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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第三章 「新月の民」_08 

 封印軍がやってきたにしては、ショプロン村は大した被害を受けていなかった。月の鎖の影響で、村の水源である湧き水がわずかに汚染されてはいるが、回復には大した時間はかからないだろうという話だ。
 戦いの跡は片付けられ、広場には村人が集められていた。怪我人はほとんどいないらしく、仕事がないとミルシェがふてくされている。
 破壊も強奪もほとんどない。ただ鎖を打ち込んだだけだと村人は言っているが、その表情からは、悪意は感じないが、何かを隠しているような印象も受ける。
 とは言うものの、それは差別の対象であり続けた人たちの自己防衛の本能から、とも言えるかもしれない。彼らにしてみれば、シグムントたちは眩しすぎるほどに月印の恩恵を受けているように見えるだろう。
 いずれにせよ、深く考えてもわからないならと曖昧に判断したカペルは、その疑問をとりあえず横に置くことにした。
「ありがとうございました」
 代表して感謝の言葉を述べているのは、長老といったところか、穏やかな微笑を浮かべる老人だった。
「怪我人はほとんどいなかったということだが」
「ええ。不思議なことに略奪などもありませんでしたな」
「……ならいい」
 シグムントもどこか訝しく感じているようだ。だが無理に聞き出そうとはしない。聞き出す必要も感じていないのかもしれない。
「それでは英雄様。歓待の宴を用意させておりますので、戦いの疲れをお癒しくだされ」
「いや、月の鎖はここだけではない。我々はすぐにフェイエールへ向かう」
「あっ……」
 アーヤが何かを言いかけて、その言葉を飲み込んだ。カペルにも、言いたいことは何となくわかる。シグムントが血を吐いたのはつい先ほどだ。休ませた方がいいに決まっている。
 だが、それを知っているカペル、アーヤ、そしてエドアルドの三人は、口外しないようにとシグムントにきつく言い含められていた。だから言い出すわけにもいかず、かといって、このまますぐに出発するのもどうかと思う。シグムントを休ませるには……。
「あのー」
「どうした、カペル」
「僕、おなか減っちゃったんで、歓待の宴におよばれしたいなぁ、なんて」
「ちょっと、カペル! 何を言い――」
 と、言い出したアーヤに、カペルは目配せをする。アーヤがはっとした表情を見せる。
「鎖を斬るのも手伝ったわけだし、ご褒美がほしいなぁ」
「わ、私もおなかが減ったかなぁ。あはは……」
「おまえたちなぁ、何を――」
 今度はエドアルドに目配せ。彼も察したらしい。
「あっ……。シグムント様。カペルはともかく、せっかく用意していただいたものを断るのもどうでしょうか。フェイエールの方はユージンさんがうまくやってくれているはずです。食事の時間程度なら問題ないのではないでしょうか」
 しばらく考えた後、シグムントは申し出を受ける旨を村長に伝えた。


「カペル、本当はご飯を食べたかっただけなんでしょ」
「ほ、ほんなほとないよ」
「もう、食べながらしゃべらないの。ルカとロカが真似したら、お母さんに申し訳ないわよ」
「……おいひいよ、これ」
 アーヤにキッと睨まれ、カペルは口の中のものを慌てて飲み込んだ。
 結局、シグムントは料理にはあまり口をつけなかった。エドアルドとミルシェを伴って、今は別室で休んでいる。
 ミルシェは、カペルたちが戻ってくると何か感づいたような顔をしていた。ひどく悲しげだった。もしかしたら、シグムントの身体のことも知っていたのかもしれない。自分に出来ることがあろうはずもなく、それなら今は彼女に任せるしかないと割り切って、カペルは食事に専念していた。
 簡素ながらも手作りの温かい料理は、初めて食べる類のものだったが、どこか懐かしさを感じさせるところもある。食材はけして良いものではないが、その分、手間暇をかけて下準備がされているのだろうことは、口中に広がる味が雄弁に語っていた。
「まっ、カペルにしては気が利いてたわね」
 そう言ってデザートのお菓子を頬張るアーヤは、いつになく満足気だ。
「どうもどうも」
 カペルもデザートの果物に手をつける。完熟のレッドベリィはカペルの好物の一つだ。喉を潤す果汁に、なんとなく、アーヤを抱えてモンタナ村へ走ったときのことを思い出す。ふいに顔を上げてアーヤの方を見ると、彼女は真剣な面持ちでこちらを見ていた。
「……ほんとに鎖、斬れちゃうのよね」
「……みたいだね」
 月の鎖を斬ったのはついさっきの出来事で、それなのに、いや、だからこそか、カペルは実感が沸かないでいた。月の鎖が散る様はとても幻想的だったが、手応えはありふれた感触でしかなかった。夢だったと言われても、何も不思議には思わないだろう。
 はっきりしているのは、何か大きなことに巻き込まれつつあるという漠然とした感触だけだ。
「僕、どうなっちゃうんだろ?」
「知らないわよ、そんなこと」
「知らないって、巻き込んだのはアーヤでしょ」
「なによ、文句あるわけ?」
「ないわけじゃないけどさ」
「何?」
「いえ、なんでもないです……」
「……私たちと一緒にいればいいじゃない。どうせ行くあてなんて無いんでしょ」
 それは事実だ。ふらふらとあてもなく放浪の旅を続けていたカペルにとって、目的のある旅はこれが初めてなら、仲間と一緒の旅というのも、初めてだ。居心地の良さも悪さも同居する仲間との旅路。それは新鮮な経験で、口には出さないが、まだしばらくは続けていたいという思いもある。
「仕方ないなぁ。アーヤがそこまで言うなら一緒にいてあげるよ」
「ご、誤解を招くような言い方しないでよね! 別に私が……」
「またまたー、遠慮しなくていいのに」
「かーぺーるー!」
「ほっほっほ。いかがですかな、料理の味は」
「長老様」
 アーヤの平手が振り下ろされる直前に、ショプロンの長老が声をかけてきた。タイミング良く入ってきた長老に救われた形のカペルは、「さすがは年の功!」と胸中で賛辞を送った。
「我々、新月の民は良い食材を手に入れるのにも一苦労でしてな。その分、調理には工夫を凝らしてありますのじゃ。この鬼魚の活け作りのタレなんぞ、先代の長老から受け継いだ古いものでしての」
「そんなに古くて、大丈夫なんです?」
「こういうものは時間が経つほど、味に深みが出るものなのじゃよ、お嬢さん。もちろん、手間もかかりますがの」
「へえー、そういうものなんですか」
「……ときに、次はフェイエールへ向かわれるとか」
「ええ」
「ついでと言ってはなんですが、もし、この村の者たちを見かけたならば、帰ってくるように伝え願えませんか。封印軍が来るということで、子供たちを連れて避難させた者たちがおりましてな」
「そういえば、子供の姿が見えませんね」
「最近は砂丘のモンスターも凶暴化するばかり。無事でおれば良いのですが」
「わかりました。見かけたら声をかけておきますね」
「よろしくお願いします」

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