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ふであと

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徒然なるままに、もの書き。

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第一章 「運命の始まり」_06 

「カペル、ねぇ、カペルってば!」
「ふぁ……、ルカ、ロカ、おはよう」
「おはようじゃないよ、まったく。もう夜なんだぞ」
「夜なんだぞ」
 部屋に降り注いでいた太陽の代わりに、松明の光が温かく揺れている。
 眠い目をこすってあたりを見回し、同じ松明でも牢にいた時の印象とはずいぶん違うもんだなと、カペルはぼんやりとそれを見つめた。窓の向こうには、夜空の王様の姿も見えている。
「もうすぐご飯だから起こしてこいって」
「カペル、起きろー」
「起きたよ。起きたから静かにして、ね」
 ベッドの中では、アーヤが寝息を立てていた。彼女はまだ寝かせておいた方が良い。
 さっきよりもさらに顔色は良くなり、苦しそうな様子も感じられない。無防備な寝顔にどこかあどけなさを感じたカペルだったが、そう感じたことで、自分が彼女の年齢を知らないことに気づいた。年齢はおろか、解放軍のアーヤさん、ということ以外は何も知らない。そんな彼女のためにずいぶん無茶をしたもんだと、カペルは自分に感心していた。
 目覚ましにと涼を求め、開け放たれていた窓に近づく。ひんやりとした風が頬を撫でた。
「んー、気持ちいいなあ」
「ねえねえカペル」
「ん、何?」
 振り返ると、ルカとロカがにやにやと笑いながらにじり寄ってくる。何か良からぬ事を考えているような気しかしなくて、カペルは一歩後ずさりした。
「アーヤはさ、カペルのカノジョなの?」
「……ルカくん、いきなり何を言い出すのかな?」
「だって、オヒメサマダッコだよ、オヒメサマダッコ!」
「ロカさんまで……」
「アイがなきゃできないぜー」
「できないぜー」
「はは……意味わかってるのかな」
 目を輝かせている双子を見ても、カペルには苦笑いをするしかない。
「アイがなきゃできないかどうかはわからないけどさ、まあ大変だったよ、うん。ああ見えて結構重いからね。平原を走ってる時なんてもう腕がパンパンでさ。もうちょっとで、こう――」
 その時、ベッドの上にゆらりと立ち上がった人影が、カペルの視界に飛び込んできた。その影は、どこからか取り出した弓におもむろに矢をつがえると、まるで獲物を威嚇する獣のように、ギリギリと弓のしなる音を響かせた。
「ア、アーヤさん、どこからそんなものを……」
「カペル……誰が重いって?」
「いや、ちょ、そ、それはその」
「問答無用!」
 アーヤの怒りから解放された矢が、松明が演出していたゆるやかな部屋の空気を無残にも切り裂く。どこか冷たささえ感じさせる青白い炎で軌跡を描きながら、矢は、思わず目を瞑ったカペルの頬を掠めて、窓の外の岩肌に突き立った。崩れ落ちる岩の音を聞いたカペルが反射的に振り返ると、岩は突き立った矢を中心に円錐状に抉られ、無残な姿をその場にさらしていた。
「アーヤさん、あなた、本気ですね……」
 おそるおそるアーヤに視線を戻す。二撃目が用意されていれば、かわす術はない。不用意に漏らした言葉が呼び込んだ突然の事態に、自分の運のなさが半分、女心を理解していなかった未熟さが半分と、埒もない原因の分析に耽ったカペルだったが、目の前のアーヤが崩れ落ちるのを見て、我に返った。
 治療したと言っても完治したわけではない。無理をすれば、痛みはぶり返す。
 カペルは嘆息を漏らすと、ベッドに横たわるアーヤに毛布をかけてやった。
「まったく、無茶するんだから」
「カペル、あんた許さないんだから……」
「ごめんなさい」
「治ったら覚えてなさいよ……」
「はい。だから今は休んで、ね」
 アーヤにもう一度毛布をかけ直すと、背中に刺さる好奇の視線にいたたまれなくなり、カペルは夜風を求めて外に出た。

 
「うわあ、ひどいな」
 崩れ落ちた岩肌を手でなぞる。それが自分に向けられた攻撃の跡だということが何故か可笑しくなり、カペルは笑っていた。
「……さて、これからどうしようかな」
 成り行きでここまで来たはいいけれど、傷が治れば、アーヤは解放軍に合流するだろう。自分はまた元通りフルート吹きとして旅を続けるのか、と考えたところで、フルートは封印軍に没収されたままなことを思い出した。
「うーん、弱ったなぁ」
 満天の星空に悠然とたたずむ月一つ。悔しいけれど、この夜空は美しい。こんな夜にフルートがないことが残念だと思うのは、フルート吹きとしては当然のことだろう。が、無いものは仕方がない。
 夜の風に吹かれながら、頭の中に響くメロディを口ずさんでいると、「新曲かい?」と穏やかな声が聞こえた。
「神官様」
「神官様は止めてくれって言っただろ?」
「じゃあ、リュウカさん」
「うん、それでいい」と言うリュウカの顔を家から漏れた明かりが照らし、以前会ったときと変わらない穏やかな笑みが見えた。
「今日は頑張ったね。カペル君らしくないじゃないか」
「ひどい言われようですね」
「ははは、ごめんごめん」
「僕だって、やる時はやりますよ」
「そうだね」
 青龍を祀るこの村では、その神官は村長と同義だ。だがこの人は、そう言った慣習からではなく、穏和な人柄と人望によって村の中心にいる。カペルもまた、村人と同じように彼のことが好きだった。
「カペル君、しばらくはここにいるんだろ。また子供たちに旅の話を聞かせてやってくれないか」
「ええ、いいですよ。その代わり、たっぷりお世話になりますから」
「ははは。よろしく頼むよ。あの子たちには、もっと広い世界を見せてやりたいんだ。こんな世の中だからこそね」
 そう言うと、リュウカはどこか寂しげな表情を残して戻っていった。
「リュウカさん?」
「もうすぐ夕食だから、そろそろ家に戻りなさい」
 何か違和感がありながらも、その背中に「はい」と返事をすると、さっそく夕食が出来たことを告げるルカとロカの声がした。それが聞こえたのか、ひさしぶりに腹の虫が絶叫している。思えば、まともな食事にありつくのは久しぶりだ。
「はいはーい、今行きまーす」
 飛び跳ねている双子のシルエットに向かって、カペルは手を振った。
「……とりあえずごはん、かな」
 先のことはまだわからないけれど、アーヤが良くなるまではここにいさせてもらおう。それだけを決めて、カペルはみんなの待つ家に帰る。帰る、ということに慣れていないせいか、少し気恥ずかしい気もするが、それも悪くないとカペルは感じていた。それに、大勢で囲む食事は、たぶん嫌いじゃない。

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