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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第三章 「新月の民」_22 

 ファイーナが用意してくれた風呂は、家の裏にある石積みの中にあり、簡易の露天風呂と言った風情だった。周りには衝立が立てられていて、外からは見えないようになっている。
 とはいえ、屋外で裸になることにアーヤは少なからず抵抗を感じていた。
 だがそれもお湯に入るまでだった。
 フェイエールには入浴の習慣が無い。汗や汚れを流すだけということが多く、こうして湯につかることは滅多に無いのだ。だからと言って嫌いというわけではなく、満天の星空を見ながら湯につかることが気持ちよくないわけがない。
「はぁ~、気持ちいい~」
「お湯加減、どうです?」
 諸々の準備をしてくれていたファイーナは、隣にかしずくようにして湯加減を見てくれている。
「うん、最高。ありがと、ファイーナさん」
「ケルンテンに行ったときなんです。向こうの人は、毎日お風呂に入って身体を温めるっていうのを聞いて、うちでもやってみようと思ったんですよ」
「へえー、うちにも露天風呂、作らせようかしら……」
「えっ?」
「あ、ああ、なんでもないの。でもケルンテンに行ったって、ファイーナさんも行商を?」
 新月の民が行商のようなことをしているという話は、先日、カペルとしたばかりだった。
「昔、村の人について行っただけですけどね。今はちょっと……」
「オラデアがこんな状態じゃあね」
 モンスターが跋扈するようになってからは、交通は不便になった。新月の民ならなおさらだろう。
 アーヤがフェイエールを飛び出して解放軍に参加したのは、これが理由だった。
 悪くなる一方のフェイエールの現状を、自分の力でなんとかしたい。しなきゃいけない。そう思い詰めた結果、ちょうどヴェスプレームの塔攻略に向かった解放軍一行に、半ば無理矢理といった形でアーヤは参加した。
 解放軍の中には危ぶむ声もあったが、それは実力で黙らせた。弓の腕には自信があった。十分戦えるとも思った。ただ、その最初の戦いは、解放軍の最初の敗戦になってしまった。
「でも、アーヤさんたちがヴェスプレームの塔の攻略に成功すれば、モンスターもいなくなるんですよね」
「そうよ。もうすぐだから期待してて待っててね」
 今度こそはやれる気がする。そう思えるのは……やっぱりあいつのせいなんだろうか。
 カペル……。
 アーヤが物思いからふと我に返ると、ファイーナも何か考え事をしていたのか、黙りこくっていた。村に着いてからずっとこんな感じだ。
「どうしたの?」
「……やっぱりカペルさんも連れて行くんですよね」
「ええ」
「カペルさんは、確かに剣の扱いも上手だし、頼りがいもあります。だけど」
「あいつに頼りがい、ねぇ」
「ありますよ! でも……カペルさんに戦いは似合わないと思います」
「そうかな?」
「そうですよ……」
 カペルの話をするファイーナを見ていると、アーヤはふいに尋ねてみたくなった。カペルのことをどう思っているのかと。嫌な予感もするが、考え始めると我慢できなくなってくる。
「……ファイーナさん」
「はい?」
 それで名前を呼んでみたはいいが、継ぐ言葉が出てこない。黙ってしまうとさらに言いにくくなるのがわかっていても、アーヤは言い出せずにいた。カペルの顔が思い浮かび、自分が言いにくいと感じていることに腹が立って、彼に当り散らしてやりたい気分になる。
「どうしたんです?」
 黙っていても仕方がない。意を決して、アーヤは続けた。
「カペルのこと、その……どうなのかな、ってさ。もしかして気に入っちゃったりしたのかなー、なんて……」
 はっとした顔を見せると、ファイーナは俯いてしまった。
 湯気で表情がよく見えない。
 ただ、沈黙はそう長くは続かなかった。
「……うん、そうかも」
「そう」
 心臓が一つ強く打つ。湯に温められたのとは別に体温が上がったような気がして、アーヤは思わず下を向いた。湯に浮かんだ月と、湯に沈んだ自分の身体が同じように揺れて見えて、意識をそちらに逃がす。
「アーヤさんはどうなんです? カペルさんのこと、どう思ってるんですか?」
「私は……」
 言いかけたときに、衝立の向こうで物音がした。
 アーヤが反射的に身を丸め、それをかばうようにファイーナが物音のした方向とアーヤの間に割って入った。
「誰?」
「にゃあ~」
「……猫?」
 鳴き声は一度きりで、気配は遠ざかっていくのが感じられた。もしカペルが覗きに来たのだったら月印の力で焼き払ってやろうと思ったが、どうやら違うらしい。
 ほっと胸をなで下ろすのもつかの間、ファイーナの問いに答える途中だったことを思い出して、なで下ろした胸が苦しくなる。
 話が途切れたせいもあって、逆に言い出しづらくなってしまった。
 ファイーナも同じらしく、お互い、視線をそらしたまま黙ってしまう。
 沈黙。
 あたりに聞こえる虫の音がやけに明瞭に感じられる。
 湯船の中で揺れる湯が、ちゃぷちゃぷと音を立てている。
 どれくらいそうやって黙っていたのだろう。沈黙を破ったのはファイーナだった。
「……じゃあ、食事の後片付けも残ってるから、私、行きますね」
「う、うん」
 アーヤはほっとして、身体の力が抜けるのを感じた。ファイーナの質問に、今はまだ答える自信がない。自分でもわからないのだ。
 ファイーナが背を向ける。
 沈黙が気まずかったのもあって、アーヤはなんとなく声をかけようとした。
「それじゃあ、ファイーナさ――」
「私、負けないから」
「あっ……」
 絶句したアーヤは、ファイーナが去っていくのを黙って見ているしかなかった。
 アーヤはしばらくの間、呆然としていた。
 それから、隠れるようにして口元まで顔を湯につけると、溜息を漏らした。目の前で気泡が生まれ、そして次々と消えていく。
「聞かなきゃよかった」
 心のもやもやは、気泡のようには消えてくれない。

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