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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第一章 「運命の始まり」_05 

 払暁。
 闇に沈んでいた木々が赤く焼けた太陽に照らされ、そろそろと輪郭をあらわにし始める。
 夜が明けるまでには、と言っていたカペルだったが、女性一人を抱えたまま獣道を行くのは思っていたよりも大変で、森の出口が見えてきた頃には、すでに日は昇り始めていた。
「アーヤ、大丈夫?」
「うん……」
 一時のひどい汗は引き、見た目には安定しているように見える。それが良いことなのか悪いことなのかは、カペルにはわからなかった。
 森を抜けると、草原が広がっている。そこを横断すればモンタナ村はすぐそこだ。
 森を抜けきる前に、カペルは休憩を入れることにした。無理をし続けるよりも、適度に休んだ方が速く進めることは、一人旅をするうちに感覚的に理解していた。
 アーヤを適当な場所に座らせると、カペルは近くの木に生っていた果実をもぎ取った。朝露で濡れた赤い皮の下に、芳醇な香りと甘い果汁を閉じ込めたこの果実は、ブルガス地方の名産の一つ、ブルガスアップルだ。野生のそれは、人の手が入ったものよりも甘みは少ないが、もぎたてのみずみずしさを考えれば、むしろこちらのほうが美味い。
 アーヤのナイフを借りると、カペルは器用に皮をむき始めた。乳白色の実から果汁が滴り落ちる。手近にあった大きな葉を皿にして切り分けると、その一つをアーヤの口元へと運ぶ。
「食べられる?」
「ん……」
 アーヤはほんの少しだけ口に入れると、ゆっくりと咀嚼して飲み込んだ。ただそれだけの動作でさえ苦しそうに見える。
「甘いね」
「甘いの嫌いだった?」
「ううん、おいしい。ありがとう」
「どういたしまして」
 なんとか一つを食べきったアーヤだったが、その笑顔は弱々しい。自分の身体もきついが、そう長くも休んでいられないと感じたカペルは、自分の分を急いで口に放りこんだ。
「そろそろ行くよ」
「うん」
 再びアーヤを抱え上げる。ブルガスアップルの甘い香りが少し気になるが、気にせず歩き始めた。
「匂い、付いちゃったね」
「まあ、草原にクマが出るわけでもないし問題ないでしょ」

 草原を抜け、新たな森に入ろうとしている。この森の向こう、わずかな勾配を上るとモンタナ村だ。ゴールは近い。
 だが、こういった逃避行の最後には、最大の障害が待ち構えているものらしい。
 クマが出た。
「じょ、冗談でしょ」
 牢獄で見たトロルとさほど変わらない巨体に、どう猛な牙、爪、それらに似合わない愛らしい丸い目と、額から伸びる一本の角。砂漠に生息するらしいナルヴァル・セラヴェヒールとかいうクマの一種のようだが、何故こんなところに……。
 頭の中で乱れ飛ぶ疑問もとりあえず、気づかれないようにと急いで身を隠す。が、身は隠すことが出来ても、匂いまで隠す術をカペルは知らなかった。先ほど食べたブルガスアップルの甘い香りが鼻をつく。
「食べなきゃよかった……」
 鼻をクンクンとならしたクマがこちらに気づくまで、それほど時間は必要としなかった。二足で立ち上がって巨体を誇示していたクマが、カペル達を見つけるや四足に構え、猛然と走ってくる。
 「食べても甘くないです!」と言ったところでクマにわかるはずもなく、カペルは一目散に逃げ出した。
 逃げると言っても、人一人を抱えたまま逃げ切れるほどクマの足は遅くない。あっという間に距離を詰められる。
 クマの爪がカペルの背中を捕えようとしていた。

「ルカ、クマさんが誰か襲ってるよ」
「ほんとだ……ねぇロカ、あれカペルじゃない?」
「あっ、カペルだー、おーい」
 カペルが走る道の先に、小さな子供の影が二つ見えた。無邪気に手を振る子供達の影に気づいていても、手を振り返して答える余裕はない。
「ルカ、ロカ!」
 同じ顔つき、同じ背格好をした子供が二人。帽子の形と服の色に違いがなければ見分けがつかないのは、彼らが双子だからだ。カペルが以前モンタナ村を訪れたときにお世話になった、青龍の神官の子供達だった。
「ちょっと待ってね。うーん、それ!」
 青い服を着た方の子供が手に持ったタクトを振ると、浮かび上がった月印から光の粒子が飛び出した。それは、カペルの横をすり抜けるように飛び、クマに直撃すると、拡散し、猛る巨体を包み込んだ。
「へへへー、待て!」
「待て!」
 二人がそう言うと、うなりをあげていたクマが突然足を止めて立ち上がり、人が変わったかのように、この場合、クマが変わったかのようにだが、その場に座り込み、毛繕いを始めた。
「もう大丈夫だよー」
「はぁ、はぁ……助かったよ、ルカ、ロカ」
「えっへん!」
 二人のおかげで助かったらしい。小さな胸を反り返らせている青い服の男の子はルカ、隣で飛び跳ねている赤い服の女の子はロカだ。
「さすがは天才獣使いだね」
「ロカも頑張ったんだよ!」
「はは……ありがと、天才召喚士のロカちゃん」
「うんうん!」
 二人はこの地方でも有名な月印使いで、まれに見る天才児と言われている。興奮するクマを手なずける様を見ればわかるように、それは確かに真実なのだが、中身はまだまだ子供だった。
「ねぇカペル、そのきれいな人、誰?」
「あっ、そうだ。神官様はおうちにいる!?」


「よく頑張ったね、カペル君」
 アーヤの治療をしてくれているのは、青龍の神官である、ルカとロカのお父さんだ。癒しの月印でアーヤの傷口を治療する。添えられた両手が発する白い光はどこか温かく、月の力には思えないなと、カペルはそれを見つめていた。
「君が頑張ったおかげで、この娘は助かったんだ。男を上げたね」
「ははは……どうも」
 男が上がったかどうかはともかく、アーヤは助かった。そして自分も。
「これでとりあえず傷口は塞がった。ただ、身体がかなり弱ってるから、しばらくは安静にして様子を見よう」
「はい。ありがとうございます」
 カペルの肩をぽんと叩くと、ルカとロカを促して神官は部屋を出て行った。こうやってねぎらわれるのはいつ以来だろう。肩に残った余韻に充足感を感じて、カペルは大きく息をついた。部屋には今、カペルとアーヤ、二人だけだ。
「よかったね。もう大丈夫だって」
「うん」
 良くなったおかげか、アーヤの頬が紅潮していた。気の強い女の子、という最初の印象にはほど遠いが、それでも元気を取り戻した事にカペルは安堵した。
「……何よ」
「しおらしいアーヤも見納めかなと思ってね」
「バカ」
 ぷいと横をむいたアーヤを見て安心したのか、押さえ込んでいた疲労が一気に吹き出す。
「僕もちょっと休ませてもらおうかな」
 押し寄せてきた睡魔に負けて腰を下ろすと、ベッドにもたれるようにして、カペルはそのまま眠りに落ちた。

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