮かび上がったと言った方がいい。
「なっ……!」
 一瞬、驚いた表情を見せた封印騎士だったが、すぐに余裕が戻る。空中にいるシグムントは格好の標的だと思ったのだろう。しかし、次の瞬間、シグムントが何もないはずの空中を蹴った。剣を突き出して急降下する。
 咄嗟に前方に転がることで封印騎士はその攻撃をかわした。が、着地したと同時にシグムントが大きく縦に半円を描きながら剣を斬り返した。さらに飛びのいてかわそうとした封印騎士を、剣先から発せられた光の刃が捉える。
「ぐああああ!」
 光の刃を避けきれず、封印騎士は右肩から血しぶきをあげた。剣を落とし、片膝をついて傷口を押さえながら、わなわなと震え始めた。
「く、くそ、これが光の英雄か……。もっとだ、もっと力を!」
 封印騎士の言葉に反応したように、背中の翼がさらに大きく噴き上げた。
「ぐ、ぐぐ、ぐああああああ!!」
 最初に翼が現れた時以上に、封印騎士は苦しそうに身もだえ始めた。これ以上強くなるのか。でも、今なら隙だらけだ。そう思ったカペルは、シグムントの方に目をやった。
 シグムントは封印騎士と同様に片膝をついていた。剣を落とし、口を右手で覆っている。その指の間から何かが零れ落ちた。
 血だ。
「シグムント様!」
 アーヤとエドアルドが駆け寄る。シグムントはそれを左手で制し、そして、震える手で封印騎士を指差した。
 それを見たエドアルドは、きつく口を結び、大剣を構える。
「うおおおおおお!」
 苦しみもがく封印騎士へと駆け、そして大剣を一閃する。
 封印騎士の首が飛んだ。
「あらあら、これからが面白いっていうのに。せっかちな坊やたちだね」
 サランダはまだ余裕の笑みを浮かべている。仲間が死んだんだぞ。そう言ってやったところで、たぶんそれは変わる事はないだろう。
「ふふふ、でもいい土産話ができたわ。英雄さん、身体は大切にね」
 そう言い残して、サランダは消えた。


「カペル……」
「ミルシェさんを呼んできます! 怪我ならそれで――」
 言いながらも、シグムントの吐血が怪我のせいでないことはわかっていた。たぶんアーヤもエドアルドも同じだ。封印騎士の攻撃があたったところを見ていない。だとすると……。
 吐血するほどの病。いつからだろう。みんなは知っていたのか。月印で治せるのか。わからない。
「待て、カペル」
 シグムントが立ち上がった。誰の手も借りずに、一人で。
「鎖を斬るんだ」
「でも……」
「おまえがやるんだ」
「……」
 シグムントがそこまで拘るのはどういうわけか……。
 なんとなく、みんなに期待されているのはわかる。だが、斬れなかったらどうなるのだろう。どんな目で見られるのだろう。期待されている分、その反動が怖い。その恐怖が逡巡を生む。だからといって、シグムントの姿を見れば断りようもない。
 腹は決まったわけじゃない。それでも、カペルはゆっくりと前に進んだ。シグムントの剣を拾い上げる。何の変哲もない、普通の剣だ。自分の剣でやっても同じだろうが、カペルは気休めが欲しかった。
「借りますよ」
「ああ」
 近くで見上げると、月の鎖は思っていた以上に大きかった。思わず息を呑む。鼓動が速くなる。これが僕に斬れるのだろうか。わからない。でも、とりあえずやらなくちゃ……。
 迷いと不安を振り払うように、カペルは鎖の根元に光る橙の光球に、夢中で剣を振り下ろした。
 金属音。
 甲高い音をたてただけで、剣は弾かれた。光球は無傷のまま、何事もなかったかのように光っている。
「……」
 斬れなかった。
 やっぱり、僕には斬れなかった。当たり前だ。そんなことは最初からわかっていたはず。何を落ち込む必要がある。でも……。
「カペル……」
 背中越しにアーヤの声が聞こえた。失望しているだろうその顔を想像して、カペルは振り返ることが出来なかった。
「ほ、ほら、やっぱり無理ですよ。僕に斬れるわけが」
「カペル。集中しろ。自分が鎖を斬る姿をイメージするんだ。お前にならできる」
「でも」
「やってみろ」
 命令しているようには聞こえない。失望しているようにも、期待しているようにも。
 シグムントの言葉に感じるのは……。
 信頼。
 おまえはやれると、無条件に信頼してくれているような、そんな温もりだ。何故かはわからないが、カペルは確かにそう感じた。
 シグムントの言葉に後押しされ、もう一度剣を構え直す。
「集中……鎖を斬る……イメージ……」
 柄に残った温もりが、シグムントの体温を伝えているような気がした。
 イメージ。
 それに合わせて、剣を振り下ろす。
「カペル!」
 今度は手応えがあった。
 光球は最期に強烈な光を発し、剣の通った場所を境に真っ二つに割れて崩れ落ちた。月の鎖は光の屑と化して雪のように舞い散り、跡形もなく消え去った。
「き、斬れちゃった……」
 散りゆく光の雪の中で、カペルは巨大な鎖のあった場所を呆然と見上げていた。
 駆け寄ってきたアーヤが何か言っている。振り返ると、エドアルドが唖然とした面持ちでこちらを見ている。だが、どちらも意識の外にしかない。
 シグムントと目が合った。微笑しているように見える。その眼差しから、カペルは目をそらすことが出来なかった。

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