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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第一章 「運命の始まり」_04 

 牢獄は、深い森の奥に残っていた古城を改築してつくられた砦の地下にあった。
 外は、とうに日が暮れていた。
 混乱の城を離れると、虫の音は近くに、鳥の鳴き声は遠くに聞こえるだけの、静かな世界が続く。
 脱出した二人は、ある程度離れたところで休憩を取った。足の状態が思ったより悪いのか、アーヤがひどく汗を流している。
 踏みならされた道は使えず、足場の悪い獣道を進まなければならなかった。痛めた足を引きずるアーヤには酷な状況だ。
 さらに悪いことに、今日の夜空には雲がない。月明かりは逃走の邪魔にしかならない。
「やっぱり僕が嫌いなんですね……」
 揺れる木々の向こう側に月を見据えながら、カペルは言葉を漏らした。
 夜空を見上げるのは久しぶりだった。いくつもの鎖を大地に下ろしながら、月は今日も夜空の王様然としている。
 夜空だけでなく、この月は、人間の世界の支配者でもあった。
 人々は、月の恩恵の下で生きている。
 月印――
 人は生まれると、まず月の神ベラと契約を行う。信仰と引き替えに、その人が持つ素養と生まれた日の月齢によって、様々な力を与えられる。
 この世界で人々が生きていく上で、その力はなくてはならないものだ。
 その力の象徴が月印だ。身体に浮かび上がる、光の紋章。
 月印を通して、人々は月の力を行使する。
 アーヤが兵士を倒した時に見せたものもその一つだろう。他にも、単純に常人以上の腕力を与えられたり、傷を癒す力を授かったり、言葉を逆さに読む能力なんてものもあるらしい。その現れ方は十人十色だ。
 だが、その契約を行えない人たちもいる。新月の日に生まれた人たちがそれだ。月に嫌われて生まれた彼らは、生涯、月の力を得ることはできない。
 彼らは「新月の民」と呼ばれ、差別の対象であり続けた。


「ごめんね、巻き込んじゃって」
 月明かりのせいか、アーヤの顔は青ざめて見える。
 足首の怪我のためか、それとも彼女の本質はそういうものなのか、少し弱気になっているようだった。
「……らしくないね」
「え?」
「そんな弱気なアーヤはらしくないよ。ちゃんと支えないから痛いじゃない、とか、もうちょっと気を使えないの、とか言ってぷりぷりしてるほうがアーヤらしいよ」
「何よそれ!」
「ははは。そうそう、それそれ」
「なっ……うぅ」
 らしいとからしくないとか、それがわかるほど出会ってから時間が経ったわけではないかもしれないが、ただ、元気な彼女のほうが好ましいと思える。
 こんな状況に追い込まれたのも、それをどこか楽しんでいるのも、そんな彼女に対する興味からかもしれない。
「でもどうしよう。近くの街には、たぶん封印軍が出張ってきてると思う。足がこんなじゃなきゃ、そのままブルガスまで行けるんだけど……」
 ブルガスは、このあたりを治める王国の名前だ。その首都が近くにあるのだが、近くといっても、アーヤの足で歩いて行くには遠すぎる。
 だから、心当たりのあるカペルはこう提案した。
「それならさ、この近くに村があるから、そこで休ませてもらわない?」
「村?」
「モンタナ村って言うんだ。青竜を祀って暮らしている静かな村でさ」
「ふーん。カペルの故郷?」
「違うよ。僕は孤独な旅芸人だからね。前に行ったことがあるんだ。その時に親切にしてもらったんだよ」
「そうなんだ……」
「今からでも歩いていけば、夜明け前につくんじゃないかな」
「そう……」
「アーヤ?」
 妙に素っ気ない態度が気になって様子をうかがってみると、アーヤは肩で息をしていた。汗の量も尋常じゃない。これは、足のせいだけじゃない。明らかに様子がおかしい。
 カペルが、そっと彼女の汗を拭ってやる。彼女は足首ではなく、おなかを押さえていた。出血している。
「……ちょっと傷口が開いちゃっただけよ」
「さっきの爆発で?」
「うん。前に封印軍と戦った時のやつなんだけど」
 四散して仲間の行方はわからない、と最初に彼女が言っていたことをカペルは思い出した。たぶんひどい負け戦だったのだろう。その時に負った傷が、先ほどの戦いで開いたらしい。
「……どうして言わないの」
「だって迷惑かかっちゃうでしょ。気遣ってたら逃げられなかったかもしれないし」
「いまさらそれはないでしょ……」
「ごめん……」
 ひどい汗だ。このまま休んでいても、アーヤの容体は悪くなる一方の気がする。急いでしかるべき治療を受けさせないと、まずいことになるのは確実だった。このまま休んでいても埒がない。
「……よし」
「へっ、ちょ、ちょっと!」
 休憩は終わりと決めたカペルは、右手をアーヤの背中にまわし、左手を膝裏にすべりこませ、おもむろに彼女をすくい上げた。
 いわゆる、お姫様だっこだ。
「何するのよ! 恥ずかしいでしょ、降ろしてよ!」
「大丈夫、誰も見てないから」
「見てるとか見てないとか、そういう問題じゃないの!」
 アーヤの抵抗を無視して進み出す。
「黙ってないと舌かむよ」
 有無を言わせないことを告げると、アーヤは抵抗を止めた。抵抗する余力もないのかもしれない。
「モンタナ村はすぐそこだかたら。急ぐよ。もうちょっと我慢して」
 走れば傷口に響くかもしれない。でも急がなくてはいけない。カペルは出来るだけ慎重に、出来るだけ速く走ることにした。
 初めて抱き上げた女性は、思いのほか軽かった。
 アーヤが、その両手をそっと首にまわしてきた。出会ったときと同じ香りが、鼻をくすぐる。
「……ありがと」
 表情は見えない。腕の中でささやかれた言葉が、ただ、熱を帯びる。
 小さく頷くと、カペルはモンタナ村へと走り出した。

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